あなたは一生「自分の歯」で食べられますか?
かしこい歯医者のかかり方

あとがき

 歯磨きをしていても、今まで通り歯医者を利用していたのでは、歯は悪くなる一方です。 悪くなるに決っている歯を、そのまま悪くならないように歯医者を利用することが、入れ 歯や銀歯もない自然の歯での生活という結果に繋がるのですから、これが目指すべき最善 の治療といえるでしょう。

歯が生えそろったその時から、歯槽膿漏は始まっています。その時点から歯医者で歯石を 除去しさえすれば、生涯その歯を保つことができます。今からでも遅くはありません。今 ある歯をそのまま、一生使い続けるために、今すぐに歯石の除去を行ってください。虫歯 に関しても、歯医者がもっとも得意とし、確かな治療効果が得られるのは初期治療です。 そしてその決め手となる早期発見は、定期的なメインテナンスによって可能なものです。 これらを存分に活用することが、一番賢明な歯科医の利用法といえるでしょう。月に一回 のメインテナンスを習慣にすることが、気軽に、手っ取り早く、歯医者を利用する方法で、 何よりもそんな単純な方法で今のままの歯を一生保ち続けることができるのです。

私の医院では大半の方がメインテナンス患者さんです。初診時の歯石除去と違って、炎症 のない歯茎は歯石をとっても痛みません。衛生士と歯の話をして帰るだけといってもいい くらいです。一年に一回ほど虫歯を見つけて治療しますが、それもたいしたことのない治 療で済みます。気がつけば20年間治療らしい治療もなく、初診時と変わらない口腔内環境 が保存されています。

現在、自信を持って新しい歯科医の利用法、月一回のメインテナンスを提唱する私自身も、 長年歯科治療の現状に悩まされ、歯科治療のあるべき姿を模索してきました。 「歯槽膿漏は老化現象の一つ」とか、「結局何をしても50〜60歳になれば歯を失う運命にあ る」と聞かされて歯科医としての臨床に携わるようになりました。大学卒業後の3年間は、 医学部の口腔外科(こうくうげか)に在籍していましたが、“医学部の口腔外科”という特 殊な環境であったために、口腔外科の重症患者の臨床と並行して歯列矯正・小児歯科などの 治療にも携わっていました。その中でもとりわけ歯槽膿漏の治療や手術に興味をもつように なりました。抜歯後の骨再生は無論のこと、大きな腫瘍摘出後にみられるドラマティックな 骨再生をまのあたりにして、歯槽膿漏によって破壊された歯槽骨の再生ができないはずはな いと思ったからです。

 歯槽膿漏によって破壊された歯槽骨に自家骨移植を試みたのもそのころの話です。結果は 見事に裏切られて歯槽骨回復どころか、かえって症状を悪化させてしまったような印象をう けました。「何をしてもムダ。ブラッシング指導をして少しでも症状を緩和するのが精一杯」 という先輩の言葉が心に重くのしかかっていました。そのまま大学に残って自分の信念とは 合わない治療を継続していくことに疑問をいだいて、早期に独自路線を模索するために開業 の道をえらびました。

 “歯を治すのは歯医者の仕事、その歯を維持するのは衛生士の仕事” 開業前の若僧には生 意気な信念と、絶対に光明を見つけ出すという夢を抱いての船出だったことを鮮明に記憶し ています。当時から20余年を経た現在でもそのその信念は変わらず、当時の夢が今では現実の ものとなりました。20余年の臨床経験を総括した本書が、一人でも多くのひとのお役にたつこ とを心よりお祈り申し上げます。