“不可能なことが可能になった=臨床に十分耐える”ものではありません。
割れた歯も接着

日付、時間:Mon Nov 27 6:29:45 Japan 2000    氏名: KK   
所在都道府県:大阪   職 業:その他   年 齢:32歳      性別: male  

質問:
 初めて質問させていただきます。よろしくお願いいたします。14歳の頃スポーツ 事故で下の側切歯一本を折ってしまい差し歯になりました。
 その後5,6年に一度くらい差し歯が外れてその度に歯科医に付け直してもらいました。そして、 一週間ほど前にその差し歯が少しぐらぐらするなと思っていたら2日前になってはずれてしまい ました。いつものことだと思い、歯科医に行くと、差し歯を入れている歯の根の部分にひびが入 っているのでもう差し歯は無理だといわれました。鏡で見せていただいたら確かにひびは入って ました。
 治療方法としては入れ歯か、インプラントか、あるいは、残っている両サイドの歯の裏側を削っ て引っ掛かりをつくり、「ブリッジ」をつけるという3つがあるが、「ブリッジ」を薦められました。治療 には3ヶ月以上かかるということでした。
 現在の状況は「どうせいつかこの歯の根のひび割れは再発するのだからそれまで一応接着剤 でとめて、元の差し歯を入れておきますが、今度ひび割れが再発し、差し歯が取れたときは、腫れ が生じますので、その時は直ぐに来院してください。」というその先生の指示に従っているという状 況です。ちなみに問題の差し歯(側切歯)の両サイドの歯は全くの健康歯です。

 そこで質問なのですが。

  1. 「ブリッジ」にすると引っ掛けている両サイドの歯に負担がかかり痛く なったり違和感を覚えるということはありませんか。
  2. 「ブリッジ」は平均で何年くらいもつものでしようか。
  3. 「ブリッジ」はやがて外れると聞きましたが、「ブリッジ」が外れた時は、「ブリッジ」を架けなおす ということは可能なのでしようか。また「ブリッジ」が外れる時期が両サイドの歯で時間差がある 場合には、一方の歯に致命的なダメージが与えられるとおっしゃっているようですが、一方が外 れたときに直ぐに歯科医に見てもらうことで何とか残りの歯を救えないのでしようか。
  4. 「ブリッジ」に使う両サイドの歯が全くの健康歯であって、歯槽膿漏など歯茎の問題が全くなくて もブリッジによる圧力によって両サイドの健康歯にひびが入ったり、根元から化膿したり、ひいて は抜歯せざるを得なくなるということがあるのですか。
  5. 最近は「接着剤の使用により9割以上の破折歯が治せるようになった。」という記事を読みまし た(1998年1月25日朝日新聞以下に引用しときます)。これは一般の歯科医では行っていない特殊 な治療なのでしようか。そして、もしこのような「接着剤」によって、歯を抜くことなく、これまで通りに 「差し歯」を続けられるとしたらその寿命は何年くらいのものでしようか。
  6. 「接着ブリッジ」とは両サイドの歯が健康歯の場合に行われる一般的なブリッジの仕方なのでし ようか。
  7. 結局「ブリッジ」とは、いずれ入れ歯かインプラントを施さざるを得ない過渡的な治療に過ぎないと 理解しておいた方がよろしいのでしようか。
以上大変長くなってしまいましたが、お答えいただければ光栄です。よろしくお願いいたします。
 (1998年1月25日朝日新聞から以下に引用しときます)
接着剤を大幅に取り入れた歯科治療が注目されている。ぐらぐらの歯を針金を使わすに固定する。 欠けた義歯をくっつける。なるべく歯を削らずに固定入れ歯を作る。これまでは抜くしかなかった歯 ぐきの中の根元で割れた歯も接着剤を使ってくっつけることができるようになった。応用範囲は広が り、保険でできるものもふえている。破折(はせつ)歯治療などの新しい技術が可能になったのは、 日本で強力な歯科用接着剤が開発されたおかげだ。「接着歯学」の最前線の動きを紹介する。
「これから破折歯がどんどん増える」と、東京世田谷区で開業する真坂信夫歯科医師(東京歯科 大講師)は不気味な予言をする。虫歯治療で神経を抜いた歯の根元を残し、穴を開けて義歯を差し 込む。物を噛むときの力がこの差し歯の根元にも伝わり、やがて根本の歯が竹を割ったようにスパ ッと割れてしまう。これが破折歯だ。割れたところに菌が入って炎症が起きる。痛みを我慢できすに 歯科医に行くと、普通は割れた歯を抜いて入れ歯にする。
真坂さんが初めて破折歯を残したまま治療したのは1982年だった。この年、ぞうげ質にも金属にも くっつく新しい歯科用樹脂(接着性レジン)が発売された。患者は30代の女性で、真坂さん自身がそ の11年前に差し歯治療をしていた。差し歯を抜き、その穴と歯の割れ目に接着性レジンを注入。最 期に差し歯を戻して全体をくっつけて治療は成功した。15年ほど前から、歯を抜かず差し歯を使う虫 歯治療が普及してきた。その差し歯が割れるまで5年から20年かかり、これから破折歯が増えると みられる。破折歯は割れ目がじわじわと広がることが多い。炎症がひどくなって来院する患者は、 歯の下の骨(歯槽骨)が溶けており、接着レジンの注入だけでは対応できない。真坂さんは89年、 割れた歯を一度抜いて接着してから植え直す「再植法」を考案した。もっと重症な場合は、接着し た歯を90度回転させて植える「回転再植法」を考案した。元の位置は骨だけでなく歯の周囲組織 も壊れているが、健全な組織のある場所にずらせば骨も再生しやすい。これで9割以上の破折歯 が治せるようになった。
 歯科用樹脂(レジン)に数%の接着剤をまぜた接着性レジンは、東京医科歯科大医用器材研究所 で開発された。78年に売り出された最初のタイプは、今でも虫歯治療で削った穴を埋める充填剤とし て利用されている。二番目に登場した接着性レジンに含まれる接着剤「4 META」(4メタクリオイルオ キシエチルトリメット酸)は強力で、歯の中心部にあるぞうげ質までくっつけることができた。開発者の 中林宣男教授(有機材料)は昨年、歯科分野で権威のあるホレンバック記念賞(米国保存修復学会 )を日本人として初めて受けた。このタイプは90年代に本格的に使われだした。一部が壊れたり欠け たりした歯や義歯の修復、動く歯を隣の歯とくっつけて動かないようにする治療だ。次が破折歯のほ か、接着ブリッジ、ラミネート・ベニヤと呼ばれる治療法。ブリッジは両側の歯を支えにして、途中の欠 けた歯を補う固定入れ歯。両側の健康な歯に歯冠を被せて支える従来法だと、高さを同じにするなど の条件のため、健康な歯を大きく削る必要がある。接着レジンを使う接着ブリッジなら少し削るだけで すみ、治療期間もぐんと短くなる。当初は脱落しやすかったが、改善された。ラミネート・ベニヤは審美 歯科治療で、色や形が悪い歯の表面にセラミックの薄い板を張り、整った歯にする。「削らない歯科へ の展望が開けた」と、第一生命保険健康管理診療室の安田登・歯科医長はいう。
 中林さんらの研究では、接着剤4METAはぞうげ質にしみこむ性質があり、表面にぞうげ質とまじり あった中間層を作る。金属などはこの層とくっつくことがわかった。細菌の侵入を抑えたり、刺激を防 いだりする働きもある。中林さんはこの作用を、接着を超えるという意味で「超接着」と名付けた。二 番目のタイプの接着レジンを使えば虫歯の再発が減り、歯の神経を残したままの治療が可能だと考 えられている。「虫歯部分だけ取って、塗れば終わりという治療も夢ではなくなった」と安田さんは話 す。

ご意見・ご感想:
独りで相談できる相手も少なく悩んでいましたところ、このようなホームページに 出会えて大変光栄です。お会いしたこともない河田先生と質問をしている人々にとても感謝いたしてお ります。今更ながらインターネットのすごさを実感しております。

メールアドレス: Ko.Kawamura@ma2.seikyou.ne.jp   ホームページURL: http://

回答  可能性の話をすれば、良い方も悪い方も全て可能性が考えられます。ブリッジを始めとした補綴物 の寿命はできることなら20年程と思って製作しますが、現実には長くても10年の経てば歯周疾患を 始めとした様々な要因から再治療の必要に迫られてしまいます。またそれ以前にも、脱離や根尖病 巣の出現により再治療を必要とするケースを頻繁に認めます。耐用年数5年程と考えるのが妥当 なところだと思います。

 “4メタ系の接着性レジン”については、私も上記の記事と同じ頃に某メーカーの試作品を使って 様々な試みを行ってまいりました。従来の製品に比べて飛躍的に性能が向上していますので、過 去には不可能だったことも随分可能性が広がったと実感しています。しかし、“不可能なことが可 能になった=臨床に十分耐える”ものではありません。特に破折した歯根については、破折の形 態や程度によって数年程保つものもあるという実感です。交通事故のような一瞬の力により破折 したものは接着に期待も持てますが、咬合力のような継続的な応力集中により破折した歯根は再 び応力が集中して破折してしまいます。

 また現実の問題として、新聞に載るくらいですから…歯科専門雑誌にも載っていました…試作品を 使うくらいですから…一般の普及にはかなり程遠いのではないでしょうか。真坂信夫先生に直接聞く か新聞社に直接問い合わせないと無理でしょうね。

 あまり特殊な治療や技術を考えないで、一般に可能な範囲で選択すべきだと思います。結果としては 過渡的になる場合もありますが、ブリッジは最終補綴という名の通り生涯使える可能性もあります。 それは歯科の技術だけでなく、全ての歯を残すための努力があってこそ実現することをお忘れなく!!
  ブリッジの違和感については、一般に少ない方だと思いますが、個人 差もありますので何ともいえません。

返信:
かなり長い質問に対してこんなに早くご丁寧にお答えいただいて本当にうれしいです。ちなみに先生 の病院では今でも “4メタ系の接着性レジン”による治療を行ってもらえるのでしようか。 お答えいただければ光栄です。よろしくお願いいたします。

回答:
 “壺にはまった”というか、保存の可能性があると判断される状況であれば治療します。

返信:
お忙しい中、再度お答えいただき誠にありがとうございました。
こちらは吹田で少し遠いですが、場合によってはそちらで診ていただくことになるかもしれません。 先生の益々のご活躍をお祈りしています。

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