経 営 戦 略 デンタルダイヤモンド 1997年 10月号掲載
年に1回程度集まるOB会では、「ひさしぶり!元気?最近どうしてるの?」といった挨拶から
始まるのが普通ではないでしょうか。それも学年の近い学生時代からの知り合いに限った話で、
学年が離れると「出身地はどちら…ご趣味は…」とまるで初めてのお見合よろしく共通の話題さがし
から始り、それでも話は盛り上がらず、何かしらけた雰囲気が漂ってしまうような気がします。
ところが今年のOB会は、雰囲気が一変したように感じられました。会うといきなり「来週は
どこへ釣りに行くの」とか、「君も相当麺類が好きみたいだね」といった会話から始まるのです。
まるでいつもつき合っている友達が会った時のような雰囲気でした。その原因は、インターネットに
よる会議室の開設です。
このシステムは、インターネット上に会員制の会議室を組織やジャンル別に複数開設し、
会員はその会議室をいつでも自由に覗ける仕組みになっています。会議室の中は会員からの
メッセージが日付順に並び、あたかも掲示板に貼られたメモ帳のようです。しかも、そのメッセージの
交換が日常会話を成立させているのです。
「今週はヒラメが5匹釣れました。」「釣った魚はどうするの?」「自分で造りにして食べました。」
といった調子です。そのメッセージの交換は、会員ならだれでも見ることができるので、その会話に
直接参加しなかった人でも、あいつは最近釣りに凝ってるなとわかる仕組みです。それが今回の
OB会での挨拶に結びついたのです。
「寒天コンディショナーを買いたいが何が良い?」とか、「レーザーを臨床でどのように活用して
いますか」と送信すると一両日中に心当たりのある会員から数件の回答が返ってくる。電話だと
相手の都合を考えて限られた時間内に数名の意見を求めるのがせいぜいで、有効な回答が得られると
は限りません。また、健康に関する会議室では、自然食品や環境を通して全身や口腔内の健康に
ついて活発な討論が行われ、学習意識の向上にも一役かっているようです。
インターネットは無限の可能性を秘めているとはいえ、技術的にも法的な面からも全てのことが
可能とはいえません。そのことを十分把握したうえで今後は、学術面でも症例検討会なども行い、
より有効で活発な活動を模索していくつもりです。
この会議システムは、同窓会の存在をも変えようとしているようです。同窓会本部と支部、
あるいは個人との情報伝達にインターネットを利用し、双方向の意思疎通を計ろうとしているから
です。現在、このシステムを構築している最中で、接続を完了した会員数も限られていますが、
順次接続会員を増やし、今後の活動基盤にする予定です。
時の流れの中で、徐々に存在意義の薄れることの多いOB会が、情報通信手段の発達により、
全国に散らばった会員の存在を異様なまでに身近なものとし、新たな存在意義を見出そうとして
います。インターネットを使った会話が日常生活の一部になった今、閉ざされた空間で生活する
我々開業医の生活が広がったような感じです。この交流がさらに国際規模で広がれば、
地球規模の新たな人間関係が構築されることを予感します。