このコーナーでは、日常臨床と私生活を通して感じた事例を紹介します。

外国人の歯は美しい
オーストラリア

オーストラリア  「オーストラリアの人は、歯が綺麗ですね」と言ったら「そんなことないですよ。アメリカ人 はもっと綺麗ですよ」という答えが返ってきました。
「どんなケアをしてますか?」「1年に1回、歯医者さんに行って検診してもらっています」という ことでした。アメリカはでは年に2回検診しているそうですから、アメリカ人が綺麗なのはそのせい かなぁということで一つの結論がでたような感じです。

 オーストラリアにも日本の国民保険みたいな制度があって、15%の負担金を払えば一般の医療は 受けられます。しかし、歯科治療となるとその保険はほとんど効かないので、いざ神経を取って 被せるというような、日本では日常行われている治療(3割負担で7000円程度)が20万円くらい かかります。まとめて3本ともなると間違いなく生活を圧迫してしまいます。
 そんな生活の危機を回避するために、1年に1度は検診に行って、歯石をとったり小さな虫歯 の治療を受けているということです。検診に約1万円、虫歯があれば更に2〜3万円の費用負担が 必要です。それだけ支払ってでも長い目でみると採算が合うということです。何と言っても、銀歯 のない美しい歯が確保できるわけですから十分納得できる話です。

 オーストラリアがパラダイスとは限りません。影の部分もあるということです。毎年定期検診 に行って3万円程度の負担ができる人は救われているようですが、その負担ができない人はどう でしょうか。日本人同様、必要に迫られて歯医者に行ってもとても20万円という大金が払える はずがありません。「払うお金がないなら、その歯を抜きなさい」という冷たい診断が下ってし まいます。かくして低所得者の口腔内環境は劣悪となっていくそうです。

 オーストラリアは単一民族ではありませんが、民族性の違いよりも定期検診の有無が口腔内環 境を大きく分けています。日本人が欧米人に比べて銀歯が多いのは、民族による歯質の違いより も歯の手入れ、もしくは歯科医院の利用の仕方によるものと思われます。


 技術的な評価は判りませんが根管治療とクラウン再製を行なった場合「薬の詰め替えを何度も 行うため治療開始から終了まで数ヶ月かかるとのことです。これだけの手間ひまと20−30万 円相当の費用をかけて『うまくいって7、8年の寿命』ではやり切れません」といような証言も あります。1日に3人〜5人程度の優雅な治療を行なって、高額所得の上位にランクされている 実態を考えればあまり良心的な治療態度ではなさそうな気もします。
2004. 1. 9.