REPORTAGE

      院 経 営             デンタルダイヤモンド 7月号掲載 1997.VOL22. NO.299 80-85

コンピュータを駆使し、診療効率化を図る


河田歯科医院

所在地  姫路市南畝町2-56

面積    89u(27坪)

ユニット  5台

スタッフ  衛生士6名

患者数   1日約50名

診療時間  9:00〜18:00

(12:00〜14:00昼休み)

休診日は土・日・祭日

河田 克之

 院長の河田克之先生は、1953年、山口県うまれ。1978年、城西歯科大学(現・明海大学)卒業。岡山大学医学部口腔外科学教室に3年間在籍後、現在地で開業。1992年、歯周病学会認定医。

前で開業。
歯周疾患をメインに

山陽新幹線と山陽本線が走り、姫新線、播但線への乗り換え駅と、交通が便利な「姫路駅」。駅南口から歩いてすぐのところに「河田歯科医院」がある。土地は、近くで産婦人科医院を開業する父親が「将来の開業用地に」と確保してくれたものだ。1階が駐車場、2階が診療所、3,4階が自宅になっている。

「安く開業できた分、いい機械を入れるなど、設備投資をしました。知り合いの医院やデンタルショーに出かけ、開業前の1〜2年は設計に没頭しました」

院長の河田克之先生は、岡山大学医学部口腔外科学教室に3年間在籍した。

「医学部の中の歯科ですから矯正も歯周疾患も小児も扱っていましたが、手術には自信がつきました。歯周疾患は手術で治ると思っていますが、ドクターが手助けをし、衛生士がメインテナンスをしていくことが一番だと考えています。」

1日の患者は約50名。河田先生が診療するのは約30名で、残りは衛生士が担当する。

「患者さんの3分の1が歯周疾患を主訴に来院しますが、主訴でなくても半数は歯周疾患の患者さんですね」







・診療風景

診でスケーリング。歯石を取ることが第一

 河田歯科医院では、初診でスケーリングを行う。「私は、歯肉炎と歯槽膿漏は同じものと思っています。ていねいにスケーリングをしたつもりでも、手術をすると歯石が残っている。これでは治らないのは当たり前です。歯石を取れば歯肉の状態は非常によくなる。歯石を取ることがいちばん大事だと思います。」

初診は1時間。河田先生が主訴を聞き、口腔内のパノラマを撮り、衛生士がスケーリングした後、再び河田先生が口腔内の状況を話す。

「パノラマを撮って、全体から口腔内を診ていきます。歯周疾患は、手術をすれば治るという感覚で始めましたが、効果は上がっていると思います。重度のものを治療していくと、フルマウスの治療になっていきます。顎関節症も勉強しました。咬合の再構成をきっちり行うという考え方で、1口腔1単位で治療を進めていきます。」

患者の中には、初診でスケーリングを受けてびっくりする人もいる。

「抜かなければならない歯でも治してくれる。でも、手術をするし、高い。恐いよといううわさは広がっていると思います。保険なので高いとは思わないんですが、一度にたくさんの治療をするので、感覚的に高いと思われるんでしょうね」

そのため、姫路市内でも離れている地域からくる患者が多い。

「診療内容の特徴を聞いて、意を決して遠くからくる方は、方針をお話すると納得してくださいますが、近くの方は、スケーリングをすると『痛い』とか、『手術』と聞いてびっくりされます。痛い思いをし、メインテナンスを強要されると思う患者さんもいると思いますが、歯石をとってくれ、メインテナンスもしてくれるという患者さんも多いですね」

保険診療が99%。可能なものはすべて保険で治療している。


・カルテはバーコードで入力

ルテ、「治療説明書」にコンピュータを活用

4年前、コンピュータによる「カルテ作成システム」を導入した。治療内容はバーコードで入力するが、主な治療は見開き1ページで入力できるように既成のバーコード表を改良した。

「簡単で、確実で、きめ細かいカルテができます。時間も3分の1に短縮されました。たとえば保険点数と年齢との関係のチェックとか、マルモを取っているのに取ろうとすればエラーチェックがかかるとか、領収書もすぐできますし、カルテとしては完璧に近いと思います。カルテを見れば次回の治療内容がわかるので、衛生士が準備をスムーズに行えるようになりました」

カルテの収納方法も工夫している。開業以来、カルテにレントゲン写真をつけて一括して棚に保存し、すぐ取り出せるようにした。毎月メインテナンスに来院するのが原則だが、5年、10年ぶりという患者のカルテも、生年月日を入力すればすぐ探しだせる。

「過去の治療のすべてを見ながら診療をしますが、根管治療の後とか、歯槽骨の変化とか、得るものが大きいですね。古いレントゲン写真は、治療の助けになり、自分の学習になります。」

コンピュータの活用でインフォームド・コンセントもやりやすくなった。

「患者さんは、どんな状態でどんな治療をされるのか、将来どうなるのか、どのくらい費用がかかるのか不安ですから、極力ていねいに説明しています。その際、コンピュータからプリントアウトして、一人ひとりに合わせた治療説明書を渡します。衛生士から渡すこともありますが、患者さんの名前と日付が入るところが好評ですね」

「治療説明書」は、治療の効率化にもつながっているという。

「いちいち説明しなくても、私の気持ちが伝わります。ある程度の数を診ないと経営的にたいへんですから、いかに労力を少なくして効果を上げるかを考えています。後から説明を加える場合でも、文書ですと言い訳がましく聞こえずにすみますし、その場でよくわからなかった内容ももう一度読み返して理解を深めるのにも役立ちますね」


コンピューター

生士のみの体制で、自主性を尊重

「治療説明書」はまた、衛生士の教育にも役立っている。

「ドクターの考え方を正確にスタッフに伝達する手段としても有用ですね。同じような状況のとき、衛生士が容易にアドバイスできるという利点もあります。衛生士は、『書かれた情報をもとに新たな会話が広がり、患者さんとのコミュニケーションが図りやすくなった』 といいます。

6名のスタッフはすべて衛生士だ。

「一時期、助手を入れたこともありましたが、衛生士だけが理想です。患者さんがいちばん質問しやすい受付には、あらゆることに人を置きたいというのが願いです。いまは、全員が何でもできるので持ち回りでしています」

歯周疾患の患者が多いので、衛生士の役割は大きい。

「メインテナンスの患者さんは1ヵ月ごとにきますので、スケーリングをしながら、出血しているとか、カリエスがあるとか、歯肉が腫れているとかをチェックし、私に報告しますが、何もない人は私と話さずにそのままサヨナラです。衛生士には『患者さんの相談相手になれ』 といっています」

新人は河田先生のアシスタントにつけて、治療中に教育していく。

「足りないところは、ベテランの衛生士が時間をみつけて、教えています。患者さんより専門的な知識を豊富に吸収すべく努力することが大事です。患者さんに代わっていまどうすればいいかを判断できるプロになるための勉強をしなさいということです。定着がいいのは、私の価値観で細かいところまで縛らないからかもしれません。治療説明書でも、私はこう話すけれど、あなた方の経験をプラスして自由にコミュニケーションしなさいといっています」

講習会にも誘いはするが、参加するかしないかは本人の自由と、自主性を尊重している。先生自身は、積極的に講習会や学会に参加し、学会誌で学んできた。


・河田先生のホームページ扉

ームページに「Q&A」を公開

今年1月、インターネットにホームページを開き、治療説明書をまとめた「歯科治療Q&A」を公開した。歯周疾患、ムシ歯、歯科治療、歯と健康、審美歯科などの項目で100近くのQ&Aがある。自分の蓄積を公開することは惜しまない。

「インターネットなら簡単ですから、私が何年も努力して得た情報をできるだけ出していきたいですね。歯科治療に疑問や不安を持たれている方の参考になり、医療の向上につながることを願っていますが、多くの方の共感を得るにはもっと充実させていく必要があると思っています」

ホームページには、歯周疾患や歯槽骨再生に関する先生自身の数多くの研究論文や、趣味の鯛釣り情報もある。会長を務める明海大学自動車部OB会も「会議室」を開き、情報を交換中だ。

テレビ会議システムも導入しているが、こちらはまだあまり稼働していない。

「恩師の研究室と接続して、最新の情報を得ることができます。また、全国5カ所とテレビ会議ができるので、歯周病認定医の症例検討会で役立つはずです。まだ3カ所しかつながっていませんが、これからは必要になると思っています」

夏には4台目のコンピュータを購入して、母校の明海大の放射線科研究室と結び、レントゲン画像の三次元処理や双方向のレントゲン解析をする計画だ。今年3月からEメールも始め、年内にはアクセスができるようにする。


「コンビニにはなるな」とアドバイス

患者、スタッフにも、友人関係でも敵をつくらないことを心がけている。

「スタッフでも、わかっていることを怒られるとしこりが残ります。こちらがミスをすると『先生、なによ』と思われる。患者さんに対しても同じです。怒ったら損するのは自分。人間関係を構築するには、怒らないことが大事ですね」

後輩へは「コンビニにはなるな」とアドバイスする。

「コンビニエンスストアは、どこでも同じような品揃えです。ほかの歯科医院に比べて自慢できるところが最低で、10、できれば100ぐらいの特長がなければダメですね。患者さん本位に考えていくと、利害が相反することがありますが、自慢できるものがたくさんあると、わかってくれる患者さんの比率が増え、報われていきます。そのためには、勉強しなければいけないですね」

将来は、「歯のエステ」をめざしたい。

「自分で歯を守ればいいんですが、80歳までもたせるにはプロフェッショナルな手入れが大切です。エステ感覚でやれば歯はもつと思います。うちでメインテナンスが多いのはその兆候だと思いますが、もっとそうなればいい。患者さんから喜びの言葉がたくさん聞ける歯医者になりたいですね」

コンピュータを活用して診療の効率をあげ、患者とのコミュニケーションも図る。時代とともにある医院の姿を感じる。