インターネット
明海大学歯学部同窓会兵庫県支部発足15周年記念会誌掲載 1999年5月
【はじめに】
インターネットが世間の脚光を浴びて、数年が経過しました。今やインターネット人口は、
国内だけでも数百万人ともいわれています。その中では、無数の情報が飛び交い、
様々な人との交流が生まれています。とは言っても、あふれる情報全てを掌握し、全ての人と
交流があるわけではありません。街を歩いていると多くの人とすれ違いますが、話や挨拶をする
のはその中でもほんの少数の人とだけです。たくさんの商店があっても中に入って品物をみるの
は限られた範囲だけです。時間に制約がある以上、インターネットの世界もこれと同じような
状況もありますが、最大の違いはその行動範囲が小さな街に留まらず、日本中、或いは世界中
に広がることです。そして世界を網羅する検索機能の充実により必要なものがより効率良く
手に入ることも大きな特徴です。
「インターネットには広告の規制がないのでホームページを作りませんか」という主旨の
ダイレクトメールや電話があります。私の場合、「河田歯科医院のホームページを見てから
もう一度電話してくれ」と断っていますが、宣伝効果とその実態はどのようなものでしょうか。
ホームページ開設1年半の実績とその間の経験を元に若干の考察を交えて考えてみたいと思います。
【社会のニーズ】
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図1 河田歯科医院ホームページ (家庭歯科医学辞典) |
私のホームページ"家庭歯科医学辞典"は、開設以来1年6カ月のあいだにアクセスカウンターが
1万を超えました。一日の訪問者数が50人以上ですから実際の数(実数はおそらく約2万程度)
とは若干異なっています。アクセスカウンターを設置した表玄関(フロントページ)からの訪問が
極端に少ないのがその主な理由です。インターネットの仕組みをご存知ない方にはちょっと理解
し辛いことかも知れませんが、実際にインターネットを利用する立場にたって考えてみると少しは
解っていただけるものと思います。
"家庭歯科医学辞典"には、来訪者がどこのルートをたどって訪れたかとか、どのような検索用語
でたどり着いたかを逆探知する機能がついています。また、掲示板やメールを通して全国の利用者
からの生の声を常に聞いていますので、インターネットを利用されている人の詳細をかなり詳しく
把握することができます。
インターネットを利用する最大の目的は、情報の収集です。情報を収集する手段としてつかわれて
いるのが検索エンジンです。"goo"や"Infoseek"を始めとした検索エンジンの多くは、ロボットを
使って全国にある無数のホームページの中まで入り込んで、そこに記述された内容を全て掌握して
います。そして利用者が提示したキーワードに対する回答を、ロボットなりに詳しい順に並べて
教えてくれます。利用者は、そこに書かれた解説を参考に自分の要望に近い記述のあるページに、
直接飛んでいける仕組みです。
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図2 “goo”の検索画面 キーワードに対する 回答を表示 |
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図3 検索画面で気に入ったサイトをクリックすると 直接そのページに行くことができる |
"家庭歯科医学辞典"の場合、1日に50件以上がこのような検索エンジンを使った訪問ですから、
表玄関からの来訪が少ない原因です。ホームページのページ数が増えて、内容が濃くなればなるほど
この傾向が強くなります。
これはあくまでも我々歯科領域に限っての話ですが、今自分が抱えている悩みや、今受けている
治療に対する疑問を解消するためにインターネットを利用されている人が多いようです。
つまり、言葉に対する検索です。"歯槽膿漏""知覚過敏""費用"といったキーワードに対する
解説を期待しているケースが圧倒的に多いのが実態です。
"質問受付コーナー"に入ってくる質問は多岐にわたっています。「ミュータンス菌がどうして
公衆衛生の対象にならないのか」とか、「タバコのヤニはどうすればよいのか」みたいな素朴な
質問から、現在受けている治療に関する疑問や不満をぶつけたり、診断を仰ぐケースなど様々です。
そこに挙がった質問を通して感じることは、総じてインフォームド・コンセントの不足です。
我々歯科医師は患者さんに対して、現状の説明、将来の予測、治療の必然性と治療後の予測や
費用などをより効率よく伝える必要性があることを痛感しています。
私が歯周疾患の専門医である関係もあるでしょうが、"歯槽膿漏"の治療や方法にに対する
不満も多いようです。ブラッシングばかりで歯石を取ってくれないとか、歯石を取るにしても
期間が長いなど、患者さんのニーズとかけ離れた実態が浮かび上がってきます。「歯周疾患専門
医を紹介して下さい」などはその最たる訴えだと思います。
【ホームページの効果】
インターネットを利用して、"良い歯医者"をさがしているのも事実です。現在インターネット上に
ホームページを開設している歯科医院は、全国でおよそ400件程度('98.7.時点)です。兵庫県下
でも6件程度ですので、歯科医院を検索しても通院可能な範囲にあるとは限りません。
それならば、早くホームページを出した者勝ちかとも思われますが遠くの患者さんを引きつける
にはそれなりのアピールがなくては意味がありません。近くに比べるべきホームページが無い以上、
比較となるのは全国の歯科医院です。従って、診療時間や医院の簡単な説明だけではどうしても
説得力に欠けるようです。期待するほどの効果が得られないのが実状です。とは言っても
ホームページを開設したために患者さんを減らすことは決してありませんのでマイナスにならない
ことも事実のようです。ちなみに私の場合、開設1年半でホームページを見て来院された患者さん
は8名です。数名に問い合わせてみたところ、同じ期間で新宿区に開業されている先生の場合が
5名で、以下茨城県:1名、青森県0名との結果を確認しました。ホームページの質にも左右さ
れますが、やはりインターネットを利用されている人口が多い地区ほど効果があることも実体と
して浮かび上がってきます。
【まとめ】
インターネットやコンピュータの発展は、無限の可能性を秘めていると言っても決して過言では
ないでしょう。反面、これらの恩恵に与るためには無限の労力を必要とすることを十分理解した
うえで、利用されることをお勧めします。まだまだ、コンピュータの時代は幕を開けたばかりです。
まず第一歩として、あまり多くを期待しないでステータスとしてのホームページを1人でも多く
開設されることを願っています。そこに掲載される知識と情報の集約が歯科医療の向上と社会に
対する貢献につながることを確信しています。