高度な歯科医療への脱皮に役立つ便利なTEK製作システム


高度な歯科医療への脱皮に役立つ 便利なTEK製作システム
ジョイントキャップ

河田歯科医院(姫路市) 河 田 克 之
Dental Magazine 第89号・1997年,61-64  掲載

はじめに

 歯科医院が急増し患者が医師を選ぶ時代になった現在、コストの削減と診療の効率化は急務である。 しかし、これだけでは医院の経営は先細りとなることは明白である。新規の患者を開拓し、 治療内容の充実と拡大を計るためには、患者のニーズに応えつつ、尚、良質でより高度な技術を 提供することが最良の方法と考えられる。それらが試されている今、我々を手助けしてくれる 強力なアイテムの1つになり得るジョイントキャップ(図1)について、その使用法と 応用範囲について考えてみたいと思う。

図1.ジョイントキャップ(ニッシン)


1.テンポラリークラウン

 日常の診療において、テンポラリークラウン(TEK)の必要性や重要性を改めて述べる必要 はない。最近の保険改訂で比較的高い点数評価を得たものの、経済的,時間的効率を考慮すれば、 できるだけ関わりたくないのが偽らざる心境ではなかろうか。一方、ハイレベルの治療として注目 されているインプラントや歯周補綴を手がける際、案外ネックになっているのがテンポラリークラ ウンである。しかも、治療が高度になればなるほど症例が大きくなる。テンポラリークラウンを 克服しない限り、より高度な治療への脱皮が困難であると言っても過言ではない。 ジョイントキャップを用いたTEK製作の基本的な操作手順は、図2〜8に示す通りである。

図2.通法により支台形成する。 図3.支台形成後、ジョイントキャップを使用部位でカット(1歯程度多めも可) 図4.咬合関係を確かめながら試適する。歯頚部はレジンのはみ出しを考慮
して少し長めにカット。
図5.レジン填入(筆積みも可)。
図6.即重レジンを歯頚部より少し多めに填入し、支台歯に圧接する。患者に軽く咬合させ咬合関係を調整する。 図7.レジンが硬化するまでに2〜3度着脱し、シートはレジンが完全硬化してから剥離する。マージン等を修正後試適、調整、研磨。 図8.口腔内装着。


 

2.義歯の修理(増歯,挙上)

 増歯は日常臨床でも比較的頻度の高い症例でもあり、少数歯の増歯で あれば従来の既製レジン歯でも十分対応が可能である。ところが、最後臼歯や3歯以上の増歯と なると操作が一挙に煩雑になる。既製のジョイントティースも便利ではあるが、在庫の問題と症例に よっては応用が困難な場合が多い。技工所に委託すれば時間とコストの面で問題が生じる。しかも、 緊急時の対応には答えきれないのが実状ではなかろうか(図9,10)

図9.抜歯直後の暫間義歯応用例。多数歯応用例では、硬化時の発熱に注水下での硬化を心がける。 図10.コーヌスタイプの暫間義歯装着。旧義歯がある場合には、旧義歯との連結も可。

 義歯の挙上は後述の顎関節症治療の際にも必要であるが、インプラントや歯周補綴を行う場合の ステップとしても重要である。咬合平面の平坦化は、顎関節症治療やフルマウス補綴を行う際の 基本である。ジョイントキャップの応用方法としては、旧義歯を応用した咬合面レジン添加 (図11〜14)以外に、天然歯やクラウンを装着した症例にも応用が可能である (図15,16)。また、ロングスパンの症例が多い歯周補綴や連結内冠を使用した症例にも 威力を発揮する(図17〜19)

図11.上顎Bridgeの平坦化に伴い下顎義歯に約1.5mmの隙間が生じた。 図12.下顎義歯を装着した状態でジョイントキャップを試適。     図13.レジン添加。          図14.咬合面再形成終了。咬合の安定を確認し、後日義歯作製予定。
図15.下顎が天然歯やクラウンの場合も、同様に暫間的な挙上床として応用。 図16.上顎補綴物装着時の暫間的な咬合<確保であるので、基本的にはセメントによる装着は行わない。口腔内で完全硬化後、マージンの修正をする。 
図17.連結内冠を装着した症例にも応用が容易である。     図18.通法により、ジョイントキャップを試適する。   図19.口腔内装着。     


3.顎関節症治療(咬合の再構築)

 顎関節症は、局所の疼痛を 主訴とする症例から全身的な不定愁訴を訴える症例までその病態は様々である。 また、治療方法も病態に応じて一応ではない。治療に際しては、十分な診断の基に行わなければ ならないことは周知の事実である。ここで述べる顎関節症は、主として咬合低位に原因を有する 症例である。

 ジョイントキャップを顎関節症治療に応用する方法としては、既述の 方法以外にも工夫次第で色々な方法が考えられる。所定の効果が得られるまで試行錯誤や段階的 治療が必要な顎関節症治療においては、特により簡便なTEK製作システムを必要とする。 臼歯部に0゜陶歯の形態を有するジョイントキャップは、顎位を決定する際にも有力な手段と なり得ると考えられる。ここでは、基本的な操作手順の1例を図20〜28に示す。

図20.咬合挙上応用例(初診時)。咬合低位に伴う、上顎前歯の唇側傾斜が著明。 図21.上顎補綴物装着時。この時点では、下顎前歯部の切端を削合の上、装着。  図22.ジョイントキャップの試適。(挙上量の確認)。 
図23.4│を挙上量のガイドとするために
 残し、レジンを填入。咬合高径を確保した上で、通法に従いTEKを作製。
図24.口腔内装着。      25.咬合の安定を確認した上で、後日4│の支台形成を行い、追加修正を行う。
図26.支台歯の前後1歯づつ多めにカットし、試適。 図27.通法に従い作製し、口腔内に装着。  図28.最終補綴物装着(6│にインプラント使用)。咬合低位に伴う、全身的な不快症状も消失し経過良好。


まとめ

 生活の質と医療技術の向上に伴い、歯科医療も年々高度で良質な治療が 求められている。反面、歯科材料の分野でも新素材や新商品が開発され、患者さんのニーズに応える ことが可能となった現在、それを工夫し、使いこなすことも求められている。経費削減と診療の 効率化を兼ね備えたジョイントキャップは、工夫次第で治療技術のステップアップにも大いに役立つ 可能性を秘めたアイテムと言える。