日本歯周病学会認定医 |
姫路市開業:河田 克之 |
象牙質の加齢変化と化石の成因
その理由として、1つは裂溝の深さによるプラークの停滞に起因するといわれている。
そしてもう1つの理由は、歯質の相違。つまり、石灰化程度の違いである。
エナメル質は元来石灰化程度が高く、加齢に伴う石灰化の更新が少ないのに対し、
象牙質の変化は著明である。
一般にカリエスの進行速度を論ずる際に問題となるのは、
象牙質齲蝕の進行速度である。象牙質の加齢変化として、器質中の有機質(コラーゲン)が減少し、
より石灰化程度の高い硬化象牙質に変化していくことは周知の事実である
2,3)(図1,2)。
図1.32歳 男性歯根部象牙質の石灰化程度が比較的低く 研磨標本を透過光で観察すると 黒色部分が多く観察される。 |
図2.61歳 女性 加齢に伴い硬化象牙質へと変化する。 硬化象牙質は正常象牙質に比べ 無機質含有量が高い。 |
図3.60歳 男性 咬耗・摩耗が著明で色調は黄褐色。 カリエスや歯周疾患に対して 抵抗力が強い。 |
図4.加齢に伴う象牙質の石灰化が著明で 歯髄の狭窄も認められる。反面、外力に脆く 歯根破折を引き起こすこともある。 |
一般に、血液中のカルシウムを取り込んで結晶が成長していると思われているが、
あながちそれだけではなさそうな事実が存在する。
その1つの事実として、化石になった恐竜の歯が挙げられる。すなわち、化石になった歯の象牙質は、
エナメル質と同程度の石灰化程度なのである。
この件について一条
4)は、
「本来恐竜の歯においても、エナメル質の方が象牙質よりも石灰化が良いものと思われる。
しかし、長い間地下に埋没されている間に、
象牙質と骨の有機成分であるコラーゲン線維が消失し、
それにともなって象牙質と骨においても結晶が通常の大きさからさらにエナメル質の
結晶とほぼ同じ大きさまで発育増大するために、化石となった恐竜のエナメル質と象牙質とでは
両者の石灰化度にほとんど差がなくなり、X線による透過度がほとんど同じ程度となって
出現しているものと思われる。」と述べている。
更に、カルシウムの供給源について、「象牙質と骨の結晶は下地をなすコラーゲン線維が
消失した後、本来の結晶がさらに発育増大してエナメル質の結晶とほぼ同じような形態と
配列状態になっているが、これらの結晶を構成する hydroxyapatite 結晶の構成要素となる
Ca, P, OH は当然周りの土壌から骨や歯を貫いて侵入してくるか、あるいは既存のものから
提供されることになる。」と推測している。
つまり、象牙質は無生物的にも石灰化を
更新しているということである。そのメカニズムは、他の化石の成因と共通していると思われる
5)。
元来、炭素(C)にはあらゆるものを吸着する性質がある。
蛋白質の構成成分である炭素が、
一定条件の元で保存された場合、周囲にある元素を取り込み土中に保存されたのが
“月のお下がり”である
6)。
従って、周囲の土壌に含まれる成分によってメノウやオパール,時として黄銅鉱やウラン鉱
であったりする。先述の恐竜化石では、より一般的に存在するCa,P,OHをCが取り込んだ
結果だと思われる。
話を口腔内に戻すが、抜髄した歯が経年的に石灰化を更新して透明(外見的には黄褐色)
に変化し、堅く,脆く変化し臨床上歯根破折等の原因となることは、我々臨床医が少なからず
遭遇する事実である(図6)。
図5.メノウ化した巻き貝化石 | 図6.42歳 女性 抜髄後10年 外見的には黄褐色であるが、 抜去歯牙を切断すると 石灰化程度の高い琥珀色を呈す。 |
有機質を含まないエナメル質に類似した象牙質を造ることは、カリエスや歯周疾患
7)
を防止する上で有効な手段であると思われる。
勿論、抜髄には根尖病巣や歯牙破折等を引き起こすリスクがあるので、
これを目的とした抜髄は当然慎むべきである。しかし、この事実を応用した象牙質の
石灰化更新は今後の研究課題である。