「大丈夫です。歯磨きを頑張ってください。」と言われながら、何年間も歯科医院に通って
いたのに突然「この歯は歯槽膿漏です。抜歯しましょう。」と言われて不信感を募らせたと
いうケースを多く耳にいたします。実際に口腔内をみてみると、「えー?歯石は何時取った
の?」と思わず声をあげてしまいます。
歯石さえ取っていればこれほど早く悪化することはなかっただろうにと悔やまれる一方で、
患者さんから依頼されてもかたくなに歯石除去を行なわない歯科医の実態が浮かび上がって
きます。それには3つの理由が考えられます。歯槽膿漏の撲滅を目指して保険制度にPのT型
が導入された頃から、歯槽膿漏に対する取り組みが煩雑になったと同時に保険審査が異常に厳
しくなって治療を行なうことが敬遠されるようになったという背景が考えられます。その後、
規制は徐々に緩和されて煩雑さは徐々に解消されてきましたが、保険審査は未だに厳しく治
療離れに歯止めはかかっていないように思います。
第二に、歯石除去に伴う副作用ともいえる治療後の痛みが挙げられます。歯石除去に対する
患者さんの理解不足という側面もありますが、治療する我々歯科医にとっても厄介な問題です。
除石後歯歯肉が赤く腫れて歯磨きもできないという症状に対してアムホテリシンBをはじめとし
た抗真菌薬が有効です。これは歯石除去により一時的な菌抗体現象が起こったためと思われま
すが、保険適応の有効なうがい薬がありません。
第三の問題は、歯科医自身が歯石除去の有効性と必然性を認識していないことです。歯槽膿
漏の治療といえば、骨再生や外科手術など華々しい分野に目を奪われがちです。しかし、これ
らの治療を必要とする患者さんは歯槽膿漏末期の方たちです。末期になってからあれこれ治療
する前に、何時か必ず訪れる末期状態にならないようにコントロールすることの重要性を理解
すべきだと思います。地味な治療ではありますが、PMTCを始めとしたメインテナンスこそが我
々開業医に求められた使命ではないでしょうか。