あなたは一生「自分の歯」で食べられますか?
かしこい歯医者のかかり方

第3章 知っておきたい歯の知識

歯の構造
歯科治療
歯科治療
 事前に十分な説明をして患者さんの理解と同意を得た上で治療を行うことが、医療者に課 せられた義務であることに全く異論はありません。とはいえ一方的に医師の説明を聞くだけ では、言葉にはできなくても何か釈然としない思いをすることがある、というのが現実では ないでしょうか。生涯付き合う大切な自分の体に関することです、ごくごく基本的なもので 十分、少しでも知識を付けておけば絶対役に立つと思います。ここではそういった知識を紹 介していきたいと思います。

【歯の構造】

 歯に関連した病気は、症状がでたときにはすでに手遅れになっている場合が多く、納得の いく治療を受けられない患者さんが多く見受けられます。言い方を替えれば、患者さんの望 まれているような治療は存在しないことが多いともいえます。
 この問題に立ち入る前に歯の構造について簡単に説明しておきます。図に示しましたよう に歯の外壁に相当するのがエナメル質の層です。虫歯は通常この部分から発生しますが、こ の時点では痛みを感じることはありません。エナメル質の内側には、象牙質があります。象 牙質はエナメル質と異なり有機質を35%も含んでいますので、象牙質に到達すると虫歯は急 速に進行します。エナメル質部分の虫歯が針の穴ほどの大きさでも象牙質に大きな空洞が形 成されているということもあります。卵の殻みたいな状態です。「急に大きな虫歯ができた」 とあわてて歯医者に駆け込んだ経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 さらにその内側には歯髄。ここはいわゆる歯の神経です。象牙質と神経は直接接していま すので、先ほどのような大きな虫歯がある場合、神経はその虫歯と直接接していることにな ります。それでも神経は我慢強く辛抱しています。これに気付かないまま放置しておくと、 「ちょっと歯がしみます」というような症状がみられるようになります。この段階になりま すと、神経が完全に炎症を起こしておりますので、歯の神経をとる抜髄という治療になって しまいます。

 一方、歯を支える部分は、歯茎、歯根膜、歯槽骨から成り立っています。このうち歯根部 分は歯のクッションのような働きをしながら歯と歯槽骨を強固につなぎ合わせています。イ ンプラントした歯には歯根膜がないので、急激に大きな力で咀嚼すると痛みが顎に響いたり するのはこのためです。一般的には歯根膜の存在はあまり知られていませんが、想像以上に 重要な役割を果たしています。
 歯茎、歯根膜、歯槽骨がなんらかの形で疾患に侵された状態を歯周病といいます。この中 には、歯茎が炎症を起こす歯肉炎や歯槽骨が溶けていく歯槽膿漏などが含まれています。通 常、歯肉炎が進行して歯槽膿漏になります。歯槽膿漏だけが独立していることはありえません。

【ナチュラルヒストリー】

歯科治療
ナチュラルヒストリー
 歯周疾患のナチュラルヒストリーとは、疾病を放置していたらどのような速さで進行し、 最終的にどういうことになるのかということです。健康だと思われているひとでも10年に 0.6mm、歯槽膿漏の進行傾向の強いひとでは10年に2mm も歯槽骨が破壊されているといわれ ています。急激な進行によりわずか半年で5mm程度の歯槽骨を失うケースもあります。私たち の治療は、このナチュラルヒストリーをいかに改善していくのかという挑戦だと考えられま す。
 現在、失われた歯槽骨を再生するために様々な材料や手術方法が開発されていますが、 残念なことに完全な再生はまだまだ夢のまた夢といっても過言ではありません。厳密にいえ ば、歯槽膿漏に侵された部分でも1mm程度、ほんのわずかな再生はありますが、それ以上は回 復しないというのが現状です。歯槽骨の厚みは10mmから16mm程度です。平均して13mmとして、 10mmが喪失した歯槽膿漏の末期状態において1mm程度の再生は、現状を維持するための補助に なっても、大勢に影響がないので骨再生は不可能ともいえます。現在の歯科医療のもとでは、 歯槽骨の喪失を食い止めて、それを維持するだけで精一杯だという現実を認識しておく必要 があります。

 それにしても人間の自然治癒能力をもってしても、なぜ歯槽骨の再生があり得ないのでしょ うか。歯槽膿漏の原因となる異物、つまり歯石を完全に除去すれば炎症も治まり、骨の回復も 期待できるはずですが、理論どおりことが運ばないのはなぜなのでしょうか。これは私の持論 になりますが、歯石を取り除いても、長いあいだ歯石と密着してきた歯根の象牙質部分が異物 化しているからではないかと思います。象牙質の構成成分のうち35%は有機質です。生体にと って好ましからざる環境におかれると有機質に腐敗が生じ、象牙質そのものが異物と化してし まったと思います。そして、この異物化を免れた約1mm程度が骨再生のある部分だと考えられま す。象牙質そのものを完全に処理できる方法が開発されれば、歯槽骨を再生させることも十分 可能だと思います。
 皮肉なことに、抜歯した跡には歯槽骨が再生されます。日本歯周病学会の特別講演でこんな ことがありました。スライドを使いながら講演していたのは外国人の歯科医師です。歯槽骨の 再生はあまり期待できないということを強調したあと、突然、スライドの写真を示しながら、
「ところが、反対側の6番部位では見事な歯槽骨の再生が認められました」
と、言った。スライドが写った瞬間、笑いとため息が会場に広がりました。6番部位は抜歯さ れて、歯が存在しないのです。これは抜歯という手段によって、異物化した象牙質を除去した ために歯槽骨の再生が実現したのだと考えられます。

【歯石こそが悪】

 釣りが好きなひとであれば、だれでも一度や二度は捕獲直前に糸が断ち切られて、獲物であ る魚に逃げられた体験があると思います。そんなとき魚は釣り針を口に刺したままの状態です。 しかし、やがて針の周辺が炎症を起こして腐り、魚の肉体から自然に釣り針という異物を排除 することになります。炎症という現象は、体から異物を排出するための防御反応という一面が あります。
 歯石が歯を抜いたあとのくぼみに入ると激しい炎症が起こります。歯石が人間の体にとって 好ましからざる異物であるとすれば、それを排出しようとする生体の防御反応が起きても不思 議ではありません。むしろ自然な現象です。ちろん歯石があれば必ず炎症が起こるとは限りま せん。と、いうのも人間の体には免疫抵抗力があるからです。これはとても頼りになる体の防 御システムで、たとえば風邪のウィルスなどが体内に侵入しても抵抗力が強ければ排除します。

 私は現在インターネットを通して、歯科治療に関する質問に回答をしています。その質問を 通して、歯科治療の実態と皆さんが何をどのように悩み、疑問を抱いているのかを知ることが できました。その質問と回答の数例を参考に、今私たちが何をすべきなのかを探ってみようと 思います。

★ 質問:東京都在住 学生 19歳 女性
  初めまして こんにちわ 私は某大学付属の歯科衛生士専門学校に通う学生です。
先日、先生から35歳以上の人がなぜ歯周疾患になりやすく、また診療所や病院に定期検診 に行く他にどんな予防対策があるかという問題を提示されたのですが、調べてもあまりよく わかりません。35歳ごろの人が歯石の沈着率が多いというのまではわかったのですが、そ の理由もはっきりとわからず未だに悩んでいます。40歳以上になるとすでに歯周疾患の対 象となる方が多いのですが、35歳という際どい境目でどんな変化があるのか、とっても謎 です。すごくくわしく知りたいので、よかったら教えてください!よろしくお願いします。
※ 回答;
 歯周疾患の定義は、レントゲン的に“炎症が歯槽骨に及ぶもの”、それ以前の歯槽骨に骨 破壊像の認められないものを歯肉炎と分類しているからです。異論があろうかとは思います が、歯肉炎も歯槽膿漏も原因は、歯石(異物)の進入によって引き起こされる炎症です。炎 症発生に最も影響力の強いものは歯肉縁下歯石です。歯石は、何も成人になってからでもな く、無論30歳を過ぎてから沈着するものでもなく生まれた時から?歯に沈着する要素は同じ くあると思います。ところが、歯の無い時期は、無論歯がないわけですから論外。乳歯は、 1歳前後から萌出を始めますが、歯肉縁下に侵入する以前に歯の方が伸びてきますので、縁 下歯石は存在しません。また、萌出を停止した時点から歯肉縁下への侵入が始まるわけです から、乳歯であっても歯槽膿漏になる可能性もありますが、実際には、侵入して骨破壊を起 こす以前に脱落してしまいます。 永久歯も同じです。6歳(萌出と同時)くらいから歯石 沈着は始まりますが、萌出が止まるまでは歯肉縁下への侵入はないと考えても良いかと思い ます。萌出が止まってから、徐々に歯石は沈着と歯肉縁下への侵入を始めるわけですが、歯槽 骨に達するには最低でも数年かかると思われます。
 全身疾患を有する場合や若年性歯周疾患と呼ばれるものは別にして、歯槽骨に到達し始め るのはおおむね20歳前後だと思います。しかし、その時期にはレントゲンで確認できる程の 骨欠損がないのが普通です。レントゲンってかなりアバウトでアナログ的な発想です。その アナログ的な診査に引っかかる程の骨欠損に成長するのが30歳を超えてからというのが実態 だと思います。疾患の分類は、原因の相違によって分けるべきです。原因が異なれば対処方 法が違うからです。それを、「炎症はあるが歯肉に限局している」か「歯槽骨に達している」 かによって分類したのが間違いだと思います。しかもレントゲンというアナログ的な基準で。 分類を先にしたものですから、“原因も異なるはずだ”という発想が生まれ、関与する菌が 異なるはずだという認識となり、“若年性と成人性”“歯肉炎と歯槽膿漏”が異なる菌によ る疾患という発想が今の歯科界を支配しているように思われます。原因は同じ、宿主の抵抗 力と歯石沈着速度(体質)が異なるだけの話だと思います。その臨床的異常が確認できる時 期がおおむね35歳だと思えば謎が解けるのではないでしょうか。

【ところで歯石って?】

★ 質問:青森県在住 主婦 24歳 女性
 歯石のことについてお聞きします。先生は毎月歯石を取ることをおすすめしているようで すが、歯石とはいったい何で、歯のどこについているものなのでしょうか?そして歯石の除 去は痛みを伴いますか?
 私は以前、歯磨きをすると前歯の歯茎と歯の境目がしみて痛くてしょうがなく、歯医者さ んに行ったら歯を磨く時に力を入れすぎていると言われたことがあります。すごい力で磨く ことで歯茎がどんどん上にあがっていってしまって、神経部分が出ているとのことでした。 治療としては、その部分に何か白いものをかぶせてもらったようで、それ以降しみることは ありません。今私は、歯全体を健康に保つために歯石の除去を考えていますが、その際、こ のかぶせてもらったものが削られて、また痛くなるんじゃないかとか、食べ物がしみるよう になるのではないかなど、心配事が出てきてしまいました。とりあえず、一番の心配事は歯 石をとる時に痛みがあるかどうかなのですが・・・。いつも、こんな質問で申し訳ありませ んが、よろしくお願いします。
※ 回答:
 歯垢が無機質を取り込んで歯石に変化するという見解もありますが、口腔内の有機質が沈 着したものが歯垢、無機質が沈着したものが歯石と考えた方が分かり易いと思います。鍾乳 石同様、リンやカルシウムなどの無機質が、歯と歯茎の境目に沈着したのが歯肉縁上歯石で、 それが更に石灰化して歯肉縁下の歯根に沈着したのが歯肉縁下歯石です。一旦歯石を取った あと、毎月取る歯石はほとんど痛みを感じません。24歳ということですので、それ程激しい 炎症もないと思いますのでそれ程痛みがあるとは思えませんが、炎症の程度によっては少し 痛む所もあるという程度だと思います。

★ 質問:神奈川県在住 会社員 35歳 男性
 河田先生、歯石のことでひとつ教えてください。歯石というのは見てすぐ分かるものなの ですか?
色や触った時の感触(ザラザラとか)で簡単に分かるものなのでしょうか。
それと、歯の根本で歯茎に隠れているような場所では、どのようにして歯石の有無が分かる のでしょうか。
 先生のホームページで歯石除去の重要性がとても良く分かりました。でも先生のように超 音波などでスケーリングを専門的にやっているところは少ないように感じます。予約ついで にそのあたりの様子を探るには、どのような問い合わせ方が比較的有効でしょうか。「スケ ーリングを専門的にやっていらっしゃいますか?」などと聞いてみるのが良いのでしょうか。 なんだか質問ばかりで恐縮します。よろしくお願いいたします。
※ 回答:
歯槽膿漏も末期状態になって、歯肉が極端に退縮した状態では歯石の存在は誰の目にも明ら かです。歯に付着した汚れには、プラーク(歯垢)、歯肉縁上歯石(白黄色)、歯肉縁下歯 石(黒色)があります。プラークは染色剤で染めだしてみると容易に確認できますし鏡で観 察しても存在が確認できます。また、歯肉縁上歯石も同様に確認できます。しかし、付着す る場所が下顎前歯部の裏側のように見難い場所ですので普通に見ただけでは確認し難いよう ですが、注意深く観察すると分かります。また、一度歯石を取ったあとの舌触りを経験して おくと、付着した時の感覚の相違が分かるようになると思います。
 一方、歯肉縁下歯石は名前の通り、歯茎の下に付着した歯石ですので一見して確認できる ことは稀です。色が黒いので、辺縁歯肉が何となく黒ずんで見えるケースもあります。それ よりも、“歯茎から血が出る”とか“歯が浮いた感じがする”などの臨床症状があれば歯石 があるものと思っても間違いないと思います。
 超音波スケーラーは、今時どこの医院でも置いてあります。 その割には、 歯石が除去さ れていないのも事実のようですね。単純に「歯石をとっていただけますか?」と聞いてみる のが一番良いのではないでしょうか。どの程度熱心にしてくれるかは、体験してみないと分 かりません。

【歯石こそ歯槽膿漏の原因】

 歯槽膿漏の原因として、私は歯牙への歯石沈着を強調してきました。
実は、歯槽膿漏の原因は、歯学界では特定されていません。テレビコマーシャルでおなじみ 「歯周病菌と闘う○○○」のように、歯槽膿漏を引き起こす特定の細菌が存在するのではな いかという説が最も一般的ですが、30種類ぐらいに絞られたとはいえ、電子顕微鏡や遺伝子 工学の発達した時代に未だ解決されていません。私は逆にこの未解決という事実に着目して います。おそらくこれら30種類の菌は、特定の疾患を引き起こす菌ではなくて、単なる雑菌 ではないかと思うのです。
皮膚にトゲが刺さったときに化膿するように、雑菌が炎症の引き金となっていると考えるの が自然ではないでしょうか。つまり、トゲがなければ化膿し得ないように、炎症を起こす菌 が何であれ、歯石をはじめとした汚物さえなければ炎症は成立しないはずです。最近では、 食生活やタバコ・ストレスなどもまるで歯槽膿漏の原因であるかのように言われています。 これらは生体の抵抗力を弱め、炎症が起こりやすい環境を作ることになりますが、歯槽膿漏 の原因とはいえません。また、過剰な咬合圧のかかる歯に周囲の骨が破壊されることはあり ます。これは、口腔内全体の歯槽骨を破壊する、いわば歯槽膿漏の助長因子と考えることは できますが、そもそもの炎症発生のメカニズムを説明することはできません。それ以外に、 体質・歯質・唾液の性状・生活習慣なども関係しているとは思いますが、私たち歯科医にそ れらを改善したり、コントロールすることはできません。
 歯槽膿漏を抑えるためには、炎症の原因である雑菌、もしくは歯石の排除が必要です。し かし、無数の細菌が生息する口腔内において、特定の細菌だけを排除することは不可能でし ょう。また、仮にそれが実現されたとしても他の菌種の増殖をうながし新たな疾患を招くこ とも懸念されます。雑菌の排除が不可能となれば、歯石をはじめとした汚物を根気よく除去 しつづけることが唯一可能であり、有効な手段だと思います。ブラッシングの有効性を否定 するわけではありませんが、実際問題として、すでに定着した習慣でありながら、50歳を過 ぎるころになると末期の歯槽膿漏出現を許している現状を見直す必要があります。「為せば 成る」とはいうものの、ブラッシングだけで生涯自分の歯を保つだけの技術と根気を全ての ひとに求めるのは不可能だと思います。
「遠くの目標をみつめながら、今私たちにできることからはじめる」生涯自分の歯を保つこ とを目指して、毎月の歯石除去を習慣づけて下さい。着実に成果のあがる方法を、その成果 を実感しながら歩んでいくことが大切ではないでしょうか。

★ 質問:東京都在住 主婦 34歳 女性
 河田先生、こんにちは。先生のホームページは、数ある歯医者関連ページの中でも、わか りやすくて、ためになるので、よく拝見しています。先生に質問があります。
 歯菌や、歯周病菌って、うつるものなんですよねえ? ってことは、虫歯いっぱいの人 とか、歯槽膿漏の人と、キスしたり、口うつし(そんな事ほとんどしないケド)とかしたら、 虫歯や歯周病がうつってしまうんでしょうか?
私は歯も歯茎も弱いので、一生懸命歯医者さんに通って治療しているのに、せっかく治って も、だんなが菌を持ってたら、うつっちゃう、ってコトになるんでしょうか??
それに、会社の上司が歯槽膿漏で、喋る時につばを飛ばしまくるんですが、もしそれが私の 口に入ってしまったら(気持ちワルイ・・・)、とか考えると、恐ろしいのです。なんだか 妙な質問でごめんなさい。でも、この間からちょっと疑問に思っているのです。
※ 回答:
 この地球上には、無数の微生物が生存しており、私達もその恩恵を受けながら生活してい ます。この共存を無視した発想や治療方法には、おのずと限界があることを肝に命じておく 必要があります。無菌の状態で育った胎児は、出産と同時に、まず母親の産道で無数の微生 物と遭遇します。それ以降、地球上に生息する無限に近い微生物との共存が始まります。 最近のニュースでしたね。虫歯菌が母親からの“口うつし”なんかで伝染するってショッキ ングな報道があったのは。もっともらしい研究データを前に私もしばらく考え込んでしまい ました。
 もし虫歯や歯周病が特定の細菌によって起きる疾患であれば(結核が結核菌によって発症) 、伝染病のような対応が必要となるでしょう。例えば虫歯…これはストレプトコッカス・ミュータン ス菌をはじめとしたミュータンス属と他の多くの種類の細菌が歯を腐食?しているものです から、もはや特定の細菌ではなく雑菌の仕業と考えるべきだと思います。歯周病にしても同 様です。確かに無菌状態では、虫歯も歯周病も存在しないかも知れませんが、この地球上で 雑菌の侵入を阻止する事は不可能です。相手が雑菌であれば、ご質問のあらゆる行為で口の 中に侵入してくるでしょうね。でも、あなたの口の中にはその環境に適した微生物が所狭し と生息していますので、新たな来客が住み着くことはほとんど不可能です。それと、歯槽膿 漏の治療をして改善が認められたのであれば、それはあなたの口腔内環境が良くなったから です。新たな細菌が侵入したとしてもそれらが受け入れられることはあり得ません。他人の 唾液や雑菌が、自分の口腔内に入ることは決して気持ちの良いことではありませんが、それ によって虫歯や歯周病が悪化する心配はありません。

【歯を失わないために】

★ 質問:大阪府在住 学生 20歳 男性
 私は上の前歯(中切歯の右)が歯槽膿漏になり抜歯しなければいけないと言われました。 しかもその1本だけでなく、下の犬歯から犬歯までの間の歯がぐらついていて、すこしだけ骨 が溶けていると言われました。かなりショックを受けたのですが悩んでいてもしかたがない ので、今一生懸命に磨いています。このホームページを見て、歯槽膿漏になってしまっては もう治らないと書いてありましたが、ある番組ではたくさんのカルシウムをとっていたら治 ったと言っていました。本当はどうなんでしょうか?治るなら少しでも溶けてしまった骨を 元どおりにしたいです。おしえてください。
※ 回答:
 “20歳で歯槽膿漏のために抜歯”だと先が思いやられますね。
余程しっかりコントロールしないととんでもないことになる可能性が高いのと、反対に今か らしっかりとコントロールすれば生涯歯を保存することも可能です。歯槽膿漏で一度失った (溶けた)歯槽骨を再生することは、原則として不可能です。その意味では歯槽膿漏は治ら ないといっても間違いではないと思います。しかし、“骨が溶けた”といっても現状では何 ら支障はないと思います。放置しておくとどんどん進行してしまいますが、歯槽膿漏をしっ かりコントロールして20年後も(できれば生涯)今と同じレベルを保つことができれば問題 はないわけです。それと、歯肉出血や口臭などは消失します。
そのためには!!  たくさんのカルシウムを採ってもムダ!
現在歯にこびりついた歯石を徹底的に取って、新たに付着してくる歯石を毎月取りつづける 習慣を身に付けて下さい。

★ 質問:東京都在住 会社員 32歳 女性
 虫歯治療のため歯科医に行き、パノラマのレントゲンをとりました。そのレントゲンを見な がら治療個所の説明を受けたのですが、上の両1番の歯根がすこし吸収されているようだとい われました。詳しくは小さいレントゲンをとってみないとわからないとのことでした。
 また、かみ合わせがすこし開口(上下の1と2がかみ合ってなく、隙間は2mmくらい)なので、 いつも舌でそこをおしているせいかもしれない、とも言われました。これは歯周病が始まって いるということなのでしょうか。歯を失わないためにはどのような対策をとればよいのでしょ うか。アドバイスをお願いします。
※ 回答;
 「32歳ですからそろそろ」という以前に、“50〜60歳で入れ歯”というのが現状です。その 主な原因が歯槽膿漏ですので、「日本(世界)中皆で歯槽膿漏の抑制に努めましょう!!」提 言したいところです。
「歯磨きをすれば」とか「歯磨きさえしておけば」というのは人生50年だった昔の話。そこ からさらに20〜30年歯を健全に保つには昔ながらの方法では限界!
これからは、毎月歯医者に通って歯石除去をすることを習慣にしましょう!!

★ 質問:東京都在住 主婦 30歳 女性
 最近、上下の歯が右側だけ、どの歯ということなしに痛みます。特に、ものを食べたり、横 になっている時などに痛み出すのですがその頻度もだんだん多くなって来ています。歯を磨く 際に歯茎から出血もあります。ただ、見かけは歯茎に腫れや異常もありません。奥歯はほとん ど以前に治療済みで、外見からは新たな虫歯は確認できません。やはり、歯周病でしょうか?
ただ、痛みが右側だけなのも気になります。2ヶ月ほど前に歯科を訪れた際には、特に注意 は受けませんでした。よろしくアドバイスをお願いします。
※ 回答:
 “上下の歯がどの歯ということなしに痛みます”ということですので、年齢的にも歯石沈 着による歯肉の炎症が原因だと思います。歯肉炎というよりは、むしろ歯槽膿漏の初期症状 と考えるべきだと思います。それ以外にも根尖病巣や歯根の破折なども原因として考えられ ますが、可能性は低いように思います。2か月前に受診されたということですが、徹底した 歯石の除去は行いましたか?麻酔をした上で、同部の歯石を除去すればおそらく治まるはず です。 原因不明の痛みの多くが、歯石やセメントの残留による歯肉炎です。

★ 質問:京都府在住 23歳 女性
 私は、去年の4月に歯周病ですと言われました。その理由としては、歯肉が炎症をおこし ていて引き締まっていないというものでした。上顎小臼歯の揺れを訴えるとレントゲンでも グラつくほどまでにはなっていないし、生理的動揺と言われその歯医者では3、4ヶ月ごと の除石とはみがき指導を受けました。ただ元々根っこが短いらしくその分揺れを感じやすい のかもとの事でした。でも歯茎は昔から赤くよくムズムズしていて、歯と歯の間の歯肉は丸 まってすき間もあいていて決してキレイな歯茎ではありません。その事も聞いてみましたが 「年と共に歯肉はやせてくるものであなたの場合病的な事でやせている訳じゃないから気に しなくても良い」と言われました。もちろん毎月の除石はしていくつもりですがどこでも毎 月は取りすぎ、3,4ヶ月ぐらいでいいと言われてしまいます。
※ 回答:
 “歳をとれば歯は無くなるもの”“50歳までは歯があったけどさすがに60歳になれば歯無 し”という一般的な常識からすれば何ら深刻に考える必要のない話かも知れません。“年と 共に歯肉はやせてくるもので…”の延長は60歳過ぎれば総入れ歯です。確かにどうにもなら ない末期の歯槽膿漏は50歳過ぎてからですが、歯を支えている歯槽骨の破壊は歯牙萌出の止 まった時点から始まることを思えば、あなたに限らず人類皆歯周病患者です。その意味では、 間違いなくあなたも歯周病患者です。おそらく、30歳や40歳で入れ歯になるような状態では ないという診断のようですね。
“毎月は取りすぎ”に対して私は反論したい…「1日に3回・5回磨くよりも毎月の歯石除 去を!」
“歳をとれば歯は無くなるもの”と信じている歯科医の診断よりも、“歯周病ではない”と いう気休めの診断を与えてくれる歯科医よりも…診断名はともかく確実に訪れる歯槽膿漏末 期を延期させる手立てを講じる方が得策だと思います。

★ 感想:東京都在住 教師 41歳 女性
 河田先生へ以前に、保健室のサイトにリンクをお願いした都内の中学高等学校の保健室に 勤務するものです。先生のページを拝見していて、歯槽膿漏アレルギー説について納得いた しました。アメリカのスティーブン グリーンという歯科医が「ビタミンC」で歯周病が改 善、という講演を行っていましたがアレルギーにビタミンCが効果的なことを考えると、な るほどとおもいました。 ※ 回答;
 学校教育で“月に1回くらいは歯石除去にいったほうが良い”と言って頂くとありがたい です。それが本当に浸透すれば、歯の寿命が大幅に伸びると思います。

【特殊な歯肉炎】

★ 質問:愛知県在住 主婦 31歳 女性
 歯茎についての質問です。久し振りに会った友人の歯茎の色が、全体的に赤黒く暗い色に なっている事に気がつきました。友人に告げたところ、「病気かなあ」と深刻に相談され、 知識の無い身ゆえに困っております。曖昧な質問で、お答えしにくい事は承知の上ですので、 アドバイスの一つとして教えて頂ければ幸いです。
 友人は26歳。独身の女性です。日常生活では、野菜や果物等の摂取量、運動量などが足 りていないと思います。半年間ほど内科から出された安定剤等の飲み薬を服用しています (薬の名前は分かりません)。喫煙量は一日に一箱程度です。口臭はなく虫歯もないようで す。健康状態も本人は異常を感じてはいないようです。以上です、どうかよろしくお願いい たします。
※ 回答:
 ご質問の範囲で考えられるのは、“メラニン沈着過剰による歯肉変色”のように思います。  が!! “安定剤服用”の中には“抗てんかん薬”ということもありますので薬の副作用と いう可能性も十分考えられます。有名な病名としては、「ダイランチン歯肉増殖症」というの があります。ダイランチンというのは抗てんかん薬の一種ですが、ダイランチンに限らず抗て んかん薬には大なり小なりそのような副作用があるように認識しています。てんかん薬という と、「泡を吹いて卒倒するような人に投与する」みたいなイメージがありますが、案外身近な ところで使われているようにも聞いています。自律神経失調症とか?
 もしそうであれば、薬の服用を止めるか少なくすることで症状は改善します。それともう一 つ重要なことは、歯石の全くない清潔な口腔状況であれば、てんかん薬を服用していても歯肉 炎症は起こりませんので歯石の除去を徹底することを助言してあげてください。抗てんかん薬 の副作用として有名なダイランチン歯肉増殖症は特殊な歯肉炎症のなかでも特に有名な疾患で す。歯肉が赤く腫れて歯磨きも出来ない状態が続くようですと危険信号です。反対に、いくら 徹底的な歯石除去を行っても改善しない歯肉の炎症があります。抗てんかん薬同様に精神安定 剤的な薬の服用をされている方は要注意です。意外と落とし穴なのが健康食品と呼ばれている 薬です。健康食品の成分にもよりますが、心当たりのあるひとはしばらく服用を中止して様子 をみられてはいかがでしょうか。
 同様に、しつこい歯肉炎の中にはカンジダ菌といわれる真菌類による炎症が考えられます。 カンジダ菌は誰の口の中でも生息している口腔内常在菌の一つですが、何かの拍子で異常繁殖 していることが伺われます。カンジダ菌に効く軟膏やうがい薬を処方してもらって1か月程度続 ければ効果がわかります。

【メインテナンスによる口腔内の変化】

 疲れると歯が浮いた感じになるとか、旅行から帰ったら歯磨きのときしみるといった経験は ありませんか?
口の中がなんとなく粘っこいとか、歯の治療は終わったはずなのに2年後にまた神経を抜かれ たというような経験はありませんか?
歯医者に行くほどでもなく、そのうち治るだろうと思っていたらいつの間にか気にならなくな っていたというような小さな炎症の積み重ねが、50歳になって末期の歯槽膿漏出現を許してい ます。歯茎からの出血が少なくなるのはメインテナンスに入る前に実感されることです。歯肉 炎症のあった初診時の歯石除去と異なり、メインテナンス時の歯石除去は短時間で痛みも伴い ません。メインテナンスをはじめて半年くらいすると、先にあげた異常が少なくなったのに気 付くと思います。2年ほどすると「そういえば昔はよく歯医者に駆け込んだものだが最近はな くなった」と思うようになると思います。ここまで来れば、毎月の歯石除去がほぼ習慣になっ ているはずです。
 10年くらい経つと、それまで歯医者に行くたびに神経をとられたり、歯を抜かれていたのが 極端に少なくなったのがわかります。将来への不安がなくなり、希望の光がさしこむのもこの ころです。その希望が確信に替わるのが20年後くらいかもしれません。

★ 質問:北海道在住 25歳 主婦 女性
 5日くらい身内の不幸があり、ほとんど眠れず働きっぱなしでした。歯を磨こうとすると、 歯と歯茎の間が神経に触ったような痛みがはしります。水もしみますが、普通にしていると痛 みは何もありません。これは疲れからきていて自然に治るものなのでしょうか?
※ 回答:
 現在の痛みは、体調が戻れば回復するはずです。但し、痛みのある場所には何か炎症を起こ す原因が存在しているはずです。通常は、歯石が原因であることが多いのですが、それ以外に もセメントの残留や虫歯などが潜んでいる可能性もあります。炎症を起こすような原因があっ ても体調(抵抗力)が良ければ炎症を押さえこんでいますが、疲れた→抵抗力の低下により炎 症が起きたものと思われます。気のせいとか体調のせいにしないで原因の調査および除去をす るよう心がけてください。

★ 質問:三重県在住 学生 15歳 男性
 歯を磨いた後でもつばの匂いをかぐと臭いです。あと、鼻息だけで1メートルも離れている 人に臭いと言われます。どうしてですか?
※ 回答:
 口臭の原因は99%歯石の沈着に伴う、歯肉の炎症によるものです。炎症の発生に伴う排膿 (膿が出る)、これが口臭の原因です。従って、まず歯科医院に行って歯石の除去をすべきで す。15歳とのことですので若年性歯周疾患の可能性もありますので、レントゲン診査を行い 適切な処置を講じないととんでもないことになりかねません。気がかりなのは、“鼻息だけで も1メートルも離れている人に臭いと言われます” の部分です。99%は歯肉の炎症と申し 上げましたが、残りの1%として胃などの消化器系の疾患が考えられます。消化器系の疾患と しては、胃潰瘍・悪性疾患など。また、口腔内の炎症にしても、白血病やエイズなどの忌まわ しい疾患による免疫力の低下に伴う歯肉の炎症なども可能性があります。
 重々しい疾患を並び立てて申し訳ありません。あなたが、過度な神経質で必要以上に口臭を 気にするタイプであれば問題はないのですが、たかが“口臭”とあなどらず内科的な診断も必 要かと思います。

★ 質問:愛媛県在住 会社員 26歳 男性
 はじめまして。ずっと歯がしみるのと口臭で悩んでいたのですが、思いきって歯医者に行 ったら「歯石がたくさん着いていますので、歯茎も腫れているようです」との診断。てっき り虫歯だと思っていたのでこの際がんばって治そうと思い、血まみれになりながら歯石を除 去してもらいました。それからブラッシングも「食べたら即磨く」をモットーに夜は1時間 近く磨くこともあります。 歯茎も少しですが引き締まってきましたし、血もでなくなって きました。(^-^ 
「歯を大事にすること」に目覚めた私はこのページで奨められているように「1月に1回の 歯石除去」を実行しようかと思うのですが「歯石取ってもらいに来ました」と言うと「この 前とったばかりじゃないか」とか(歯科医の先生に)言われないですかね? 
僕らのまわりでも「1月に1回」というとビックリする人が多いです。常に綺麗な歯、目指 したいですね。
ご感想:
感動しました。 歯石除去がこんなに効果のあることとは知りませんでした。
※ 回答:
 嬉しく、拝見させていただきました!!
インターネットを見て私の医院に訪れる方は、若い(30代)にも関らず歯槽膿漏のひどい人 ばかりです。しかも、全員に共通しているのが「若いころから、歯医者"に歯槽膿漏の気があ るから注意しなさい"と言われながらも何らの処置を施されることなく放置されていたことで す。」中には、歯石を採った方が良いのだが数十万かかりますと言われて諦めた方もありまし た。文面から察するところ、年齢の割に歯石の沈着が激しいように思います。放置しておくと 少なくとも 40歳になる頃には取り返しのつかない状況になっていたのでは…。幸いにもこの 時期から目覚めて「1月に1回」を実践されれば生涯歯の健康を保つことは可能です。 是非 自ら進んで実践して下さい。
ご心配の通り「この前とったばかりじゃないか」と言われる可能性は十分あります。一般国 民は勿論、歯科医師・・・・厚生省も歯槽膿漏に関しては有効な手立てを打ち出す以前に完全 にお手上げ状態ですから。「それは、良い心がけだ。」と歓迎してくれる歯科医が増えること を望むと同時に「自らの健康は己で守る」を信条に、あつかましく歯科医にお願いして是非実 践しつづけてください。このような習慣が広がれば、歯の平均寿命は必ず20〜30年は延びると 確信しています。

【歯石の除去】

歯科治療
大臼歯部におけるSC/RPの効果
Fleischer & Mellong:J.Pero,1989
 主な目的は歯肉縁下に沈着した歯石を除去することですが、当然、歯肉縁上に沈着した歯 肉炎症歯石やプラーク(歯垢)・食物残渣も除去することになります。時には補綴(ほてつ) 物装着時に残存したセメントや歯の表面に沈着した種々の色素沈着物も除去します。プラーク や色素沈着物は、別にエアフローとよばれる水と塩のような重炭酸ナトリウムの粉末を圧縮空 気で吹き付けて除去します。歯石を除去するために30分も1時間もの時間を要することがあり ます。私の医院では少なくとも初診の患者さんに対しては、時間をかけて取り除くようにして います。「こんな丁寧に取ってもらったのははじめてです」「2、3分で十分なのかと思って いました」という反応が返ってくることもあります。実はそれでも深い位置に大量の歯石が残 っていることもあります。というよりも、中程度以上に進行した症例では必ず残っていると考 えた方が正解です。ですから初診時にはより強力な方法で歯石を除去しなければならない方も 数多くいらっしゃいます。
 歯石の沈着程度によって、全顎の歯石を除去するスケーリングと、ブロックごとに麻酔をし て更に深い位置に沈着する歯石を除去するスケーリング&ルートプレーニング(SC/RP) があります。保険規則によれば、通常全顎のスケーリングを2回に分けて行い、そのあと左右 臼歯部と前歯部を上下に分けて計6回で除去します。更に必要とあれば補綴(ほてつ)物を除 去して歯石を除去することもあります。最終的には、歯茎を切って、めくって直視下で除去す る手術(フラップオペ)を行うこともあります。メインテナンス時に行う「歯石除去」はスケ ーリングとエアフローによる口腔内全体の清掃です。

★ 質問:埼玉県在住 会社員 42歳 男性
 数年前より歯茎を押すと黄色い膿のようなものが歯と歯茎の間から出始めました。どこと いう訳ではなく、全体的に出ています。先生のホームページに載っている歯科医を参考にさ せて頂き通院しました。そこで診断してもらった結果、かなり歯槽膿漏が進行しており、こ のままでは50まで持たないかもしれないといわれました。そこで下の奥歯から2本程度を 手術し歯石の除去を行いました。その時に先ほどあげました膿のようなものの話をしたので すが、歯医者さんが言うには”歯周ポケットがかなりあるためそこに食べ物が残り、そのカ スが出てくるのでしょう”と言われましたがどうも納得できません。歯磨きをした後数時間 でもうかなりの膿のようなものが出てきます。現在は口の中が一日中ねばねばしたような感 じです。これはどのようなものなのでしょうか。また歯槽膿漏と関係あるのでしょうか。 ※ 回答:
「歯槽膿漏の進行に、唾液の性状が何らかのかたちで関与している」と言われています。事 実、歯槽膿漏の進行傾向の強いひとの口腔内はネバネバしています。だからといってネバネ バした唾液性状のひとが歯槽膿漏進行傾向が強いと判断するのは間違いのように思います。 と、いいますのが、長年歯槽膿漏のメインテナンスを続けてきた経験から、当初唾液がネバ ネバしていた患者さんもメインテナンスを始めて半年くらい経過すると唾液がサラサラにな っていくからです。歯肉炎症の原因である歯石をはじめとした、汚物を除去し続けて炎症が 起こらない口腔環境が確立された段階で、眼に見えない程度の排膿が治まって唾液がサラサ ラになるのだと思います。
 ご質問の“膿のようなもの”は、やはり膿でしょう。
40歳そこそこで「10年も保たない」と言われる状況ということは、全体に末期状態であるこ とが伺われます。手術した場所だけでなく、全体に徹底した歯石の除去を行うべきでしょう ね。

【歯石除去の問題点】

 医療行為全般に共通していえることだと思いますが、何らの弊害や副作用を伴わない治療 など存在しないのではないでしょうか。この事実を直視し、治療による損失はかりに気をと られるのではなく、治療をしなかった場合の損失と比較してください。損失が全くないのが 理想的ですが、歯石除去にも様々な弊害があります。歯石をとれば、歯がすり減るとか、傷 つくという懸念、また、治療後歯がしみるとか歯肉が痛むという事態は実際に存在します。 取り方が下手とか乱暴という以前に、目的である歯石を徹底的にとることを優先すれば必然 ともいえる結果です。歯石沈着のために炎症を起こしているときはなおさらです。それらの 弊害を十分承知したうえで、なおかつ歯石を除去する必要があると医師が判断するわけです が、患者さんも共通の価値観を共有していなければ信頼関係を損ねる結果になりかねません。 インフォームド・コンセントがクローズアップされている現在ですが、ご自身の健康にかか わることですので最低限の知識だけはあらかじめ知っておいていただきたいものです。
 まず歯石を除去するときに歯が傷つく、あるいは歯がすり減るのは全くの杞憂というわけ ではありません。しかし、それによって歯が支障をきたすことはありませんし、たとえあっ たとしても100年以上の歳月を要するものと思もわれています。歯の磨耗を心配して歯石の除 去を怠れば、歯は50年か60年でだめになるという現実と対比する必要があります。
 歯石を除去する際の痛みは理性的に納得する必要があります。炎症が完全にコントロール されているメインテナンス時の歯石除去はほとんど痛みを感じません。痛みを感じるという ことはそれだけ炎症が強いということですから、痛みをこらえてでも歯石をとる必要がある ことを納得していただかなくてはなりません。もっとも、歯石をとる側も人間ですから、患 者さんが痛むのを喜んでいるわけではありません。当然のように遠慮しています。おおまか な歯石だけを除去して、あとは日を改めて麻酔をしてとるような対処を考えます。
 歯に詰めた金属が外れる恐れがあるので、歯石の除去は避けたいという患者さんもいらっ しゃいますが、これも間違った受診の態度です。確かに歯石を除去しているときに、歯の金 属が外れることはあります。歯科医師や衛生士がミスを犯したと考えるひともいるようです が、とんでもない誤解です。歯に振動を与えて金属が外れたということは、すでにセメント が破壊されていたか虫歯による腐食によって脱離状態にあったということです。つまり、 なにか治療を要する事態になっているから外れただけで、正常に機能していれば外れるこ とはありません。そんな金属はむしろ早めに外れてくれた方が重症にならずに済んだといえ ます。
 術後の苦情としては、歯がしみるとか歯茎が痩せたというのが代表的です。炎症があって、 ただでさえしみる環境の整った場合はなおさらです。諸悪の根源ともいうべき歯石ですが、 少なくともバリケードとして外来刺激を遮断していたのが半ば強引に排除されたわけですか ら一時的な知覚過敏はまぬがれません。長年の炎症による歯槽骨破壊にもかかわらず、腫れ あがった歯肉が健康さをとりもどして引き締まった結果歯茎が急激に痩せたようにみえます 。歯肉退縮が審美的に好ましいとは決して思いませんが、偽りの姿を保って寿命を縮めるこ とと健康を取り戻して寿命を延ばすことを冷静に比較していただく必要があります。

★ 質問:奈良県在住 主婦 50歳 女性
 歯石除去について 何も痛みもなかったのに、医師から歯石を取った方がよいですと進め られました。前歯二本の間の歯石を最初から超音波器具でとられて、隙間(1ミリ)が開き、 歯石を取る前は開いてなかったのに、この治療をしたら隙間が開くのが当然だと医師の話で、 当然、歯の隙間には食べ物が詰まるし、みっともないし、この治療は歯石も元の歯も超音波 で吹き飛ばしているように思います。このような結果になりましたが前歯を隙間を空けるよ うな歯石のとり方は間違ってるんじゃないですか?
※ 回答:
 歯石除去に際して同様の疑問も多いことと思いますが、疾患に対する理解が大きく不足し ています。またそのような誤解が根強く存在するために、歯科医は歯石を取ることを嫌い、 結果として国民の大半が60歳にもなると入れ歯になっています。歯槽膿漏は、歯石沈着が炎 症を起こし歯を支える歯槽骨を破壊して最終的には歯牙脱落に至る疾患です。歯槽骨破壊に 伴い歯肉も退縮(痩せる)するわけですが、その歯肉自体にも炎症がありますので、歯石の 沈着した状態では腫れぼったくなって歯槽骨破壊程度の割には退縮量が少なく見えます。
 疾患の原因が歯石である以上、歯石の放置は歯牙喪失に直結します。それを阻止するため には歯石除去が不可欠です。若い時には健康な歯槽骨と歯肉によって隙間の無かった部位に も、今は大量の歯石が沈着して隙間を塞いでいるのです。歯石を取って開いた隙間というの は、これまでの破壊によって生じた隙間です。“元悪である歯石”ですが、これを除去すれ ば隙間が生じるのは当然ですし、更に炎症が治まれば歯肉が健康を取り戻し引き締まってき ますので、隙間は一層大きくなってきます。「開いた隙間の大きさは、健康を取り戻した現 在のあなた」です。疾患に犯された真の姿を見るのが嫌でそのまま早期脱落への道を選ぶか、 現実を直視して疾患の抑制を望むかの選択になります。前者を選ぶのであれば、数か月も待 てば元の姿に復帰しますのでご心配なく!!

★ 質問:兵庫県在住 会社員 35歳 女性
 最近、歯茎がやせてきて心配しています。怖くなってき、一度診察して頂きたいと思います。
※ 回答:
“歯茎が痩せた”という表現ですが、実は歯を支えている歯槽骨が破壊(痩せた)された結 果歯茎が元来の位置より後退する現象です。原因は炎症による歯槽骨の破壊ですが、破壊さ れた骨を元の状態に回復することは不可能です。かといってそのまま放置しておくと、破壊 が更に進行しますので、現状においてできることといえば更なる破壊を阻止することです。 そのためには、炎症の原因である歯石を徹底的に除去して炎症を抑えることが必要です。 「一方歯茎は?」というと、今は炎症の存在により腫れあがった状態です。歯石を取って炎 症が治まると、歯肉が健康をとりもどして引き締まって、歯槽骨破壊程度に応じた元来有る べき位置に落ち着いてきます。“引き締まる”ことは望ましいことではありますが、結果と してはますます歯茎が痩せた状態になってしまいます。

★ 質問:大阪府在住 23歳 女性
 最近歯磨きで血が出ることを伝えたらフロスでの掃除の仕方を教えてもらいました。やっ ぱり中切歯の部分は血が出ました。去年も治療済みの歯を磨かれたあとに少しだけしみた覚 えがあり、すぐおさまったのですがこれはなんなのでしょうか?どれぐらいでおさまったら 気にしなくてよいですか?おわかりになる範囲で教えて頂けますか。お願い致します。
※ 回答:
 磨く必要があるということは、裏を返せば汚れが溜まり炎症が起きているということです。 そのまま放置しておくと当然悪化するはずですから見逃すわけにはいきません。その場所に 機械的刺激が加わるわけですから、歯髄が一時的な炎症を起こすのは当然です。その結果が 少し滲みるということですが、一時的な炎症であれば通常1〜2週間で治まります。一時的 な知覚過敏に対しては、表面から薬を塗るなどの処置を加えますが、最大1〜2か月程度様 子をみる必要があります。

【フラップオペ】

フラップオペという言葉は、歯槽膿漏の処置に多少詳しいひとには聞き慣れた響きだと思 います。日本語では歯肉剥離掻爬術といいます。歯肉を剥離して、不良肉芽とよばれる炎症 の発生源みたいな歯茎の内側にある肉を掻爬することです。歯槽膿漏の手術のなかでは最も 一般的に行われるものです。手術の目的は不良肉芽の除去のような印象をうけますが、私の 見解では歯茎の奥深くに沈着した歯石の除去です。不良肉芽は出血しやすく視界を妨げます ので、徹底的に歯石を取り除くために除去しますが、あくまでも目的は歯石の除去です。不 良肉芽は、炎症の結果生じた破壊性の肉芽ですが、歯石がなくなれば骨を再生する良性の肉 芽に変化します。

★ 質問:東京都在住 会社員 25歳 女性
 河田先生は、フラップオペは40歳以上のどうしようもない場合のみ適応とおっしゃってま したよね?先生が考えるフラップオペのメリットとデメリットを教えてください。
歯科治療
歯周疾患の分類と治療マニュアル
※ 回答:
 図は、一般に考えられている歯周疾患の分類と治療マニュアルです。中等度がフラップ オペの適応、重度は余程の覚悟をしてフラップオペ…勿論術後の補綴は保険外…保つわけ ないのだから医療費の無駄遣い…やりたきゃご自分の費用でどうぞ!  みたいな雰囲気 です。
 私は、重度以上のものしか手術の対象とはしていません。それは、手術する以上、抜髄 して連結固定してこそ初めて歯牙保存が可能だからです。いかに末期歯槽膿漏歯に抜髄を 推奨している私でも中等度では抜髄をためらいます。歯周疾患進行に対しては抜髄が有効 な抑制手段ではありますが、それには当然大きなデメリットを伴います。根管治療の不備 から来る根尖病巣の誘発や歯根破折など誰もが指摘するとおりです。しかし、何もしない で放置した場合、重度で5年、それ以上では1年で歯牙は自然脱落の運命をたどります。 ところが、あえて積極的な治療を行った場合、重度では 10〜20年、それ以上の場合でも約 10年間歯を機能させることが可能です。
 一方、一般に推奨されているように中等度でフラップオペを行った場合はどうでしょうか。 勿論歯の神経はとりません。私の理論では、歯槽骨の破壊は異物である歯石による炎症が原 因です。また、汚染されているであろう歯根表面を除去(根面処理)しても歯槽骨の回復が ありません。これは、歯根内部(象牙質部分)の有機質が変質して異物化しているからです。 にも関わらず、フラップ(歯肉)を開けて丁寧に根面処理を行えば有機質を含む象牙細管は 大きく解放されてますます変質が進んでしまいます。そうなれば術後の知覚過敏は絶好調!! かえって歯の寿命を縮めてしまいます。そんな理由からでしょうか、手術に際して徹底的な 根面処理は行わない方が良い…と言った技術指導もあるくらいです。中途半端なフラップオ ペを行うよりは、まずは徹底したスケーリング、そしてそのあともスケーリングを継続し口 腔内環境管理をするべきだと思います。

【有髄歯と無髄歯】

 ここでもう一つ申し上げておきたいことがあります。一般に中程度の歯槽膿漏手術が成功 率60%前後と報告されているなかで、私の医院では末期状態の膿漏歯を手術して90%以上の 成功率(10年後の生存率)をあげています。この件に関しては、数年前の歯周病学会でも発 表したのですが、まるでほら吹きのような目でみられ、相手にもされなかったように感じま した。開業医で初めてビタミンを発見した鈴木梅太郎の心境でしょうか。議論して敗北した のであればあきらめもつきますが、土俵の上にもあがれないでいるのは結構辛いものです。 ポイントは、歯の神経をとったうえで手術を行い連結固定することと、術後のメインテナン スを徹底することの2点にあると思います。メインテナンスの有効性は本書の第一の趣旨で あり今ここで改めて申し上げることではありません。
 歯の神経をとる…これを抜髄といいます。抜髄すれば、歯根破折や根尖病巣が発生するリ スクが生じます。一般に抜髄操作の成功率も60%前後と報告されていますので、できるだけ 慎むべき医療行為だと思います。私の場合、抜髄操作の成功率は90%以上ですので歯槽膿漏 手術の成功率も90%程度という結果になります。歯槽膿漏に罹患しているとはいえ、虫歯も なく美しい歯の神経をとって、忌まわしい銀歯に作り換えることが決して好ましいとは思っ ておりません。余命数年もない歯だからこそ可能な荒業のようにもみえますが、これには理 由があると同時に大きな秘密が隠されているのではないかと考えています。手術をしても歯 槽骨の再生が期待できない現状で、動揺の著しい歯を機能させるためには限りなく多数の歯 を連結するしかありません。しっかりした歯の固定であれば、矯正装置のようなもので固定 することも可能です。しかし、動揺の著しい歯をワイヤーのようなもので固定しても簡単に 切れてしまいます。そこでより強力な連結冠、すなわち銀歯を用いますが、時にはこの強固 な連結冠でさえ破壊されることもあります。60kgともいわれる咬合圧を毎日支えているわけ ですから力学的には当然の結果かも知れません。そのような理由で多数歯の連結を余儀なく されるわけですが、連結冠を装着するためには全ての歯が平行であることが必要です。多数 歯に平行性をもたせるための削除量は、歯髄の存在を許してくれません。
 もう一つ、抜髄するには理由があります。歯槽膿漏手術のあとは歯根表面のセメント質が 失われ象牙細管と呼ばれる有機質部分が口腔内にさらされてしまいます。その結果、歯髄に 炎症が起こって知覚過敏症状が現れます。しみるというだけならまだしも、歯髄が激しい炎 症を起こしてついには死んでしまうことがあります。そうなると根っこの先にも炎症が波及 し、根尖病巣とよばれる炎症を起こして周囲の骨を破壊してしまいます。ただでさえ歯槽骨 の支えを無くして動揺している歯槽膿漏罹患歯にとって、根尖病巣の存在は致命的です。ま たたくうちに自然脱落の道を歩みはじめます。一般に中程度の歯槽膿漏を手術する場合、抜 髄することはありません。従って、歯槽膿漏の手術をしたあと知覚過敏が起こり、歯髄が死 んで根尖病巣へと発展して手術が失敗に終わっていまいます。
 さらにもう一つ、歯の神経を取ることが歯槽膿漏進行の抑制になっているという事実が隠 されているように思います。生活している象牙質では35%の有機質を含んでいますが、神経 をとった歯は経年的に石灰化程度を増して硬くなっていきます。これは歯髄を失った象牙質 内の有機質が周囲の無機質を取り込んで、より純粋な無機質へと変化していくからだと考え られます。有機質含有量の少ない象牙質の性状が、歯槽膿漏の進行を抑制しているものと思 われます。手術の有無にかかわらず、歯槽膿漏の末期治療にあたっては、知覚過敏(虫歯か ら歯髄炎を起こした知覚過敏と区別して正式には象牙質知覚過敏症といわれています)の存 在と抜髄の決断が重要な鍵を握っています。歯髄の保存に固執するあまり、大切な歯を無惨 にも失うことがあることを忘れないで下さい。歯にとって、神経が存在することが理想的で あることに全く異論はありませんが、それがために歯を失ったのであれば何の値打ちもあり ません。

★ 質問;神奈川県在住 主婦 49歳 女性
 歯槽膿漏のため、比較的若い頃から、自分の歯を失っていました。現在、上は3本、下は 10本ほど残っており、大事にしております。2,3年前より、下の奥歯で、噛んだときに、歯の 奥の方(歯の下の深いところ、つまり顎の方です)がズンと響くようなものすごい痛さを感 じる歯がありました。かかりつけの歯医者さんに言うと、 知覚過敏だろうとのことで、特に 治療はありませんでした。見ても、特に、歯茎がはれているとか、血が出るとかいうことは なく、しっかりした良い歯でした。ところが、先日、ものすごい痛みとともに、いきなり頬 から顎にかけてはれてしまい、抗生物質を飲みました。痛みも取れ、はれはひいたのですが、 歯がガタガタになり抜くしかないと言われました(この時も特に歯茎がはれている様子はあ りませんでした)。
 何年も前から、ときどき痛むことを訴えたいたのに、何もしてくれないで、いきなり抜し ないはないでしょう・・というのが私の思いです。
また、歯槽膿漏って、歯茎からやられいくものなのに、これは一体何なの、とも思います (今まで抜くことになった歯は、歯茎がはれ、だんだんグラグラしてきて・・ついにという パターンでした)。母親も早くから総入歯でしたし、遺伝だと思って諦めてはいますが、他 の病院でも 1度見てもらいたい気持ちになっています。
※ 回答:
 結果からみれば、2〜3年前に抜髄(根管治療)しておくべきだったと思います。今から でも試みてみる価値はあるでしょうが、おそらく結果は×。また根管治療をしてくれる歯医 者もいないと思います。詳しい状況を診ないと正しい判断はできませんが、その歯は“抜歯 やむなし”でしょうね。
 歯槽膿漏の一般的な認識は「歯茎がはれ、だんだんグラグラしてきて・・ついに」ですが、 今回のように上行性歯髄炎といわれる進行パターンもあります。今の歯科医療水準と歯周疾患 に対する認識(学会の常識)では、いたしかたのない状況だと思います。 このような状況を 打破するために、このホームページで情報を発信しているわけですが、まだまだ力不足で学会 の認知を得られるに至っておりません。結果は分かりませんが、「私ならもう少し延命処置が 可能だったろうな」という思いでいっぱいです。

【象牙質知覚過敏症】

 一般にムシ歯が原因で歯が滲みる場合、「少ししみだしたので早めにきました…」はもう手 遅れです。ムシ歯で歯がしみるのは、歯の中にある神経が炎症を起こしているからで、ほと んどが歯の神経を取らなくてはならない状態です。また、咬み合せの悪さが知覚過敏の原因 となっている場合もあります。案外多いのが歯槽膿漏進行に伴うもので、歯槽膿漏が進行す るにつれ、しみる場所も広がり、その程度も激しくなっていきます。これをムシ歯があると きや歯を削ったあとにしみる知覚過敏と区別し、歯槽膿漏が原因と思われる知覚過敏を象牙 質知覚過敏症と呼びます。歯肉が退縮して、象牙質が露出した為に発症することが多いこと から付いた名前だと思います。知覚過敏の中で最も頻度が高く対応が困難な疾患ですが、根 本的には他と同様、歯髄(歯の神経)の炎症です。このケースの治療方法としては、薬剤塗 布を行なうのが主流で、知覚過敏防止の歯磨剤も結構効果があります。私の医院では、歯髄 鎮静の為の内服薬投与/YAGレーザー照射/コーティング材塗布を基本に症状に応じて種々の 治療法を併用して対処しています。有効率は90%以上ですが、症例によっては歯の神経を取 ること(抜髄)が最善と判断することもあります。象牙質知覚過敏症を半年,1年長引かす と取り返しの付かない状態になるケースがあるからです。

★ 質問:福岡県在住 会社員 44歳 男性
 1週間前から左側上奥歯付近で冷たい水と熱い水?がしみるようになりました。いったん しみると15分くらいは、とてもつらい状態が続きます。歯科医にいきレントゲンを撮ると 例の知覚過敏ということで処置をうけ2週間ほど後に来院するようにいわれました。歯軋り による可能性もあるということでナイトガードも提案されましたが、これは様子をみてとい うことにしました。それから2,3日は、調子がよかったのですが、今度は、何もしていな いのに上奥歯付近がジワジワと痛むようになりました。前ほどには、しみることはないので すが今から先心配です。半年ほど前に虫歯の治療をしています。ほかの質問の答えでは、半 年ほど前の虫歯の治療で熱いものがしみるときは、知覚過敏ではないとあったのでどうすれ ばよいか教えてもらいたくメールをさせてもらいました。
※ 回答:
 歯科領域で使われる“知覚過敏”の定義が曖昧ですので多少混乱しているように思います。 学会での定義とは別に、臨床的に“知覚過敏”とは、原因はともかく歯髄の炎症に他なりま せん。炎症が軽いうちは、違和感や冷たいものに反応する程度ですが、炎症が進行するに連 れて痛みがひどくなり熱いモノにまで反応するようになります。生体の他の部分では炎症が 自然治癒することが多いのに比べて、血液循環の限られた歯髄腔内では一度起こった炎症を 抑えることは至難の業ともいえます。ご質問のケースもおそらく回復不可能な歯髄炎である 可能性が高いように思います。処置としては、まず歯髄保護を目的とした消炎処置を試みる 価値はありますが、結果によっては抜髄を選択せざるを得ない状況だと思います。

【HAP・ハイドロキシアパタイト】

歯科治療
 ここで手術に使う人工骨補填材・ハイドロキシアパタイトやその他の造骨性を有するとい われている素材や術式について触れておきたいと思います。人工骨補填材が発売された10数 年前、私はほとんど毎日のように補填材を利用した歯槽膿漏手術をおこなっておりました。 症例総数800余はおそらく全国一の使用頻度だったと思います。それだけの手術が行われたと いう事実こそが、良好な結果を裏付けるものと確信しております。歯科雑誌に投稿したり、 全国の講演に走り回っていたことを懐かしく記憶しています。
 「ハイドロキシアパタイトは決して魔法の薬ではない。自然の回復を補助するに過ぎない」 このことを強調しながらも、歯槽骨再生の事実を確認して夢を膨らませておりました。1mm程度 しか回復しないことが多い反面、意外な回復をみせる症例に遭遇したことがのちのちの大きな 財産として今に受け継がれています。結論から申し上げると、骨ができるべきところにアパタ イトを補填すると骨再生を阻害しないのは当然のこととして、期待以上に歯槽骨再生がおこな われます。ところが、骨再生の見込みのないところではいつまで待っても骨が再生しないばか りか、数年もしくは10数年の歳月を経てアパタイトが炎症を起こすべき異物に変化してしまう こともあります。従って補填(ほてん)から数年後にアパタイトを除去したというケースもい くつか存在しますが、もともとの手術であるフラップオペの効果を損なうものではありません。
 問題は、骨ができるところとできないところの区別にあると思います。抜歯窩や根管治療後 の嚢胞摘出部位、また根管治療の不備によって生じた骨欠損、これらに関しては、予想以上の 骨再生が期待できることがわかりました。一方歯槽膿漏罹患部位では、炎症を起こす最有力候 補の歯石を除去したのちも歯槽骨の再生は期待できません。おそらくそこには炎症を起こすべ き原因、もしくは歯槽骨再生を阻害する何かが残っているからだと考えられます。表面に沈着 した歯石はもちろんのこと、セメント質を除去しても再生しない歯槽骨が、抜歯すれば再生す ることを考えれば、残った犯人が象牙質に存在することは簡単な引き算のように思えます。
 その後登場した、歯周組織再生誘導材料・エムドゲインや組織誘導再生療法(GTR)に ついても同じことが言えると思います。歯槽膿漏に完全に侵されきっていない歯根部分(こ れが約1mm)での回復には見込みがあるものの、完全に侵されきった歯根部分は除去もしくは そこに残る炎症の素を絶たない限り本当の意味での歯槽骨再生はあり得ないと思います。非 常に残念なことですが、歯槽膿漏に侵された歯は現状を維持して症状を悪化させないことが 基本です。将来レーザーによる罹患歯根の処理技術やクローン技術による歯の誕生が救世主 となることを期待してはいますが、今現在悩んでいるひとを救う手段としては考えられない ことのように思います。

★ 質問:大阪在住 主婦 42歳 女性
 現在 先生のホームページを参考にして 歯周病外科医認定医に通院中です。
以前から上456を連結していたのですが、5番がひどく今回抜髄しました。次回は 手術 をして骨を入れると言われましたが、保険がきかないようです。また 入れたからといって 長持ちするとも言えない と言われました。手術とは どんなことをするのでしょうか?
また 5番を抜いた場合 後は どんな方法になるのでしょうか?何とか 残して頑張りた いと思っています。先生のアドバイスを お願いします。
※ 回答:
歯周疾患の手術は、歯肉をめくって罹患部分の根面を清掃する フラップオペ(FOp)が 基本です。失われた歯槽骨を回復する手段として、 GTR法や エムドゲイン、骨補填法など があります。私が10年以上前に積極的に手がけた人工骨の補填は、おそらく当時日本一の症 例数を誇っていたと思いますが、その時の経験からいうと例え素材が変わってもそれ程期待 できないと思います。反面、新しい方法を積極的に導入される先生ですから、技術とか熱意 は十分感じられますので安心して手術を受けられても宜しいのではないでしょうか。
 手術そのものは、「通常のフラップオペのあと骨欠損に骨補填を行って縫合する」という ことです。大切なことは、手術により罹患根面に沈着した歯石は全て除去されますので歯肉 炎症は治まりますが、術後数年で必ず再び歯石が沈着してきます。それを極力阻止すること が最も重要なことで、そのためには術後のメインテナンス(定期的な歯石除去)が必要不可 欠です。