デンタルダイヤモンド  1997年 VOL 22 NO293 別冊号掲載 
こんなときどうする Part2

患者が前医の診療方針を批判
前医の診療方針に対する患者の批判は、あまり聞きたくないもの。ましてやよく知っている 先生ならなおさら。転院してきた患者の前医への批判に対して、歯科医師としてどのように 対処しますか。

患者が前医の診療方針を批判
河田 批判内容を踏まえ、治寮方針を提示
批判内容を踏まえ、できるだけ患者の納得が得られる治療方針を提示したうえで、治療方針が 画一でないこと、ドクターの経験に基づく価値観の相違により治療方針が異なることを説明す る。とくに、前医の治療方針のメリット、防御的な意味を含めて自院の治療方針のデメリット (危険性)を強調し、どちらを選ぶかの判断は患者に委ねる。

経営コンサルタントのアドバイス
 多くの先生は「後医は前医を批判してはいけない」「前医を否定せず」という考え方をして おられるようです。「批判に同調してはいけない。よく言われているように上手に聞さ流すこ とが肝心です」とか、「前医の批判はしない(問題があっても)」という態度が多いようです。 しかし、このような態度をとるには次のような前提があると思います。それはその患者に対し て「いろいろな状況のなかで、その時にベストと考えた治療を全力で行うのが医師の務め」と 考えて診療しているという前提です。歯科医療の日指す目的は同じであって、アプローチの仕 方が違うだけだという前提にたった考え方になります。
 したがって患者に問題があるという前提であり、「こちらに救いを求めて来院された患者の 訴えをむげに無視してもいけない」から、「まず患者の不満を聞いてあげる」こと、なかには 感情的な患者もいるから同調しないで感情が収まるのを待つ。あるいは「患者の誤解を解くこ とから始める」といった対応になります。問題があっても前医を否定しないというのも、問題 の程度にもよるでしょうが、診療方針の違い程度のことであり、目的は同じだという前提にな っていると思います。だから「診療方針をよく理解させ」たり、「ドクタ−の経験に基づく価 値観の相違により治療方針が異なることを説明する」ことになります。
 しかし、このように医療の前提(その患者にとって最善と考えられる医療を提供する)を否 定する事例が出た場合はどうするのか、という問題があります。明らかに「診療方針が常識的 なレベルを逸脱している場合」の対応です。歯科の専門医として常識の範囲を超えた前医の治 療に遭遇した場合です。一人の先生が回答された「たとえば歯内療法の再治療や補綴物の再治 療の必要の有無を説明しようとすると、結果的には前医の批判にならざるをえない。患者が前 医の批判をした際にも、治療の質そのものが低ければそのことを患者に隠すべきでないし、あ えて批判になろうとも質の高い治療とは何かを患者に理解してもらうべきである」という意見 は現実的に大変重い問題ではないかと思います。
 大半の先生方はお互いに前提を再碇認したうえで、患者との意識のズレもしくは誤解等に対 し、理解を求める対応をされています。その場合はいたずらに患者に不安感を与えないために も、前医の方針や治療内容を批判しないというのは当然であろうと思います。しかし明らかに 専門医としての常識を逸脱しているケースが出た場合、見て見ぬふりをすることが正しい対応 なのがどうか。エイズ問題にみられるように国民の意識は大きく変貌してきております。医療 上の常識が一般の非常識こなってしまうことがないよう、こうした問題に対する対応や仕組み、 あるいは常識そのものの基準を再検討してみる必要があるのではないでしようか。