河田 克之 ・兵庫県開業 |
「ニューヨークから、お電話です。」
はてさて何のことやら?国際電話には全く無縁で、一体何事かと戸惑いながら電話を手にとりました。
「実家が岡山ですので、今度日本に帰った時に一度診ていただきたいのですが…」という趣旨の電話
でした。インターネットの普及で、海外の邦人にとってホームページは格好の情報源のようです。
診療のちょっとした合間をぬって、メールで寄せられた質問の回答を書いています。ホームページ
で患者さんからの質問を受け付け出してから約3年。質問件数は、インターネットの普及に伴って確
実に増えています。多い時には1日10件。普通回答は、診療が終わってから書くようにしていますが、
それだけでは追いつかない日もあります。
「担当されている先生が忙しそうなので診療室では聞けません。この先治療はどうなるのでしょうか
?」という趣旨の質問には閉口。ちょっとちょっと、一番事情を良く知っているはずの担当医に聞いて
よ!
一方で歯槽膿漏が心配だとか、根管治療後の予後が良くないのでどうしたものかといった質問が
多いのには驚きます。歯の健康や現在受けている治療に疑問をもった患者さんが、その回答と情報
を求めてネットの中を活発に動いています。その場限りの説明やごまかしでは納得されない患者さん
が確実に増えているように思います。
「ホームページを見て来ました」と地域を越えて来院される患者さんが、初診患者の1割に迫る現状
と、今後のインターネット普及を考えると、ネット上で確立された価値観が人の流れや行動を左右する
ことを予感します。
「エナック(超音波根管形成器)用意しといて!」
元々、根管治療は即日充填を原則としていますので、1回の治療時間にはかなりの時間を要してい
ます。ネット上での根管治療に対する不満の多さを意識しだしてからは、今まで以上に根管形成に
気を使うようになりました。おかげで購入してから十数年経つエナックの稼働率が大幅に増えたよう
な気がします。
前歯の使用頻度は相変わらず低いままですが、臼歯部の細い根管拡大には大きな威力を発揮し
ます。確実な根管形成こそが良好な予後を決定し、結局は治療効率を高めていると思います。治療
後の説明は、症例ごとに用意された説明文書をコンピュータで印刷してお渡しします。補足の説明は
極力衛生士にしてもらうようにしています。時代の要請に応えるのは結構大変な反面、ささやかなIT
革命のおかげで確実に効果をあげているように思います。
1日の診療が終わってから、眠たい目をこすりながらカルテ記載に追われています。診療報酬改定
に伴ってカルテコンピュータの変更を行ったのに、コンバートがうまくいかず、2日間カルテ記載がで
きなかったからです。鉛筆で走り書きしたものを正式に書き直す単純な作業です。
同じ内容を記載したとすれば、入力スピードが手書きの約2倍の能力をもつコンピュータですが、
それでも1日分のカルテ50枚を記載するだけで2時間もかかってしまいます。日々診療の合間にこれ
だけの時間を要しているのかと思うとゾーッとします。今回の保険改定でも、ますます複雑な記載事
項を要求されています。おまけにインフォームド・コンセントも重要ということで、説明にかなりの時間
を割いていることを考えると、一体直接診療しているのは何時間だろうかと考えてしまいます。
かねてよりコンピュータを駆使して、カルテ記載や説明の効率化を進めてきた結果、通常では考え
られない程の効果に満足していたはずの自信がゆらぐ思いでいっぱいです。ゆとりを生み出すはず
のIT革命です。確かに、あらゆる面での効率化を促進している反面、それを推進し維持するために
余暇が確実に消費されているように思われてなりません。