歯の神経を取った(抜髄)直後から発生するトラブルや、一旦治療を終了して数年後に発生
するトラブルのほとんどが根尖部における炎症です。炎症である限り細菌が関与していること
には間違いがないのですが、その考え方や対処の仕方が間違っている(私見)ために無用に治
療が長引いたり治らないという新たなトラブルが発生しています。炎症発生のメカニズムが正
しく理解されれば、おのずと正しい解決策がこうじられるはずなんですが…。
一般に「バイ菌が入って化膿した(炎症を起こした)」という表現が為されているようです
が、この考え方自体が大きな誤りです。確かに根尖部の炎症には細菌が関与していますが、そ
の細菌は結核菌のような特殊な細菌ではなく口腔内に生息する普通の細菌なのです(口腔内常
在菌)。その常在菌を殺すために、時には数か月にわたる根管貼薬が行なわれています。
考えてみて下さい。手をナイフのような鋭利な刃物で、多少深く切ったからといって化膿し
ますか? 手にも口腔内同様に常在菌が無数に生息しています。バイ菌は入りたい放題なのに!
反面小さなトゲみたいなモノが刺さったときはどうでしょう。傷は小さいし、トゲで蓋をされて
いるのでバイ菌がそんなに入ったとは思えない状況でも化膿して、時には腫れあがることだって
あります。この違いは一体何なんだ!
生体は、自己の構成成分以外の全ての物質(異物)に対して免疫反応を起こします。臓器移
植の際に使われる拒絶反応という言葉をご存知の方も多いでしょう。生体は、身体の中に侵入
り存在するあらゆる異物に対して拒絶反応を起こします。この拒絶反応は、周囲に生息するバ
イ菌の力を借りて自らの組織を破壊して、その異物を生体外に排出するための防御反応と考え
られます。根尖病巣も同様に、元々は生体の一部だった歯が異物と化したために、周囲の骨組
織を破壊して排除しようとする生体の防御反応なのです。
では、歯の何処が異物となってしまったのでしょうか。例えば、死んで腐ってしまった神経
組織は勿論異物です。腐った神経を綺麗に取り去ったあとに残った空間、これを歯髄腔といい
ますが、この歯髄腔に血液なんかが侵入して貯留するとやがて腐ってしまいますのでこれも異
物です。消毒と称して使われる薬剤にはホルマリンのように薬剤自体が異物と認識されるよう
なものもあるように思います。過去に根管充填された歯も、充填が不十分であればその隙間に
侵入した血液などが腐敗して異物となってしまうことがあります。
これらの異物をできるだけ綺麗に掃除して(根管清掃)、二度と血液なんかが侵入しないよ
うに綿密に封鎖(根管充填)できれば炎症は速やかに消退します。無論消毒や抗生物質投与な
ども行いますが、極端な話、消毒なんかしなくても多少残ったバイ菌やわずかな異物は生体が
処理してくれます。出血や排膿が著しく綿密に封鎖ができない場合をのぞいて、これら一連の
処置は1日で終了します。