日本における歯槽膿漏治療の歴史は浅く、戦後1950年代に歯槽膿漏を専門的に扱う講座が
大学に誕生しました。東京医科歯科大学に歯科保存学第2講座(歯周治療学)が開設されたのが
1957年4月1日付で、今川与曹教授が大阪大学より着任されて、我国で初めて歯周治療学講座を開
講されたとされていめす。その頃の治療といえば、歯石除去が中心だったといわれていますが、
今のような超音波スケーラーもなくハンドスケーラーでコリコリと非効率的な除石が行なわれて
いたと聞いています。
以下、東京医科歯科大学・歯科保存学第2講座の沿革として記載されています。
1968年に、今川与曹教授が定年退職され、その後任教授として今川門下の逸材として知られる 木下四郎先生が同年7月に就任されました。今川与曹教授の後を受けた木下四郎教授は、歯周病学 の研究とその発展に全力を注ぎ、特に、歯周病の原因とその予防法および治療法に関し、多大な る成果を挙げられました。プラークコントロールが歯周疾患の予防と治療に最も重要な因子であ ることを見いだし、その方法の確立に精魂を傾けられました。また、日本歯周病学会理事長とし て、「歯周疾患治療指針」を完成され、我国における歯周治療の確立と普及に寄与されました。 |
1970年以降歯槽膿漏に細菌が深く関わっていることが明らかにされ、細菌の塊であるプラーク
(歯垢)の除去、即ちブラッシングや細菌に感受性のある抗生物質が脚光を浴びるようになり
現在に至っています。
私の個人的な意見
「歯茎の炎症だから抗生物質が効く…つまり細菌が関与している」という事実は、産婦人科医
だった父の言動から1970年当時学生だった私も知っていました。それよりも、それ以来30年以上
経過した現在、遺伝子配列まで解明されたにも関わらず有効な治療方法が見つけ出されていない
ことをもっと謙虚に反省すべきだと思います。
細菌といっても所詮口腔内に生息する常在菌であって、結核やジフテリアのような特殊な細菌
ではありません。常在菌を撲滅することが如何に無意味で自然の摂理に反することであるかを考
える必要があります。所詮常在菌、何も引き金が存在しなければ炎症を起こすこともなく平穏に
生息している、いわば人類の共存すべきお友達です。大腸菌が炎症を起こすことがあるからと言
って、大腸菌を全て殺してしまったら人類は生きていけないかもしれません。それよりも“引き
金”を排除することを優先すべきです。歯の周辺で炎症を起こす引き金、それは何と言っても
生体にとって最悪の異物である歯石。この歯石除去をもっと見直すべきだと思いませんか。
私はこの歯石を取り続けて20年。歯槽膿漏の進行を見事に抑制しています。この事実にもっと
着目して欲しいと心より願って降ります。
カンジダ説
1990年代後半に入って、神奈川県で開業されている河北 正 先生によって常在菌の一種である
カンジダ菌が原因であるという説が発表されました。カンジダ菌は水虫
のようなカビに分類される真菌類で、通常の細菌とは異なった性質を持っています。細菌撲滅に
威力を発揮する抗生物質には感受性がなく、大量の抗生物質投与によって細菌が死滅すると勢力
を急激に増してカンジダ特有の炎症症状を呈します。これを菌交代現象と言って医学界の中では
常識となっています。
プラークコントロールや歯石除去によって多くの歯肉炎症が劇的に消失しますが、時に、増悪
してしまうことがあります。難治性と呼ばれる歯肉炎症で、この対処に長年苦労してきました。
今から思えば、歯石除去等による菌交代現象であったと位置付けております。カンジダ菌が
歯槽膿漏の原因菌だとは思っていませんが、歯槽膿漏治療を行なうにあたって無視できない存在
です。カンジダ菌にも弱点があってアムホテリシンBを始めとした抗真菌剤が非常に有効です。
歯周病治療の先進国である北欧では、プラークコントロールや歯石除去とクロールヘキシジン
のうがいが有効とされてきました。私もたかがうがい薬とバカにしていましたが、このクロール
ヘキシジンがアムホテリシンBに負けず劣らず真菌類に有効であるという論文を見て考えが一変
しました。
闇雲に抗真菌剤を使用することには問題がありますが、これを有効に使って歯石除去を続ける
ならば、人類の夢とも言える歯槽膿漏のコントロールが実現することを確信しています。