このコーナーでは、日常臨床と私生活を通して感じた事例を紹介します。

お国の歯科事情
フィリッピン

フィリッピン  私の診療室にいらっしゃるフィリッピン女性は、ほとんどが水商売の方ですので、それが フィリッピンの平均的な歯科事情を反映しているとは思えませんが一端を垣間見ることはで きます。
 仮にもタレントとして採用されて日本に来るからには、皆さんそれなりに美人揃いです。 その美しい容姿とは裏腹に、口の中をみたとたん、貧困を感じざるを得ません。皆というと 語弊があると思いますが、そのほとんどが大切な歯を失って粗末な入れ歯で補っているので す。フィリッピンでも歯の神経をとって、何らかの補綴(ほてつ)処置を行う歯科治療も存 在するとは聞いていますが、それらの治療は想像を絶するほど高価なもののようです。虫歯 が神経に到達するようになると安易に抜歯するのが一般的だそうです。

 私の知人で作家の笹倉 明氏も取材のためフィリ ッピンに滞在されていた時に、運悪く歯髄炎を起こしてしまいました。その際、最寄の歯 科医院に駆け込んで治療を依頼した所、歯の神経をとるという選択肢もあるが、今すぐ痛 みをとる方法として抜歯を勧められたそうです。痛みと日程を考えて即刻抜歯を決断した ということですが、そのように安易に抜歯を勧める土壌があるということはお国の歯科事 情を物語る逸話だと思います。

 日本人と結婚されたフィリッピン女性が、どうしてもブリッジにして欲しいと治療に いらっしゃいました。前歯はともかく、奥歯は何もいまさら神経をとってギンギラのブリッ ジにすることはないと一端はお断りしたのですが、今度は旦那さんが一緒にお見えになって、 「国に帰ったら、銀のブリッジが彼女にとって自慢になるらしいので、それが先生の方針に 沿わないものであっても何とか彼女の要望を聞いてあげて下さい」と頼まれてしまいました。
 残っている歯が結構綺麗なのに反して、何と大量の歯が抜けれていることか。残った歯の 状況から察して、失った歯はほとんど日本では神経をとって被せているだろうなぁ。