河田 克之
・兵庫県開業
私の診療日記
「メインテナンスの重要性」
デンタルダイヤモンド  1999年 1月号掲載 
私の診療日記
○月×日

「先生、支払基金から電話です。」
穏やかだった心が一瞬に乱れてしまいます。ここ数年遠ざかっていた災いが、突如として訪れた ような気持ちで電話口にむかいました。
「先生ところのレセプトを拝見しているのですが、初診が平成2年とか3年のものが目立ちますね。 先生のところは、毎回指導料を請求されているようですが、これでは指導の効果が認められませんね。 しかも、SC/RP止まりの処置でこんなに永くメインテナンスを続けるのは考え物ですなぁ。」
メインテナンスの重要性は、歯周病学会のあいだでは定説のはず。毎回行っている指導も究極の 目的はメインテナンスの重要性を強調する内容です。メインテナンスにキッチリと応じる患者さんは、 私たちの指導が浸透しているからこその結果であって誇りにすら思って行ってきた行為です。 しかも、前回は歯周外科手術が多いからと指導を受けたはずなのに、たまたま少ないからといって 余計なお世話だと思いながらも、「今後、気をつけますのでよろしくお願いします。」と言って電話を 切りました。
学会の考えと保険の規則が異なることは以前から知っていましたし、保険規則に従わなければ いけないことも理解していますので釈然としない気持ちのまま診療を続けました。
やけ酒にも似たその夜の晩酌がまずかったことはいうまでもありません。


私の診療日記
頼もしい仲間
○月×日

今日の午後からは、某大学の歯周病学講座の先生が見学に来られる日です。インターネットの ホームページがきっかけで、一度診療風景を見学したいとの要望に応えて実現したものの、 朝から少々緊張気味です。スタッフにも「患者さんに、普段より丁寧な対応をするように。」と 指示したり、予約簿を確認して余裕ある診療を心がけようとよそよそしい雰囲気が漂っています。

約束通り見学に来られた先生方の目は、さすがに専門家らしく歯周病の治療を見つめていらっしゃる ように感じます。朝、あれだけ檄をとばしていたのに、スタッフの対応も遠慮がちにみえます。 幾分緊張もしましたが、幸いにも難しい治療はなく、飛び入りの患者さんもなく余裕をもって 見学に訪れた先生方と話しを進めながら診療することができました。カルテの書き方や収納方法、 それに治療方法や患者さんの対応などを自慢げに披露している姿はいつもながら滑稽です。 そうなるといつものペースで、開業医として先輩風のうんちくが飛び出す余裕も生まれてきます。
「大学で習ったことをそのまま実践しても生きてはいけないぞ。」などと世間でよくある光景が 広がってきます。「歯周疾患のメインテナンスは重要やけど、保険請求上は長すぎる初診は 注意せなあかんぞ。」と知ったげにお説教していると、「大学でも同じですよ。」と意外な返答が 返ってきました。「今年の春頃から、支払基金とかから指導があって極力、初診を切るようにし ています。」とのことらしい。

まさか、大学の先生にまで「指導がなっとらん。」とは言わなかったと思いますが、それを聞いて 心が少しやすらかになりました。私だけが目のかたきにされているような錯覚に陥って憂鬱だった 気持ちが、同じ境遇をなぐさめあうことで薄れるのも豊かな人間関係があってこその宝物です。

診療が終わって、さぁ食事。「遠慮なく、しっかり食べてや。」とは言ったものの、本当によう食べはる。 平日に外で飲むことの少ない私も、若い先生方と歯周病の原因や治療のありかたなど、とっても 固い話しを肴に久々の上機嫌で飲ませていただきました。多少のあつれきはあるものの、 まがりなりにも卒業して20年を経過した私からみるとこれからの先生方は大変だと思います。 認定医を収得するにも、開業するにもハードルは高くなる一方です。それにも負けない彼らの 情熱に耳をかたむけていると、私の方が励まされてしまいました。

気持ちよくしゃべって、飲んで充実した一日でした。なんと美味しい酒だこと…おかげさまで翌日は 少々二日酔いで、気分は二転三転。失敗・失敗!!