さらば歯周病
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さらば歯周病
 歯科点数改定でメインテナンスができない―。「定期的な歯石除去のメインテナンス で歯周病の予防を」と長年にわたって訴え実践してきた河田克之先生(姫路市・河田歯 科医院)を、加藤擁一副理事長・新聞部員(須磨区・歯科)が訪ねた。
歯科こそ予防医療を
 
加藤 先生の著書『さらば歯周病』(新潮新書714円(税込))を読ませていただ きました。歯周病予防のための定期的な歯石除去に、信念を持って取り組んでこられたよ うですね。

河田 開業当時は歯石除去の効果にまだまだ自信がありませんでした。5年くらい 続ける中で、カルテやレントゲン写真を見て、歯石除去が歯周病予防に有効であると実感 するようになりました。歯周疾患の進行が止まっていると感じ、メインテナンスによる予 防に確信が持てるようになるには10年かかりましたね。なにしろ私にとって歯科とは、予 防医療が全てでしたから。

加藤 なるほど。長期にわたって続けることで、予防の効果を実感したのですね。 しかし、定期的にメインテナンスを受けてもらうよう患者さんを説得するのは大変だった んじゃないですか。

河田 最初の頃は、患者さんに「だまされたと思って通ってほしい」と言ってい ました(笑)。ただ、そのうち患者さん自身が歯周病予防の効果を感じ始めました。また、 定期的に口腔を診るため虫歯の早期発見・治療にもつながるので、患者さんの顔にも笑み がこぽれるようになりました。

加藤 そういえば、最近は親が子どもの歯のケアに手間をかけているためか、 子どもの虫歯が減ってきたように感じます。昔のようにひどい虫歯も少なくなってきてい るようですし。

河田 親が子どもの口腔ケアに力を入れるのは良いことです。その習慣の延長 が、大人になったときのメインテナンスにつながりますから。アメリカやヨーロッパでは 総じて、歯周病や虫歯の予防など口腔ケアに非常に力を入れているため、きれいな歯をし た方が多いです。日本のように歯の神経を抜いているような口腔状態を見ればびっくり されます。

加藤 国民の間に予防重視の考えとメインテナンスの習慣が定苦しているわけ ですね。

河田 しかし、例えばアメリカでは、国民全員が口腔ケアに力を入れられるかと いえばそうではなく、「移民と低所得者は無理」のようです。

加藤 アメリカには一部を除いて公的医療保険がありませんからね。お金のな い人は予防も治療も受けにくい社会で一方日本では、メインテナンスの重要性が近年知ら れるようになり、歯科医師の間にもメインテナンスが普及され国民にも重要性が知られる ようになってきました。

新点数が予防の権利奪う

河田 2002年の診療報酬改定で、届出要件など制限はあるものの、保険でメイン テナンスができるようになりました。そのため、少しずつですがメインテナンスに真剣に 取り組む歯科医療機関が増えてきていたところでした。

加藤 ところが今年4月からの診療報酬改定で、歯周治療のメインテナンスの点数 が大幅に引き下げられましたよね。多くの歯科医院から「この点数ではやっていけない」 との声があがっています。さらに、メインテナンスの途中で歯周病以外に虫歯などを見つ けて治療しても、これまでなら治療費を請求できましたが今次改定で認められなくなりま した。

河田 まったくひどい話です。私の医院でも、毎月患者さんの歯石を除去している ときに、偶然小さな虫歯を発見しても、「早めに見つかってよかった」ということで治療し、 医療機関も治療費を算定できるので、メインテナンス中の虫歯の発見・治療がマイナス経営 につながるなんてことはありませんでした。いくら予防・メインテナンスが口腔衛生にいい といっても、これほど低い点数で、しかも包括化されてしまっては医院経営上とても続け られません。これまで患者さんに「毎月歯石をとるのは良いことだ」と言ってきて、世間で の認知も高まってきたところなのに。

加藤 本当ですね。包括化は「歯医者は持ち出しで仕事しろ」と言っているのと同 じです。治療をしても報酬がもらえない仕組みを作ったという点で、保険制度の根幹を揺る がすような改悪です。

河田 「現物支給」という国民皆保険の原則から逸脱していますよね。患者さんから すれば、今まで歯医者が不正にお金をとっていたかのように思うかもしれない。制度通り決 められたことをすれば患者から不審を買ってしまい、理由を述べればますます不審がられる。 国民と歯科医師の関係を意図的に悪くするような改定で、悪意すら感じます。

加藤 新しくできた「機械的歯面清掃加算」も、3カ月に1度だけ高くなるなど到底患 者さんに理解してもらえないものですしね。

河田 政府は一方で「予防」「予防」と叫びながら、他方で国民からメインテナンス を受ける権利を取り上げてしまいました。2002年に保険収載されましたが、ここまで点数を 低くし包括化したことは絶対に許せません。

加藤 国民の健康を守るはずの厚労省が国民の健康を奪っていると。政府は公的医療 費の抑制を至上命題にしていますからね。医療現場がまったく無視された改定です。

河田 まったくです。歯科医師の裁量権を尊重し、必要と判断した予防・治療が提供 できなければなりません。そのためには、患者窓口負担が過重にならないことと、安定的に 医療機関経営ができる診療報酬を保障すべきです。歯科医師が患者・国民と手を携えて声を あげていくことが大切です。

加藤 その通りですね。協会でも緊急再改定や署名などの運動に取り組んでいるとこ ろです。これからも共にがんばりましょう。


本文は、2006年4月25日 兵庫保険医新聞に掲載された内容です。