本文は、“アパマンショップ オーナーズ新聞
2004年 4月5日号”に掲載されたものです。

新・健康発見


あきらめないで、歯槽膿漏治療
歯医者の本音
「歯槽膿漏  あんなもん、何したって治るはずない。せめて50まで保たせたら“御の字”やでー。苦労してブラッシング指導しても、ちょっと良くなったら来なくなるし…」  これはある歯科医に聞いた本音です。身勝手な歯科医の一方的な発言かもしれませんが、何といっても実際に治療にあたっている専門家の意見ですので現実の歯科医療レベルを認識する上で注目に値します。現実を正しく認識すれば、おのずと正しい利用方法とか治療に臨む心構えが導きだされてきます。 。
河田歯科医院 (プロフィール)
河田歯科医院長。1953年 3月16日:山口県生まれ。1978年 3月31日:城西歯科大学卒業。 1978年 4月 1日:岡山大学医学部口腔外科学教室入局。1981年 3月17日:現住所地にて開業。 1992年10月 1日:歯周病学会認定医。1997年 1月16日:歯学博士。

 要約すれば、歯槽膿漏の末期や神経を取らなくてはいけないような末期の虫歯は、多少の 延命がやっとなのに、歯医者が治してくれると信じて受診されています。結果、期待は見事 に裏切られて歯科医および歯科治療に対する不信は募る一方です。
 一方、歯医者が最も得意とし、絶大な治療効果の期待できる歯槽膿漏のコントロールや虫 歯の初期治療に対する正しい理解がないために治療を敬遠されているようです。「痛くもな い歯を治療されて痛くなった」という不信感が最も多い理由だと思います。治療後痛くなる にはそれなりの理由があります。治療する歯科医はそんなこと百も承知していますし、でき るだけ痛みがでないように最大限の配慮はしているはずです。それでも実際に痛みを伴うこ とがあるのも事実です。
 極論かもしれませんが、「ちょっとくらい痛い思いをさせたって、それに見合う以上の効 果が期待できる」ことを確信しています。歯槽膿漏にしても虫歯にしても歯によって進行程 度はまちまちです。自然治癒の全く期待できない歯科領域では、放置しておくと数年後には 必ず全てが取り返しのつかない状況に追い込まれることは必然です。例えばそんな歯が10 本あったとして治療したとします。その内8〜9本は見事な治療効果が期待できます。痛み のでた1〜2本は結果としてすでに治療限界を超えていたことになります。治療限界を的確 に事前把握することは不可能ですし、仮に安全圏を設定したのでは救える歯も救えません。 しかも結果として治療限界を超えていた歯は、そのまま放置しておいても遠からず同じ運命 をたどることになります。

歯は治らない?
 歯槽膿漏で腫れた歯茎は、歯石を除去して排膿することにより炎症が消失して痛みはなく なります。しかしその間に失われた歯槽骨は回復しません。虫歯も目に見えない程度の初期 には再石灰化が起こって回復するという報告もありますが、通常虫歯と呼ばれる段階では二 度と元の状態に回復することはありません。
 根尖病巣のように、生体の自然治癒能力の及ぶ範囲では的確な根管治療を行うことにより 回復する見込みがありますが、技術的な問題から多くの場合治癒を期待することが難しい現 状です。
 風邪や結核の様な疾患であれば、治療を受けて“治った”となれば元の体もしくは元の体 に近い状態に回復したことを意味します。従って、将来同じ疾患に罹患したとしても、健康 体からの新たな発病であると同時に、何度でも治る可能性があります。ところが歯の疾患、 とりわけ虫歯の場合、罹患部分を削り取っても決して元の状態に回復するわけではないので 金属・その他の代用品で形態を回復しているだけです。再び虫歯が発生した場合、過去の破 壊にプラスして歯の破壊が進みます。
 歯科治療を行って“治った”のではなく「修理が終わった」と表現する方がふさわしいと 思います。歯科治療を歯の修理と位置付けすれば、おのずと正しい扱い方と認識が導きださ れてくるのではないでしょうか。
 車の全損事故にも匹敵する抜髄処置(神経を取る)ような事態になった時、多額の金額と 労力を費やして修理しても決して新車の様なわけにはいきません。どこかに歪みみたいなも のが残っているので、遠くない将来必ず故障するであろうことは誰にでも想像できると思い ます。70〜80年も使わなくてはならない大切な歯を、わずか10年や20年で抜髄という大修理 を行うようではほとんど先がないと覚悟しなくてはいけません。小さな虫歯の発見と修理、 一度修理したところから発生する虫歯(二次カリエス)をこまめに見つけ出し細かい修理を 積み重ねてこそ生涯使用することが可能になります。
 歯槽膿漏にしても、一旦破壊された歯槽骨は(原則として)二度と回復しません。しかも その破壊は程度の差こそあれ、確実に進行しているわけですからできるだけ破壊程度の少な い若いうちから破壊を抑制するコントロールが必要です。

河田歯科医院
本文は、“アパマンショップ オーナーズ新聞
2004年 4月5日号”に掲載されたものです。
メインテナンス
20年後初診時の治療以来新たな治療はほとんどない  「生涯自分の歯で」という願いむなしく50歳を過ぎたころから次々と失われていく歯。老 化現象の一つとあきらめていらっしゃる方も多いと思います。
 健康な歯は全ての国民にとって切実な願いでありながら、有効な手段がとられていないと いうか、有効な手段が知られていないのが現実です。長年の夢が叶い、 2002年4月の保険規 則改正により歯のメインテナンスが大幅に改善されました。これが正しく運用されれば夢のよ うな成果が得られることを確信しています。しかし、患者さんのみならず歯科医自身もそのメ インテナンスの効果と重要性を認識していないために恩恵を享受する道のりは険しいことが予 想されます。
 メインテナンスの基本は、ただ単に毎月歯医者に通って歯石除去(スケーリング)を行う ことです。「黙って座って、毎月歯石を取って帰って!」と時には乱暴な言い方を診療室で 言うこともありますが、その効果は絶大です。
 歯石やプラークを排除することにより歯周疾患(歯槽骨の崩壊)を最小限に食い止める一 方で、衛生士が綿密な診査を行います。学校検診や企業検診のように劣悪な条件での検診と 違い、明るい照明の下で汚れを排除しながら、全ての歯に触れながら時間をかけて(約15分 程度)診査します。
 歯肉状態や知覚過敏の程度は勿論のこと、汚れに埋もれた小さなムシ歯やインレー・クラ ウンの周辺や内部まで診査して二次カリエスや脱離の有無をチェックします。時には患者さん の方から「今は何ともないけど、2週間前にココが腫れていました」という訴えもあります。 そのような情報はとても重要です。レントゲンを撮ってみると、歯石やクラウンの脱離がみ つかります。完全に脱離するまで放置していたとすれば、歯牙崩壊が著しく使い物にならな くなる歯も発見が早ければ何事もなかったかのように修理することも可能です。
 その結果、20年経っても歯牙喪失や歯槽骨破壊が全く認められないことは無論のこと、抜 髄したり新たなクラウン(銀歯)を装着することなく過ごすことも可能です。
 「日本人は銀歯ばっかりで、獅子舞の歯みたい」と先進国から酷評されていますが、20 年後には見違えるような効果が現れることを予感いたします。テレビの宣伝にあるようなキ シリトールの効果よりも、実は検診制度に健康の秘訣が隠されていたことを通観しています。

メインテナンスの頻度
 こまでの研究から導きだされた結論は、歯肉炎から重度の歯周疾患まで、いかなる歯周疾 患でも適切なメインテナンスにより歯周疾患の進行を阻止し遅延することが可能であること が分かります。反対に、メインテナンスの伴わない歯周治療は急激な悪化をもたらし、なん ら治療せずに放置されたままよりも有害であるということです。
 メインテナンスを行わないのであれば、いかなる歯周治療も効果は期待できない。なぜな ら、疾患は炎症であり、何度も繰り返されて、その都度行う歯周治療は対症療法でしかない からです。
 メインテナンスに関する多くの研究では、メインテナンスの頻度は2週間ごと、4週間ごと、 3か月ごと、6か月ごと、そして年1回など多様です。1975年のLindhe JとNyman S、同年の Nyman SとLindhe Jの相次ぐ研究から、6か月ごとのメインテナンスでは,十分な治癒を得ら れないままに歯周疾患が徐々に進行していくことが明かになりました。
 もっともシンプルなメインテナンスの瀕度として、1979年にKnowles JWらは,8年間にわ たるメインテナンスの結果から、治療直後は1週間に1度の口腔清掃指導とPTC(Professiomal tooth cleaning)を行う治癒期間を経過した後には,3か月ごとに12か月間継続することを推 奨しています。しかし、3か月ごとのメインテナンスで、歯周疾患が進行したり、歯の喪失が みられることも見逃せません。つまり毎月行なえってことです。
(参考文献:竹内泰子 「メインテナンスについて」 ザ・クインテッセンス  vol.17 no. 7 159-167 1998.7)