歯槽膿漏で腫れた歯茎は、歯石を除去して排膿することにより炎症が消失して痛みはなくなり
ます。しかしその間に失われた歯槽骨は回復しません。虫歯も目に見えない程度の初期には再石灰
化が起こって回復するという報告もありますが、通常虫歯と呼ばれる段階では二度と元の状態に
回復することはありません。
根尖病巣のように、生体の自然治癒能力の及ぶ範囲では的確な根管治療を行うことにより回復す
る見込みがありますが、技術的な問題から多くの場合治癒を期待することが難しい現状です。
風邪や結核の様な疾患であれば、治療を受けて“治った”となれば元の体もしくは元の体に近い
状態に回復したことを意味します。従って、将来同じ疾患に罹患したとしても、健康体からの新た
な発病であると同時に、何度でも治る可能性があります。ところが歯の疾患、とりわけ虫歯の場合、
罹患部分を削り取っても決して元の状態に回復するわけではないので金属・その他の代用品で形態
を回復しているだけです。再び虫歯が発生した場合、過去の破壊にプラスして歯の破壊が進みます。
歯科治療を行って“治った”のではなく「修理が終わった」と表現する方がふさわしいと思いま
す。歯科治療を歯の修理と位置付けすれば、おのずと正しい扱い方と認識が導きだされてくるので
はないでしょうか。
車の全損事故にも匹敵する抜髄処置(神経を取る)ような事態になった時、多額の金額と労力を
費やして修理しても決して新車の様なわけにはいきません。どこかに歪みみたいなものが残って
いるので、遠くない将来必ず故障するであろうことは誰にでも想像できると思います。70〜80年
も使わなくてはならない大切な歯を、わずか10年や20年で抜髄という大修理を行うようではほとん
ど先がないと覚悟しなくてはいけません。小さな虫歯の発見と修理、一度修理したところから発生
する虫歯(二次カリエス)をこまめに見つけ出し細かい修理を積み重ねてこそ生涯使用することが
可能になります。
歯槽膿漏にしても、一旦破壊された歯槽骨は(原則として)二度と回復しません。しかもその
破壊は程度の差こそあれ、確実に進行しているわけですからできるだけ破壊程度の少ない若いうち
から破壊を抑制するコントロールが必要です。