インターネットは今や生活の一部
歯科医院のホームページのあり方を 考える
役に立つホームページとは/あるべき姿

デジタル時代をどう生き抜くか-ここまできたデジタル化の現状と行方
THE NIPPON Dental Review (日本歯科評論)』2001年12月号 掲載


【はじめに】
 インターネットの普及は目覚しく、多くの国民がインターネットを通してさまざまな情報を得ています。 今や全ての分野において、インターネットによる選別が行われているといっても過言ではないでしょう。

インターネットによって選別が進む
 「他にももっと素晴らしいものがあるはずだ」と思いながらも、私達は今まで限られた地域と情報の 中で様々な商品や情報を選択してきました。価値観を決定するにしても、限られた範囲の人に相談 して決めることが多かったと思います。インターネットの普及は、全国いや世界規模で情報を 得ることを可能にしています。企業に限らず個人でも、安くて良い商品を海外から取り寄せることが 可能です。
 消費者にとって、より良いものを選別することが可能な時代になりました。このことは、商品や一般 業種に限らず歯科医院選択にも波及しています。評判の医院を紹介するサイトがある反面、歯科医 院に対する不満やブラックリストを掲載したようなサイトもあります。インターネットの存在を無視した 経営や治療が成り立たなくなることを予感します。
 あらゆる業種で二極化が進む中、歯科医院も例外ではありません。患者さんのニーズを的確に捕 らえて対処した医院が優位にたつはずです。しかし、その前にインターネット上に情報を提供してい ないとその選別の候補にもあがりません。その意味では、最低でもステータスとしてのホームページ を持つことが必要です。より良質の治療を求めて全国規模で患者さんが流動し始めたのも事実です が、その多くは受診前にその医院の姿勢とか雰囲気に関する情報を得るだけでも大きな収穫となっ ているようです。専門的な情報が重要であることはいうまでもありませんが、趣味とか日常生活を披 露するだけでも親しみや共感が得られたり、医院内での会話にも随分と巾がでてきます。

【現状の分析】
図 @ 
家庭歯科医学事典(河田歯科医院ホームページ)
過去に出版された論文や患者さんからの質問が3000ページにわたって収録されています。
 私がホームページを立ち上げたのは5年前です(図 1)。その頃、 全国に百件程しかなかった歯科医院のホームページも今では数千件はあると思います。インター ネットの普及に伴って、ホームページにアクセスしてくる数も1日数件から今では数百件に増えてき ました。その数に比例するように、ホームページをみて来院する患者さんの数も増えました。3年前、 毎月1人に満たなかった新患も、今では10人以上となり約半分を 占めるようになりました1)
 遠方からの来院という制約があって、何かと治療にも制約が生じて必ずしも好ましいことではあり ませんが、可能な限り対処している毎日です。ホームページを見て来院される患者さんは歯科治療 に対する知識が十分備わっています。ごまかしが効かなくやり難い反面、治療方法の種類やそれら のリスクを把握されている分理解が早く説明がとてもスムーズに運びます。それに伴い医院の治療 形態も徐々に変化しています。良い意味で、時代に即した歯科医院に変貌しているのかも知れま せん。
 ホームページによる情報発信は低コストでできる有効な方法です。過去の膨大なデータ蓄積が 可能な反面、印刷物と違って常に最新情報の提供も可能です。電子メールや映像など双方向ネット ワークも大きなメリットがあり、21世紀の歯科医院が避けて通ることのできないれないツールだと 思います。

【インターネットをとりまく環境】
インターネットって何ができるの?
 情報が氾濫して患者が混乱しないため、医療法第69条では医療機関が行う広告の内容につい て厳しい制限を設けています。医療法でいう「広告」とは、メディアの形態によらず「不特定多数に 知らせる」もの。つまり、新聞・雑誌・TV-CMや電車の車内広告のように見る(聞く)側の意思に 関わらず伝えられるものを指しています。厚生省は、平成9年の「医療監視等講習会」の疑義応 答の中で「インターネットホームページは広告には該当しない」との判断を示しました。ホームペー ジは、利用者が自発的な意思によって検索して見るものという考え方のようです 2)
 今後は法的倫理規定や運用規定について整備されていくと思いますが、現状ではほとんど野放 し状態のようです。規制がないから何をしても構わないということではありません。倫理観を疑うよう な内容は自ら慎むべきだと思いますし、市場原理による自然淘汰の中で非難を受けることも覚悟 しなくてはいけません。

 ヤフーをはじめとした検索機能が向上したとはいえ、本当に有効な情報を的確に入手するには まだまだ困難を伴います。氾濫する情報の中から本物を見つけ出す能力も重要ですし、情報を提 供する側としてはより有効な情報を提供することが求められています。情報の正確さもさることなが ら、何よりも重要なことは「患者さんが知りたい情報」を提供することです。
図 A 
全国から寄せられる質問は、歯科界が抱えている問題点を切実に物語っています。
 患者さんのニーズを知る最も有効な手段は、歯科に対する質問集に目を通すことです。素朴な 質問や不満のなかに私たちの為すべき事柄が綴られています。私がホームページ上で質問を 受け付けて4年になりますが、その累積数は2000を越すようになりました。質問のなかで最も多い のが親知らず抜歯に関することで、次いで根管治療・歯槽膿漏の順となっています。それ以外にも インプラントや顎関節症など、歯科医院で行われている内容全てが質問の対象となっています。 つまり、各医院で行われている治療行為全般に対して、その経過や治療期間・費用、さらには予想 されるリスクなどに関する情報が求められているように思います(図 2)
 教科書的に書かれた情報はすでにネット上に蔓延しています。ホームページに求められる情報は、 それ以上に踏み込んだ情報です。知識・技術そして経験や価値観によって処置方針も異なるわけ ですから、提供する情報に相違があるのは必然です。自分が信念とする治療方法などを訴えるこ とも可能です。今まで折角素晴らしい治療と技術を施しても、世間からは適切な評価を得られなか った医院も情報を発信することにより適切な評価を得ることができるようになりました。

【歯科医院のホームページ】
情報とリスクの共有
 医療機関はあまりにも情報の提供に関して消極的でありすぎたと思います。今後は、その点の反 省も含め、より積極的な情報発信を心掛けるべきではないでしょうか。
 「歯科のことは分からないから、先生にお任せします」というのが従来の歯科治療です。任され た方としては多くの場合、学術的な知識と色々な経験の中から“無難な選択”を治療として提供して きました。
 自分、もしくは歯科知識のある同業者の治療をするときには、確率の低さやリスクが十分理解で きていますので治療方針が異なるケースがあります。「確率は低いがファーストチョイスとしてこの 方法を試みて、ダメだったら次の方法に切り替えよう」という選択が可能です。選択の意義やリスク が十分理解されているからこそできる治療方針というものが存在します。しかし、歯科知識の ない患者さんに任せられた場合、思惑の結果がでなければ不信の原因になったりいろいろと言 い訳がましい説明をしなくてはいけません。患者さんに歯科医師同等の知識や経験を、限られた 診療のなかで語り尽くすことは絶対不可能と言っても過言ではないでしょう。
 インフォームド・コンセントの重要性が指摘される今、ホームページに寄せられる質問のなかに インフォームド・コンセントの不足を痛感しています。その多くは一通りの説明が為されていたもの と思われます。「先生が忙しそうだったので…」とか「とても聞ける雰囲気ではなかった」と疑問を 抱えたまま、帰途に着かれている患者さんの実態が浮かび上がってきます。
 患者さんに基礎的な知識が備わっていないことと、治療選択枝の全容が把握できていないこ とが最も大きな原因だと思います。そのような基礎知識や治療選択枝、そして治療のメリット やデメリットをあらかじめ情報として提供しておくことは、より上質な治療を提供するために必要で はないでしょうか。
 インターネットの普及により患者さんもドクター同様に、分野によってはドクター以上の専門的な 知識と経験を手に入れることのできる時代になってきました。「今までの治療は何だったんだ」とい う医療不信の声も多く聞かれます。過渡的な傾向として、医療従事者にとって好ましくない事態も 数多く想定されますが、その先には必ず治療に対する知識を習得された患者さんが増えてきま す。情報を隠してごまかす時代から、情報を公開してリスクを共有できる治療が可能な時代に移 行しています。

【まとめ】
 知識と技術が向上すれば、私達の治療にも巾ができて選択枝も広がります。個人で経験できる 知識には限りがありますが、全国の歯科医師が経験して得た知識や結論をインターネットを通して 公開することにより私たち歯科医の知識も格段に向上します。症例や治療方法だけでなく、新し く開発された歯科材料や器具の評価も重要な情報です。
 私たち歯科医の究極の目的は、患者さんのニーズに応えて最善の口腔内環境を提供することで す。ニーズを無視した業界に繁栄はありません。インターネットを通して、より多くの情報を積極的に 提供し、その情報を患者さんと共有することにより社会に望まれる発展が得られることを確信して います。

参考文献

  1. 河田 克之「インターネット」(『明海大学歯学部同窓会兵庫県支部発足15周年記念会誌』 1999年5月)
  2. 小泉 吉永 「インターネット時代の歯科医療を考える」(『私の街の歯医者さん』 2000年9月号)