河田 克之
・兵庫県開業
私の診療日記
仮歯(TEK)
デンタルダイヤモンド  2000年1月号掲載
私の診療日記
○月×日

 「先生、さっき着けてもらった仮歯がとれました。」
「治療のたびにはずさないといけないので、弱めのセメントで着けたのですがちょっと弱すぎま したか。今度はもう少し強いセメントで着けましたので1週間程度なら大丈夫だと思います。」
 何か後ろめたい気持ちで言い訳のような説明をして、"頼むから1週間はずれないでくれ"と願い ながら患者さんを返す。取ろうと思っても取れなくって、切断して取ることもあるのにTEKって本当 に厄介なものです。

私の診療日記


○月□日

 「先生、旅行のあいだ仮歯が取れないようにしといてください。」
これも厄介な注文です。こんなときは、合着用のセメントで装着することにしていますが、次回来 院時には割って取らないといけない上にまた新たな仮歯を作らなくてはいけません。仮歯の製作 費用は形成料に含まれるという保険療養規則になっていますが、本当に現場の状況が分かって いるのかしらと腹立たしく思うことがしばしばあります。
一生懸命作っても、見た目が悪いとか噛めないと言われたり…。
「あくまでも"飾り"ですから、旅行中カニの甲羅までかじらないで下さいね」と防御腺を張るのはい つものことです。


○月△日

 「歯が壊れたので仕方なしにきました。歯医者が嫌いでねぇ。」
オイオイ、ちょっとまて、それ仮歯やんかぁ。カルテを見ると2年前に装着した仮歯で、歯肉は腫脹 して、メタルコアの部分は二次カリエスになって使い物にならなくなっています。この患者さんは 仮歯だったことを知っていたので、まだ救われた方です。中にはあれだけ説明したのに最終的な 補綴物と勘違いしている人だっていますから。
メタルコアを再製して、歯肉形態を整えなくてはいけません。
「仮歯を着けていると、どうしても歯肉の回復が悪いので今回は最終的な被せが入るまで仮歯は 着けませんよ。」と説明して治療を開始。歯肉の回復を図るのは勿論表向きの理由で、仮歯を作 るのが面倒なのと装着するとまた来院が途絶えてますます治療が困難になると思ったからです。 それでも治療を終わろうとすると「あれっ、今回、歯は入らないのですか?」
 説明するもの面倒になって、しぶしぶマージン部分を大きく開けたTEKを装着して今日の治療を 終了。

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○月●日

 「事故で前歯が折れてしまいました。」
気の毒に、|1 が歯冠半分と、|23 の歯冠全てが破折して脱臼しています。 おまけに、|23 部は歯槽骨骨折と歯根破折の疑いもあり動揺も著明です。
 「まずは抜髄! さて固定はどうしようかな?」
元々抜髄は、即日充填を基本としていますので問題ありません。しかも根管充填材の硬化促進 剤もありますので、充填後10分もすればコアの印象やTEKの製作も可能です。しかし、これだけ の治療を行って、更に周囲の歯と連結するとなると相当時間がかかりそうです。TEKの製作には ジョイントキャップとレジンは適合性の優れたクイックタイプを使って…、ワイヤーで結紮したあとに は接着性の優れたボンディング材とCR。5時を少し過ぎたころで待合室も混雑しているので、かな りプレッシャーのかかった治療になりそうです。
 歯冠部の亀裂は以外に重症です。幸いにも歯槽骨内の歯根破折は免れたものの、歯槽骨縁ギ リギリのところまで破折しており、文字通り血まみれの挌闘が続きました。
 7時を少し回ったころにやっと全ての治療が終了。大学の医局時代には考えられなかった材料と、 何かと問題の多い仮歯に助けられた対処方法で何とか切り抜けた感じです。それなのに、仮歯は 無料…、いやいや形成料の一部に含まれるだなんて。普段の鬱積がこみあげてくる中で、1日の 疲れを2倍・3倍に感じながら、それでもことを為し終えたことに安堵する夜でした。