化石の成り立ちに、歯周疾患抑制の鍵がある!?

日本歯周病学会認定医
姫路市開業:河田 克之

歯周疾患進行・治癒に及ぼす歯質の影響 W

象牙質の加齢変化と化石の成因

キーワード:歯周疾患,象牙質,化石
姫路市歯科医師会会報 39-41 1996年 4月

 カリエスの進行速度は、永久歯に比べ乳歯の方が速く 参考文献 1)、 同じ永久歯でも萠出直後の幼若な永久歯ほど速いことが知られている。

その理由として、1つは裂溝の深さによるプラークの停滞に起因するといわれている。 そしてもう1つの理由は、歯質の相違。つまり、石灰化程度の違いである。

エナメル質は元来石灰化程度が高く、加齢に伴う石灰化の更新が少ないのに対し、 象牙質の変化は著明である。

一般にカリエスの進行速度を論ずる際に問題となるのは、 象牙質齲蝕の進行速度である。象牙質の加齢変化として、器質中の有機質(コラーゲン)が減少し、 より石灰化程度の高い硬化象牙質に変化していくことは周知の事実である 参考文献 2,3)(図1,2)。


図1.32歳 男性歯根部象牙質の石灰化程度が比較的低く
研磨標本を透過光で観察すると 黒色部分が多く観察される。
図2.61歳 女性 加齢に伴い硬化象牙質へと変化する。
硬化象牙質は正常象牙質に比べ 無機質含有量が高い。


 年と伴に、歯が黄色くなることは審美的には問題ではあるが(図3,4)、 生体防御反応としては喜ばしいことである。象牙質の石灰化程度の高いの色調が、 やや黄色味を帯びて審美的には劣るもののカリエスに対する抵抗力が高いことも周知の事実である。 フッ素塗布による石灰化更新は、日常臨床にも取り入れられているが実際の効果には疑問が残る。

図3.60歳 男性 咬耗・摩耗が著明で色調は黄褐色。
カリエスや歯周疾患に対して 抵抗力が強い。
図4.加齢に伴う象牙質の石灰化が著明で
歯髄の狭窄も認められる。反面、外力に脆く
歯根破折を引き起こすこともある。


 歯牙の石灰化更新のメカニズムが今1つ不明瞭なようである 参考文献 2)

一般に、血液中のカルシウムを取り込んで結晶が成長していると思われているが、 あながちそれだけではなさそうな事実が存在する。

その1つの事実として、化石になった恐竜の歯が挙げられる。すなわち、化石になった歯の象牙質は、 エナメル質と同程度の石灰化程度なのである。

この件について一条 参考文献 4)は、 「本来恐竜の歯においても、エナメル質の方が象牙質よりも石灰化が良いものと思われる。 しかし、長い間地下に埋没されている間に、 象牙質と骨の有機成分であるコラーゲン線維が消失し、 それにともなって象牙質と骨においても結晶が通常の大きさからさらにエナメル質の 結晶とほぼ同じ大きさまで発育増大するために、化石となった恐竜のエナメル質と象牙質とでは 両者の石灰化度にほとんど差がなくなり、X線による透過度がほとんど同じ程度となって 出現しているものと思われる。」と述べている。

更に、カルシウムの供給源について、「象牙質と骨の結晶は下地をなすコラーゲン線維が 消失した後、本来の結晶がさらに発育増大してエナメル質の結晶とほぼ同じような形態と 配列状態になっているが、これらの結晶を構成する hydroxyapatite 結晶の構成要素となる Ca, P, OH は当然周りの土壌から骨や歯を貫いて侵入してくるか、あるいは既存のものから 提供されることになる。」と推測している。

つまり、象牙質は無生物的にも石灰化を 更新しているということである。そのメカニズムは、他の化石の成因と共通していると思われる 参考文献 5)


 “月のお下がり”と銘々された何ともロマンティックな化石(図5)は、 巻き貝の殻の部分は存在せず、中身の軟体部分だけがメノウやオパールに置換された 美しい化石である。貝殻とか、骨,キチン質などは分解しにくく化石になり易い 参考文献 5)。 ところがタンパク質部分が化石になるのはどうしても理解し難いものがある。

元来、炭素(C)にはあらゆるものを吸着する性質がある。 蛋白質の構成成分である炭素が、 一定条件の元で保存された場合、周囲にある元素を取り込み土中に保存されたのが “月のお下がり”である 参考文献 6)。 従って、周囲の土壌に含まれる成分によってメノウやオパール,時として黄銅鉱やウラン鉱 であったりする。先述の恐竜化石では、より一般的に存在するCa,P,OHをCが取り込んだ 結果だと思われる。

 話を口腔内に戻すが、抜髄した歯が経年的に石灰化を更新して透明(外見的には黄褐色) に変化し、堅く,脆く変化し臨床上歯根破折等の原因となることは、我々臨床医が少なからず 遭遇する事実である(図6)。

図5.メノウ化した巻き貝化石 図6.42歳 女性 抜髄後10年 外見的には黄褐色であるが、
抜去歯牙を切断すると 石灰化程度の高い琥珀色を呈す。


無髄歯の石灰化のメカニズムは、先程の化石と 共通するのではなかろうか。つまり、象牙質中の蛋白質が炭素(C)に分解され、 そのCが周囲に存在するCa,P,OHを取り込み hydroxyapatite 結晶が発育増大しているものと 思われる。

 有機質を含まないエナメル質に類似した象牙質を造ることは、カリエスや歯周疾患 参考文献 7) を防止する上で有効な手段であると思われる。

勿論、抜髄には根尖病巣や歯牙破折等を引き起こすリスクがあるので、 これを目的とした抜髄は当然慎むべきである。しかし、この事実を応用した象牙質の 石灰化更新は今後の研究課題である。


化石の成因