歯科医院経営の再生良法

             デンタルダイヤモンド 別冊掲載 2001.VOL26.NO.358 164-173

コンサルタントをどう活用するか、経営安定化にどう役立てるか


院経営上の悩みと心配事
図1 医療サービス業管理体系図
高田
 今回の座談会は、経営コンサルタントによる医院再生のレポートに対して、歯科医 サイドから、コンサルタントをどう活用するか、経営安定化にどう役立てるかという ことがテーマです。
 図1は、医療サービス業管理体系を示したものですが、いま私の医院でやっているこ とを、大さく4つに分類してみました。
 開業医の特徴としては、臨床歯科医としての側面と経営歯科医としての側面があります。 医院経営は診療サービスだけでは事足りません。新しい機械を買いたい、患者さんが定期 健診にきてくれない、スタッフの募集、新しい技術を学びたい、経営状態、さらに院長が 倒れたらどうなるのかなど、さまざまな問題を抱えながら、われわれは診療をしているわ けです。ヒト、モノ、カネ、情報、時間を有効利用したうえで、いかに成果をもたらすか。 すべてを網羅して円滑に押し進めて継続していくのは非常にむずかしいということで、今 回のテーマが出てきたのだと思います。
 私は、現実に起きた問題に場当たり的に対処してきたような気がしています。現在は、 税理士、会計事務所に計数管理とコンサルティング業務を協力していただいています。 私のところでいまどんな問題があるのかといいますと、医療業経営実態調査をもとに作成 したグラフ(図2)のとおりでして、収入は横ばいで、勤続年数の長いスタッフがいるた めに、人件費が上がってきています。損益でいいますと、固定費がだんだん増大してきて 利益が圧縮されてきた。まして企業のリストラや高齢化などで、社会保険より国保の患者 さんが増えてきており、自分のしたい診療をこれから続けていけるのかという問題を抱え ています。このような心配事は、私だけではないだろうと思っています。そこら辺からお 話いただきたいと思います。
安田
 東京は日本一の激戦区と言われていますが、大田区の私の診療所の半径500m以内に12軒 の歯科医院があります。そんななかで一時期のっぴきならない状況に陥り、経営コンサル タントの助言を得て、何とか再生できたという経験があります。
 高田先生がおっしゃられたように、開業医ですので、臨床という側面と経営の側面があ ると思いますが、臨床に関する悩みは日々つきません。試行錯誤の毎日ですが、経営につ いての悩みはないにこしたことはありません。臨床に専念できればいいのですが、世の中 の情勢を考えるとそうもいかない。金銭的なバックボーンがあってこそ、日々の臨床が成 り立つと思います。経営の最大の悩みは、毎月どのくらいの患者さんがきてくれるのか、 紹介の患者数がどれくらいあるのか、キャンセルの割合がどうなのかなどです。それらを、 去年、先月とデータにし、数字で分析するようにしています。経営に関しては、数字にし て把握すると、悪いものは悪い、いいものはいいとはっきり出てきますので、安心する面 があります。
河田
 経営雑誌などを読みながら、自己啓蒙をしながら、ここまでやってきています。管理体 系図の項目に○×をつけてみたら、半分ぐらいしかできていなくてちょっとがっかりしま した。経営はどうすればいいのかと人に聞かれたときに、とにかく努力、努力と言います。 差別化という言葉もありますが、どこの医院でも、ほかの医院に比べてこういうことをし ている、他の人以上に努力しているという話が10項目ぐらいは必ず出てきます。それなの に……という人たちに対しては、だれだってそのくらいは努力している、患者さんから認 められるにはその10倍も20倍もしなければダメなのだと言います。
 だけど、これだけ努力しているのになぜ患者さんはわかってくれないのかと思う。しか し、たとえばインプラントの講習を受けて、インプラントができるようになったから、患 者さんが山のようにきてくれるかというと、そうではない。現実に何人かはきてくれます が、それだけでは経営は成り立たない。いろいろ勉強したり、リコールシステムをつくれ ば、患者さんがくるというものでもないですね。
 無断キャンセル的に治療が終わった患者さんにもコンピュータで自動的に無味乾燥なは がきを送っていますが、毎月30人ぐらい送って回収率は1〜2人です。だけど、そういう努 力の積み重ねを人の10倍も20倍もやれば、患者さんは1/10か1/20はわかってくれて、努力 の数が人より大きければ、患者さんは徐々に増えてくる。そういう偉そうな持論はあるの ですが、この体系図を見るかぎり努力不足だと感じました。
高田
 さきほど話した問題点を改善するために、コンサルタントから「先生はどこに原因があ ると思いますか」と言われて、私なりに分析をして対応したときに、こんなにたいへんだ とは思いませんでした。そうしたら、「先生は一生懸命にやっているかもしれないけれど、 一般の経営者に比べたらまだ6割ぐらいです。ほとんどの歯科医は1割も2割もしていないか もしれない。まだまだみなくてはいけないところはいっぱいある」と言われました。
鞍立
 小千谷市は人口43,000人の小さな町です。私は隣の長岡市出身で、兄が後を継いでいま すが、歯科医の三代日の分家です。行政とか町づくりとか、いろいろなところに首を突っ込 んでいますので、そんななかでのお話ができたらと思っています。
 私の場合、経営コンサルタントにはいままでお願いしたことはありません。医療サービス という言葉には、診療部分にプラスアルファ、患者さんに対するソフトの部分というイメー ジをもっていますが、この管理体系図をみてなるほどと思いました。教育委員会の仕事もし ていますが、校長先生の立場だと学校経営という言葉があります。子どもたちも先生も含め てトータル的なものが学校経営の定義なのだと知ったのですが、この管理体系図によるとま さにそうなのだと思いました。
 従来の医院経営は、よい治療ができればいいという視点がありがちだったのですが、診療 サービス以外の経営管理・情報・危機対応などのサービスのウェイトが非常に高くなって、 そこをうまくすることが診療にプラスになるという環境になってきたと感じています。経営 が頭打ち、右肩下がりと言われていますが、診療以外の項目を1つひとつチェックすることに よって、日常の臨床のレベルが上がってくるのだろうと思います。
 そのことが大切だと思うのですが、私の場合は場当たり的なチェックだけで、トー夕ライ ズ的にはしていません。経営的には最低線だけです。売り上げの金額、支出の金額、保険を 含めた貯えも最低のレベルだけは決めておいて、そこを1つの目標にして、患者数も月の売り 上げもある程度の数字としては読みますが、極端に一喜一憂するのは最近止めました。日々 の1円2円の数字が月の数字になるのはまさにそのとおりですが、それをやり始めると、患者 さんへの対応が保険点数の1点2点になってきて、診療にマイナスになると思うからです。た だ正直なところ、環境が厳しくなってきて、それでは甘いなというのが実感です。

営コンサルタントを活用して、医院を再生
高田
 私も、治療がきちんとできていれば、経営は成り立つだろう、したい勉強ができて、使い たい器具を購入できるだろうと思っていましたが、みなさんが認識されていますように、そ れでは患者さんに喜んでいただける世の中ではなくなってしまった。まして、患者数の停滞、 減少と、人件費の増加だけではなく、少子化で一緒に働く優秀なスタッフの確保もむずかし くなってきました。先生方は実際に何から手をつけられましたか。
安田
 経営コンサルタントを利用した私の体験談をお話しします。私なりにベストを尽くし、真剣 に治療に取り組んでいましたら、開業して2年目でレセプトが月に250枚ぐらいまで順調に伸び ました。努力は報われる、まじめにやればいいんだと考えていたのですが、ある日突然、まっ たくわからなくなりました。私自体がまったく変わったところがないのに、いままでどおりに やってきたのに、気がついたらレセプト枚数が150枚なのです。
 手を抜いたことはないし、それなりに勉強をしてきたつもりなのに、なぜこうなってしまっ たのだろう。何が悪いのだろう。河田先生がおっしゃったように、こんなに努力しているのに どうして患者さんが減ったのだろう、必ず努力の積み重ねをわかってくださる患者さんがいる はずだと思いましたが、原因を探すこともできない状況に陥り、ワラにもすがる気持ちで、経 営コンサルタントに相談に行きました。
高田
 経営コンサルタントに相談して、どんなことが見えてきましたか。
安田先生
1958年、東京都生まれ。
1984年、日新□大学歯学部卒。
2年間勤務医、4年間勤務院長を経験の後、1991年に東京都大田区にて開業。
スタッフは勤務医2名、歯科衛生士5名、その他4名。ユニット6台。1日の憲者数約70名
安田
 いくつかお話をして、信用できそうなのでお願いすることになって、最初にしたことが分析 です。客観的な目で見ていただいて、どこがどうおかしいのか、何でこうなったのかを徹底的 に調べてもらいました。ここが違うのではないかと重要なところをピックアップして、その部 分でアクションプランを立てて、そこから変わっていこうと、自分自身を変える努力をしてき ました。その効果が出まして、現在は、レセプトが月に450枚を維持することができるようにな りました。
 実は、コンサルタントはこうすればいいという答えは私に言いませんでした。私の悩みごと を開いてくれて、私にもわかりやすいよ うに間違っている点、問題点を整理してくれる。そ の作業をとおして、私自身のなかで答 えが見えてきたのです。結局、コンサルタントから、 あなたはここが違うと言われたのは1つあったかどうかでした。
 何が間違っていたのかというと、どこを向 いて開業しているのか、私の患者さんはだれな のかを考えたことがなかったのです。患者さんを分析すると、遠くからきてくださる方もいら っしゃるのですが、だいたいは診療所のまわりの患者さんで、半径500mの町医者なのですね。 そこで、地域の方とともに診療していかなければいけないと気づきました。
 患者さんが何を求めているのかもあまり考えたことがなかったのですが、とくにかかりつけ 医に求めているものは?と考えて、自分なりに出した答えは“安心感’’ではないかというこ とでした。いろいろな意味の安心感があると思いますが、この歯科医院であれば、歯のことに 関してはひとまず安心という存在になろうと考えました。
 その次に、歯医者を支えているのは宣伝でも看板でもなく、患者さんの評判という口コミだ と思い、人はどういうときに口コミをしたくなるのかと考えました。何かに感動しないと、人 に話はしないだろう。悪い印象はあっという間に広がりますが、本当にいい印象も口コミで広 がっていくと思います。口コミでいちばん広がりやすいのは、初診時の印象ではないか。私た ちが初診で患者さんを評価するのと同じように、患者さんも歯科医院を評価している。サービ ス業だから、受付の態度をよくしてニコニコしていればいいというものではないと思います。 口コミは、ファーストインプレッションが非常に大きいので、そのときにフルマークをもらえ るかどうかが大事だと思いました。
 同時に、私が1つ指標にしているのは、再初診の数です。4〜5年したら入れたものが壊れて しまうとなると、再初診の率が落ちてきます。再初診率が高いかどうかが、治療の内容に対す る評価だと思っています。
 患者さんの話をよく聞いていくと、治療内容で感動してくださる患者さんは少ないですね。 うまくできて当たり前、悪ければ怒られるというなかで戦っていかなければなりません。治療 内容でフルマークをもらうのはむずかしい。経営のなかで大事なものは、ヒト・モノ・カネ・ 情報・時間というお話がありましたが、私のところですぐできることはモノによる改善だろう と考えました。私の歯科医院は安心できる歯医者ですよと、目で見てわかりやすいところから 入って、最終的には治療内容で満足していただけて、再初診につなげていこうと思いました。
 治療技術と健康を提供できる、安心される歯科医院になりたい。2年目にして診療理由がすっ きりしてきました。コンサルタントは、そのために何をしたらいいかという考える筋立てを教 えてくれたのです。そういう取り組みをして3年目ぐらいですが、患者さんに少しわかっていた だけたかと思っています。 高田
 さらなる継続のためには何をお考えですか。
安田
 まだ漠然としていますが、世の中の方向としては、予防と歯周と審美に傾くだろうと思い ます。審美は大事ですから、いまもやっていますが、町医者ですから歯周と予防の拡大では ないかと考えています。極力削らない方向での診療が、患者さんに評価をいただけるのでは ないかと思います。

営コンサルタントを利用せずにここまできた
高田
 問題点が出てきて、自分一人で堂々巡りをしているときに、相談をして改善されたことが 実を結んできた。これからは、診療に専念しながら飛躍していこう。絶えずバランス感覚が 必要だということを教えていただいたようなご発言でした。河田先生はどうされましたか。
河田先生
1953年、山口県生まれ。
1978年、城西歯料大学(現・明海大学歯 学部)卒。
岡山大学医学部口腔外科学講座に3年間在籍後、兵庫県姫路市にて開業。
スタッフは勤務医1名、歯科衛生士6名。ユニット5台。1日の患者数約50名
河田
 因ったときにコンサルタントを頼んで、目に見える形でパワーアップしていったという安 田先生の話を聞くと、それだけすごいものなのかと感心しています。私の場合は、家内が経 済学部卒業ということもあり、経営的なこと、診療の悩み、スタッフのこと、患者さんから 文句を言われたことも含めて、すべて家内に相談をしています。家内からいろいろなアドバ イスを受けていたので、経営コンサルタントはいらなかったというのが実態です。アドバイ スをしてくれたり相談にのってくれる人はやはり必要だと思います。
高田
 奥様とともに考え、進めてこられた医院経営の基本的なことは何でしょうか。
河田
 高田先生がおっしゃられたように、診療だけではなく、やらなければいけないことがたく さんありますが、いろいろやるのは当たり前、でも本業は医療なんだよということだと思い ます。最近とくにインフォームド・コンセントの不足が医院経営を圧迫している部分がある のではないか。ここに重点をおくと、医院経営はうまくいくのではないかと私なりに分析し ています。と言いますのは、われわれ歯科医が集まったとき、医療的なレベルでかなり努力 はしているけれど、患者さんはわかってくれないという話が結構多いのです。しかし、それ はこちら側の言い分であって、患者さんサイドからみたときにまだまだ足りないことが多い ですね。
 私の医院ではインフォームド・コンセントの1つの手段として、インターネットを活用し ていますが、ホームページに寄せられる患者さんからの相談や苦情などからいろいろなこ とが見えてきます。そのなかには、担当医の先生の説明不足による質問もあります。本当は すべて説明できる環境にしておかなければいけないのですが。これを補うために、たとえば 抜歯や抜髄、歯肉の切除、デンチャーを入れたときなど100項目ぐらいの医療内容について 注意書きや術後の説明などを、コンピュータで作成した文書を渡しています。
 また、インフォームド・コンセントには歯科衛生士が大きな戦力になっています。私が患 者さんとのやりとりをすべて1人でこなすことはとても無理です。患者さんから聞き出すこ とも、患者さんに説明することも、私に代わって歯科衛生士をできるだけ活用します。現在 6名いますが、彼女たちの説明している時間を足すとものすごい時間になります。彼女たち と私とのやりとりは短時間ですみますので、効率よい診療ができます。患者さんが「治療し てよかった」と思えるように、歯科衛生士が患者さんに上手く伝えることに重点をおいてい ます。
高田
 河田先生は、コンサルタントに勝るとも劣らない専門知識をもった奥様がいらっしゃるの で、われわれと違うと感じました。それと、インフォームド・コンセントをメインに、いろ いろ苦心されている。それが経営の基本ではないかというお話ですが、植木清直氏(医業経 営コンサルタント・故人)は、「われわれがやっていることは、歯科治療技術を媒体とした 対人サービスだ」とよくおっしゃっていました。人に接することから、すべて考えなければ ならないのだよ。治療も、痛くないのが当たり前、抜けて当たり前というわけです。患者さ んがその歯科医院に行ってよかったと思えるだけのドクターの精進、努力があって、スタッ フがそれを認めているからこそ、うちにきてよかったでしょうと患者さんに言えるのだと思 います。

営コンサルタントの活用を検討中
高田
 鞍立先生は、いかがですか。
鞍立先生
1956年、新潟県生まれ。
1983年、日本歯科大学新潟歯学部卒。
同大補綴学講座に在籍。1986年に新潟県小干害市にて開業。
スタッフは歯科衛生士2名、 歯科助手2名、歯科技工士1名。ユニット4台。1日の患者数約25名
鞍立
 私は、開業する半年ぐらい前に父の歯科医院に勤めたのですが、父の診療所が1つのいい見 本になったのだと思いました。これは自分が開業したら使っていきたい方法だとか、逆にこれ はいただけないやり方だとか、父の診療所をみながら考えて、いまの診療所があるのだと思い ました。
 私のベースは、自分が住んでいる地域です。リサーチをして隣の町で開業しましが、生ま れ育った土地ではなく、知っている人はごくわずかでした。ゼロからのスタートでしたので、 地域と交流するしかないというのが原点です。小千谷市は15年前には45,000人いたのですが、 過疎でお年寄りが増えています。大学の補綴科でデンチャーを中心に勉強しましたので、そこ にターゲットを絞り、お年寄りの方にきてもらいやすい医院にしたいと考えました。また、こ の地域で細かい説明をしすぎるとお年寄りには苦痛だということもわかり、その辺の線引きは 自分なりにやりました。
高田
 医院経営上の問題点については、どう解決されていますか。
鞍立
 私の悩みは、スタッフの問題です。スタッフの質をあげたいのですが、若い人が少ないの でなかなかできません。歯科衛生士は宝石のように大切ですし、アシスタントも確保するの に必死です。現在、歯科助手を含めて5人いますが、少し問題があるスタッフでも、診療所に 休まずにきてくれる程度で満足するしかないこともあります。そのような地域的な問題があ ります。
 困ったときは、友人や交流関係のある人たちに相談しています。歯科関係者も、異業種の 人もいます。いろいろな業種の話を聞けば、自分のポジションが大体はわかる。診療所の問 題点などもある程度わかってきたつもりですが、そういうことを具体的に相談できる人間が 周囲にいませんので、経営コンサルタントに相談する時期がきたのかなと思い始めていると ころです。これから業界が厳しくなって、もっと密に医院経営を考えていかなければならな くなると、歯科の特有性を知っている方に相談せざるを得ないと思います。もう1つ、コンサ ルタントをお願いしようかと考えているのは、スタッフとの関係で、「プロのコンサルタン トの方はこう言っていたよ」というふうに使わせていただきたいということがあるからです。

ず自分自身を変えようとしてコンサルタントを依頼
高田先生
1953年、東京都生まれ。
1977年、神奈川歯科大学卒。
2年間薬理学講座に在籍しながら勤務医を経験。1979年に横浜市港北区にて開業。
スタッフは歯科衛生士4名、受付秘書1名。ユニット4台。1日の患者数約40名
高田
 お話を聞いていると、みなさんレベルが高くて、ほんとうにコンサルタントが必要なのは 私だけのような感じがします。私も開業してからいろいろなことをやりました。インフォー ムド・コンセントしかり、それ以前に歯科医療技術がなければと学会に参加したり、雑誌に 出していただいたり、発表したりしました。自信をもちたかったのと、好きなことを突き詰 めていきたかったのですね。
 ただ、知り合いの先輩からは技術だけではだめだと言われてきました。患者さんも人間、 われわれも人間です。昔のように、あの先生はがんこだけれど技術があるからいいという 状況ではなくなってきたのは事実です。スタッフとも、笑顔のチームづくりをしていきたい。 そのためには、院長が変わらざるをえないと思います。院長がいやなことを、スタッフを引 き連れてやることはおかしい。そこら辺が、私の場合はコンサルタントを入れたきっかけで す。
 私のところの問題点は、さきほど申し上げたようにスタッフの能力と年功給のギャップで す。そこで来年度、職能給制度に変えることにしました。職能給制度といっても等価配分す るわけです。一生懸命にやったものだけに分配しよう。院長が全部とらないよ。というのは、 基本的にはみんなでやりたいわけです。ただし、個人個人の義務を遂行したうえでチームづ くりをする。個人の責任もあり、権利もある。それがみんなが元気にできる源かなというの が、悩んだうえの結論です。ただ、そのシステムはどうしたらいいかという具体策が出なか ったので、こういう方法もあるよということを開きたいと思って、コンサルタントと手を組 みました。
 検討しているなかで、もう1つ問題が出てきました。私が当たり前だと思っていることでも、 年齢差のあるスタッフにとっては、必ずしも当たり前ではない。せめて仕事の捉え方に対し てだけは、意思統一が必要と考え、昨年1月より基準創造行動計画開発コースを全員で受講 しました。
 受けてみれば当たり前のことなのですが、この当たり前のことができていなかった。もし、 これを私がやりますと、「それは先生の感性でしょ」と言われますから、コンサルタントに お願いしたのです。
 初めは小学枚の道徳の時間を思い出し、堅苦しくうんざりしました。5人のなかの1人のあな た、気づきと挨拶、早起きと認識即行動……・。しかし、回が進むごとにスタッフの意識もだ んだん変わってきました。「世の中ってこういうことなんだ」と、スタッフとの共通言語が得 られました。ただこれからは、この基準創造行動を診療の場面にモジファイルする。実際に患 者さんに接するとき、「これはこういうことなのか」とか、自分たちで身につけていかなけれ ばだめだと思います。その意味では、2度と受けるつもりはありません。

営コンサルタントを上手に活用するには
高田
 では、どのようなときにコンサルタントを入れるのか。後輩から相談されたら、どのように 話されますか。
河田
 私の場合は、コンサルタントが必要になったら、年齢も年齢なのでそろそろ止めます。経営状 態が悪くなっても余力で何とかいけるだろうという自信はありますが。ただ、だからといってコ ンサルタントが不必要だというのではなく、私は家内という大切な人がいましたので、必要なか ったというだけです。最初に申しましたように、コンサルタントに依頼する前に、リコールシス テムをどうするかやアドバイス的な本がいろいろありますので、それを最低限やってみてからに したらいいと思います。人のお世話になる前に、自分はこれだけ努力をした。あと何が足りない のかという姿勢がいちばん大事だろうと思います。
安田
 私の場合は必要です。自分でやってきたことを自分なりに要点を整理していって気がついたこ とですが、コンサルタントは私と相談して、内容を分析し、計画を立てて実行して、その後の管 理をしてくれる人なのです。これは、歯周疾患患者さんを管理しているときの手法と同じではな いか。言い換えれば、経営不振は、慢性病、生活習慣病ではないか。気がつかないうちに忍び寄 ってきて、気がついたときには屋台骨をダメにしてしまう、悪い病気なわけです。ほんとうに悪 くならないと痛みを伴ってこないという部分でも、歯周疾患と似ていると思います。
 私たちは歯周疾患の患者さんにまず検査をする、多方面から分析をして治療計画を立てて、モ チベーションを高めて治療に入って、治癒した後はメンテナンスが必要になってきます。それと 同じで、私の医院はメンテナンスのステージに入ってきていると思いますが、どこかで再発する 危険性がありますから、つねにチェックを受けて何らかの症状が出始めたら、早めに手を打つこ とが必要ではないかと思っています。
 歯周疾患でも、自己管理がきちんとできる患者さんは、歯科医師が必要でない場合もあります。 私のようにすぐにブラッシングをさぼってしまうような人には、サポートが必要です。私にとっ てコンサルタントというのは、歯科医師と歯周疾患の患者さんの関係と同じではないかと思って います。
高田
 なかなかむずかしいですね。歯科医院のための治療医、メンテナンスも含めてということです ね。
鞍立
 歯科医院の特徴なのでしょうが、経営者は院長ですから、自主性とか主体性は絶対に忘れて はならないですよね。自主性があるなかで、そうだよなという話で吸収していくのはいいこと だと思いますが、それを忘れるとコンサルタントのいいなりになってしまうでしょう。
 いま経営的に−一番苦しいのは、開業して3〜5年からもう少したったくらいの先生方だと思 います。本には3年ぐらいがまんしなさいと書いてありますが、われわれの業界は右肩下がりの 状態ですから、3年たっても一向によくならない。低空飛行のままの人たちがコンサルタントを 利用しようとしたときに、ある意味では危険性があるわけです。コンサルタントがテクニック を使っても、無理な部分はいっぱいありますので、それぞれの先生の自主性、コンセプトなり 目標、医院経営の軸を忘れないようにしないと流されてしまうだろうと思います。
 私の基本姿勢は父の診療所を見たことだと思いますが、先輩として7つ年上の兄がいます。 2年前に父が亡くなるまでは副院長で、診療だけをしていればよかったので、診療以外のこと に関しては私のほうが10年も先輩でした。いまはお互いに相談や情報のキャッチボールをして いますが、兄弟は別にしても、気のおけない話ができる先輩とか、同級生が身近なコンサルタ ント的役割をしてくれるのではないでしょうか。

ンサルタントを活用する際のアドバイスは
高田
 コンサルタントを使おうが使うまいが、いちばん大切なのは自分のしたい診療はどういう ことなのか、その医療理念をもっているかどうかということです。鞍立先生がおっしゃった ように、院長が軸になる。医療理念をきちっと押さえなければ、コンサルタントを頼んだと しても、いつまでたってもフラフラして満足できないことになるのではないかと思います。
 器用貧乏であるよりも、モチはモチ屋に任せる。そんな考え方も1つもっておいたらいい だろうと思います。最後にコンサルタントの活用について、これだけは言いたいということ をお願いします。
安田
 コンサルタントを使えばやりぬけるという安易な発想は、間違いだと思っています。コン サルタントをどういうふうに選ぶのか。私も何人かに相談しました。たとえば、○○のマニ ュアルがほしいと言うと、うちにこれがありますからこれで解決しましょうと、すぐものを 売ってくるコンサルタントは、はなからダメだと思っています。
 いまの経営コンサルタントは、マニュアルがほしいと言ったら、「先生、いっしょに作り ましょう。いくらでも相談に乗りますから、案をまとめてください」と言って、答えは言わ ないんです。答えを言わずに金をとる(笑)。目に見えないものをきちんとした価値をもっ て売ってくれるのが、コンサルタントではないかと考えています。
河田
 この特集を読んでいる先生方は、コンサルタントに興味があるということですよね。私自 身も偉そうなことを言っていますが、経営はあまり芳しくはなかったわけです。右肩上がり といえば格好いいんですが、右肩が上がってやっと人並みということですから、過去はかな り悲惨でした。そのとき、いろいろな特集を見るわけです。今回は経営コンサルタントがテ ーマですが、それを見てピンときたら、すぐやることも大切だと思います。
 経営コンサルタントはいいのかな、どうなのかなと考えていること自体が必要だというこ とですね。それと経営コンサルタントにお願いしたら、高田先生が一度教えてもらったら十 分とおっしゃっているように、1年か2年で卒業しなければダメだと思います。経営コンサル タントが自分がやったらこういうふうによくなったよとか、ここにいらっしゃる先生もよか ったとおっしゃっているのだから、どこかにいいところがあるのだと思います。迷っている だけではなくて、興味をもたれる方は決断して、早く実行することも大切だと思います。み なさんのお話をお聞きして、めざしているものは同じなのだ。ただ方法論がいろいろあるの だと思いました。
鞍立
 まずコンサルタントを頼んだときの疑問として、金銭的にいくらぐらいかかるのかという ことがあると思います。税理士さんとかは顧問料がいくらとかわかります。だから、こうい う特集ができるのだと思います。その辺がわからないと、へたをすると乗っ取られるのでは ないかという危惧をもっている先生方もなかにはいると思うのです。
 これだけの広範囲の項目があるわけですから、コンサルタントをお願いするにしても、院 長がABCのAぐらい知っておかないと、どうにもならないわけです。技術的な診療も大事です が、ほかのことに関してもできるだけ知識を得るためにウイングを広くして、院長の人間的 な幅を高めるのもコンサルタントを利用するときの大きなポイントだろうと思います。コン サルタントの、人を見る目は天下一品です。アドバイスをすれば、この人ができるかできな いかは一発で見抜きます。単純な日々の点数だけではない部分も大切にしておくことが、院 長の自主性、医療理念につながってくるだろうと思います。
高田
 鞍立先生のお話で、コンサルタントに相談してみようとしたとき、金銭的な面でどのくら いなのかなど、デリケートな部分もありますが、差し支えないところで、安田先生いかがで すか。
安田
 費用については、それぞれのケースやコンサルタントによって大きく異なると思います。 たとえば、「経営的に問題がある場合は、それを改善するための準備期間として、最低でも 半年くらいはかかります。したがって、その間だけ非常に優秀な歯科衛生士なり、事務長な りをパートナーとして雇用したと考えていただければよいのではないでしょうか」と、私の 医院のコンサルタントが言っていました。
高田
 コンサルタントを頼むなら、こういうことに気をつけなさいという具体的なお話をいただ きました。自分があって、頼むことだよ。他力本願ではいけないよ。自分の生き方を大切に しようと見つめ直すことが、根本的なことではないかと思います。また、そこを明確にしな ければいけないのだと改めて感じさせていただきました。
 たくさんのヒントをお話しいただき、ありがとうございました。