歯髄の有無が、歯周外科処置後の予後を左右する。

歯周疾患進行・治癒に及ぼす歯質の影響 T

−有髄歯と無髄歯−


河田克之
Katsuyuki KAWADA
●姫路市・開業



 歯周疾患進行と治癒には口腔清掃状態、宿主の抵抗力、細菌叢などの相違のほか、 外傷性咬合、不良補綴物の有無その他数多くの要因が複雑に絡み合っていると考えられており、 各方面から多くの研究がなされているが、その因果関係がいまだ明確にされていないのが現状である。

一方、歯質の変化に対する研究も積極的に行われているが、その研究はほとんどがセメント質に 限られており根部象牙質の変化に着目した研究はきわめて稀である。

その理由は、象牙細管への細菌の侵入が確認されている一方、生体に為害作用のあると思われる エンドトキシン、LPSの浸透はセメント質の比較的表層に留まっているとの結論によるものと 思われる。

 歯槽骨吸収および骨新生阻害の原因が、これらの物質にのみ左右されているとするならば、 徹底したルートプレーニングは無用との結論もありうるし、事実、日々の臨床においても過度の 根面処理が歯周疾患進行を助長するケースに度々遭遇する。

これは、徹底したルートプレーニングによる象牙細管の露出に関係すると考えられるが 必ずしも全症例に共通しない。 この臨床事実が根面処理のメルクマール決定を一層困難なものにしている。


 一般に、歯周外科処置の適応はP程度とされておりP 以上の歯は抜歯とされているが、 河田歯科医院ではP程度の歯を中心に徹底したルートプレーニングを 含む外科処置を行っている。その結果、5年後の歯牙生存率は92%である。

各種大学、研究機関における研究発表によると、歯周外科処置後5〜24年間に、8.3〜56.9%の歯が 失われたと報告されている。

加藤1)らによると21%の歯が術後平均 1.9年後に外科的な再処置が必要になったとし、 4.5%の歯が平均 5.3年後に失われたと報告している。

 当院の徹底したルートプレーニングの悪影響が有髄歯において特に顕著である事実に着目し、 その予後について臨床観察した。さらに、1992年度河田歯科医院をおとずれた1160名のうち、 5年以上以前来院記録の存在する 424名中Fopの既往を有する 108名の予後を調査したところ 興味深い結果が得られたので報告する(図1〜3)。

図1.歯周外科処置後の経過 図2.歯周外科処置後の経過
骨吸収阻止率;術後5年間の骨吸収量が1mm以下であった歯の割合
(歯根破折,根尖性歯周疾患進行による骨破壊をのぞく)
図3.失敗(抜歯)の原因
予後不良の有髄歯20本の内10歯が、術後3年
以内に抜髄され、以後良好な予後を得ている。

抜歯した無髄歯の内73%が歯周疾患以外の理由による



第11回兵庫県歯科医学大会  1993年 6月20日
  兵庫県歯科医師会館
  (抄)歯界月報  507: 1993年 8月