我々歯科医が同業者の治療を行う場合「色々あるから、相当深い虫歯だけれど無理して詰めて
おくネ」というだけで十分なインフォームド・コンセントが成立します。
痛みがなくても虫歯がほぼ歯の神経に到達しており、何時痛みがでても不思議のない状態で、
このまま放置しておけば、数ヵ月後には間違いなく神経を取らなくてはならない状況であることを
お互いに知っているからです。神経を取れば銀歯になることや、後々、根尖病巣による慢性的な痛
みや歯根破折のリスクがあって遠くない将来歯を失う可能性があることも知っています。
一方、神経を残して詰めた場合も、知覚過敏や歯髄炎に発展して結局神経を取る事態に発展する
可能性や、脱離・歯牙破折のリスクを背負うことも分かっています。あらゆる事態を予測し、想定
した上で“無理して詰める”方法を選択した背景を容易に理解できるからです。
何も専門家並みの知識を要求しているわけではありません。少なくとも“抜髄”という言葉の意味
や簡単な治療後の経過を知っておいていただくだけで話がスムーズに進行するはずです。医療の実態
や情報が閉鎖され、知る手段の無かった過去と違い、インターネットや通信の発達した現代では十分
入手可能な情報が多く存在しています。
車や家を買うときに、専門家顔負けみたいに事前の情報収集に熱心な方も多いと思います。生涯付
き合う大切な自分の体ですから、一方的な説明要求の前に基本的な情報だけは十分に仕入れておいて
下さい。