かつて歯科界が抗生物質の威力やその使い方を知らなかった時代(30年ほど昔)、抜歯
しても鎮痛剤だけの投薬でした。今と違って抗生物質が高価なせいもあったと思いますが、
保険規則でも余程のことがない限り抗生物質の投与が認められていませんでした。抜歯後の
感染に口腔内細菌が大きく関与しており、抗生物質の有効性が認識された現在では、抗生物
質投与は当然であり投与されなかった場合には裁判でも追及される時代になりました。全て
の外科的処置に抗生物質投与は必然という認識だと思います。
一方、歯の神経を取る抜髄の成功率は実に成功率50%以下という惨たんたる現状において、
その原因に口腔内細菌が大きく関与されていることは全ての歯科医が認める所です。その対策
として、口腔内細菌が治療中の根管内に入らないようにとより封鎖性の高いセメント類を使用
していますが、抗生物質投与という考えはないようです。事実抜髄時に抗生物質投与を行い、
保険請求すると却下されます。
抜髄時の低成功率は、有機質である神経を完全に取り除いていないために、後日有機質が腐
敗することに起因していると思います。その腐敗した有機質を化学的に除去する目的と、そこ
に侵入した細菌を除去するために医学常識では考えられない刺激の強い薬剤を使うためにより
惨たんたる状況を招いていると思います。従って、抜髄時に抗生物質を投与しただけでは劇的
な改善は見込めないとは思いますが、それでも相当数の症例は救われるはずです。
抜髄くらい外科処置らしい外科処置なのに…「細菌、細菌」と騒ぎ立てているのだから、せ
めてこの程度のことには気がついて欲しいと願っています。
2003.12.11