このコーナーでは、日常臨床と私生活を通して感じた事例を紹介します。

海外在住の日本人

オーストラリア  虫歯が進行して“しみる”というようなわずかな違和感を感じるころになってから歯医者に 駆け込んでも、治療方法として、歯の神経をとって被せるということになってしまいます。 “歯の神経をとって被せる”という治療方法に対して日本人は余りにも無頓着だと思います。 「歯の神経をとって被せたのだから、痛むこともなく虫歯になることもなく生涯使えるはず」 というはなはだしい誤解(理解不足)が万延しているようにさえ感じます。
 考えてみて下さい。自動車なら全損事故にも匹敵するような致命的な破壊をきたした歯を いくらお金をかけて修理しても新車のようなわけにはいきません。よしんば、新品の歯になっ たとしても、萌出後10数年やそこらでボロボロにした前歴の人が、今度は一生(数十年)守り 続けることができるとは思えません。ましてや、かろうじて修理を終えた歯が生涯機能するな んて期待する方がおかしいと思いませんか。

 現実の問題として、ひとたび神経をとって被せた歯というのは、その後トラブル続出です。 最終的にあきらめて抜いたとしても、また隣の健全な歯を削ってブリッジなどの治療を行う ことになります。そのブリッジも同様の運命をたどるであろうことは容易に想像できるはず です。かくして歯は連鎖反応のごとく破壊されていくわけですが、その治療を保険で安く提 供している日本では差ほど疑問んい思ったり抵抗を感じることが少ないように思います。
 最初の1本を治療するのに20万円、5年後くらいに抜歯してブリッジにするのに更に60万 円もの出費が必要な諸外国では考えられないような地獄に足を踏み入れたことに気付かない のが日本人ではないでしょうか。

 ただし、日本に住みつづける限り優しい日本の保険制度が保証してくれますが、無限地獄に 足を踏み入れたまま海外に出張された人にとっては地獄は切実です。定期検診で自己防衛能力 のついた外国人と異なり、無防備な日本人に何十万・何百万円という容赦のない治療費が突き つけられます。おいおい、高い飛行機賃と休暇を覚悟して日本に帰って治療する選択の必然性 に迫られてしまいます。

 今後ますます増えていくであろう海外生活者にとって、歯科治療に対する認識にもグローバ ル化が必要となってきます。悪くなって治すという考え方は日本でしか通用しません。今まで のケアだと悪くなるに決まっている歯ですから、しかも悪くならないような具体的な方法が存 在しているのですから、一刻も早く目覚めていただきたいと思います。