開業以来23年目になりますが、それは保険審査官との戦いでした。歯槽膿漏治療に関しては
非常に細かいマニュアルが作成されています。このマニュアルが
目安ということであれば問題はないのでしょうが、一言一句履行されていないと不正請求と
みなされて、最終的に保険医取消という人生を左右するような制裁が待ち受けています。細か
い規則が医療費抑制という国家方針に沿った、厳しい保険審査の道具とされているのです。
特に厚生省が「歯槽膿漏撲滅」を旗印に掲げた1980年代後半がら、マニュアルが充実した
ためにこの傾向は顕著に現れてきました。この時マニュアルに忠実に従って歯槽膿漏撲滅に立
ち上がった歯科医が次々と血祭りにあげられていきました。保険審査に呼び出されて、まさに
拷問を受けるという表現に値する扱いです。勿論、私も例外ではありません。
この時私が救いを求めたのが、大学の恩師であり当時の歯周病学会理事長だった池田教授で
した。このマニュアルを導入した張本人といえば悪役のように聞こえますが、導入の本心は、
開業医に効率のよい治療を実践していただくことでした。そのマニュアルが保険審査の道具の
道具にされている現実を深く嘆いていらっしゃった恩師にとって、マニュアルに沿って血祭り
にあげられている教え子がどのように映ったかは想像に難くありません。
「直接審査に介入することはできないけれど、闘う勇気と力を与えてやろう」という配慮か
ら、過分な励ましの言葉と歯周病学会認定医や歯学博士という資格、そして学会発表や雑誌投
稿という機会を提供していただきました。戦いは今現在も継続していますが、恩師の励ましが
なければとっくに挫折していたであろうことは明白です。
2003.6.22.