日付、時間:Tue Apr 3 16:18:17 Japan 2001
氏名: Y
所在都道府県:神奈川
職業:主婦
年 齢:29歳
性別: female
質問:
食事をしているとき前歯がぐらつき噛むとあきらかに歯が沈むようになってしまいまし
た。私は前歯の位置がずれていて左1が真ん中にありその歯は今まで何度か治療をしました。
どちらの歯医者に行こうか迷っているうちにくしゃみで思い切り噛み締めてしまい前方に歯が
動いたので、あわててA歯科に行くとレントゲンをご覧になって、ヒビが入っているので差し歯にする
しかないとのことでした。歯茎の変色が心配な事を告げると、全部セラミックでできたのがあるから
それにしましょうと言われました。
心配でB歯科に行くとレントゲンでは分からないからとつめものを取り除いて見て下さり鏡で歯の
裏側を見せてもらったのですが、治療を重ねて自分の歯は表面が残っているだけでからっぽの
常態で、歯茎の内側あたりから下にむかってヒビが入っていました。先生のご判断では根までま
っぷたつに割れているようだから抜歯してブリッジにしましょうとのことで抜歯をしました。でも抜歯
してみると根は少し残っていて、まっぷたつには割れていなかったようです。抜歯後は腫れも痛み
もなく2と1を削って仮歯の状況です。
健康な歯を削った事がショックで、A歯科で差し歯にと言っていたということは少しでも根があれば
差し歯にできたのでは?と今になって考え込んでしまっています。必ずしも根を残す事が最良な
訳ではないのでしょうか?
差し歯にする為には自分の歯はどの位必要なのでしょうか?
また、ブリッチにする為に削った両隣の歯の神経は残す方がいいのでしょうか?
これから相談して決めましょうと言われているので、先生のご意見もお聞かせください。宜しくお
願い致します。
ご意見・ご感想:
たくさんの方達の実例と先生の丁寧なご回答がとても参考になりました。
「出来るだけ神経を取らない方が良い」ということが前提ですが、ブリッジにする場合、平行性の
問題から削除量が多く“抜髄せざるを得ない”とか“有髄のままでは後々歯髄炎を起こし易い”と
いう事実もあります。
私の価値基準ですと、できるだけ抜歯をしないで使えるところまでトコトン歯牙保存に努めて、
どうしても抜歯となると両臨在歯を抜髄することが原則でブリッジの製作に取り掛かります。勿論、
状況によっては有髄のままブリッジにすることもありますが原則は抜髄です。
その前に、金額的な負担が許されるならばインプラントを検討します。これらは、私の経験と技術、
そして価値判断から導き出される決定であって、有髄歯形成 or 抜髄の技術、インプラントの技術や
過去の経験の差によって治療方針が異なります。
将来の 歯髄炎や知覚過敏のリスクが納得できて(つまり症状が出
ればそれから抜髄という開き直り)、有髄のままが可能であればまずは有髄を選択する方が有利
なことが多いのではないでしょうか。
ご意見・ご感想:
不安で仕方がないので、こんなに早くご回答頂きとても嬉しいです。
回答:
歯は神経を取った時点で生活機能を失いますので、硬く・反面脆く、歯質が変化していきます。
「抜髄後の寿命は平均30年程度」と言ってもそのバラツキは大きく、生涯保つ歯もある反面、
抜髄後数年以内にダメになってしまう歯もあります。
特に現状の抜髄の技術では、根尖病巣が出来る可能性(抜髄の失敗)は実に50%程度ある
ように認識しています。状況によって抜髄しか打開策がない場合もありますし、歯が痛い→即
抜歯よりも抜髄してでも歯を利用することには十分意義がありますが、出来るだけ避けたい
処置だと思います。
抜歯した歯の詳しい状況は分かりませんが、おそらくまだ数年以上何らかの使用が可能だっ
たように感じます。また、抜歯しないで使えたとしても数か月でダメになる可能性もあったと思い
ます。そこで何を選択するかが“医者の見立て”といわれる違いでしょう。一生懸命歯牙保存に
努めても報われないこともあるけど残すのか、報われないことがあるので抜歯するのか。そして、
患者さんはどちらの方法を指示するかが、今後の情報公開の嵐を経て自然淘汰されるものと
確信しています。
インプラントに限らず全ての治療にリスクは付き物です。一般にインプラントの成功率は90%以上
(95%)といわれています。反対に考えれば数%は必ず失敗するというのが現状の医療レベルです。
その観点からみれば一歩引くのは当然でしょうが、有髄歯でブリッジにしても歯髄炎、抜髄すれば
根尖病巣や歯根破折という具合にそれぞれリスクはあります。
ブリッジが歯を次々にダメにする事実もありますが、かといって入れ歯やインプラントにしても似た
ようなリスクは存在しますし、何もしないで放置しておけば審美性は無論のこと咬合の乱れによって
口腔内全体の環境を悪化させる事実もあります。
何が一番素晴らしい治療かといえば、治療しなくてはならない状況になれば、あくまでも修理ですの
で満足の出来る修理はありません。同じ修理するにしても程度が軽ければ軽いほど満足度の高い
修理が可能です。今健康(と思っている)歯も、現状では必ず?80歳になるまでに無くなってしまいま
す。全てをそっくりそのまま80歳まで保存することは不可能だとしても、定期的に歯石を取って、その
中で早めに異常を発見して修理(治療)すればほとんどの歯を生涯機能させることができます。それ
こそが最も素晴らしい歯科治療だという認識をもち実践することが大切です。
回答:
通常の歯根は15mm程度ですので、10mmあれば何とかさし歯が可能だったかも知れません。
但し過去の既往などを考慮すれば通常の寿命が果たせるとは思えません。ですから、折角造っ
ても1か月も保たない可能性もありますし、上手くすれば10年近く使えたかも知れません。それは、
一種の賭けみたいなものです。数年しかもたない運命だったと思います。
「数年しかもたない」から抜くのか、「数年しかもたない」かも知れないけど歯牙保存を試みるのか
は患者さんと担当するドクターの価値判断によって異なります。
“数年しかもたないかも知れないけど歯牙保存を試みる”にはそれなりの説明と患者さんの理解が
必要ですが、実際の医療現場では“リスクの共有”という発想が希薄なために無難な抜歯が選択さ
れるケースが多いように認識しています。