何よりも大切なことは“今以上に進行させない”こと。
フラップ手術(イギリス)

日付、時間:2002年1月16日 8:55   氏名:まみ  
所在都道府県:西ヨーロッパ   職 業:主婦   年 齢:29歳      性別: female  

質問:
 英国(ロンドン)在住です。 歯周病の外科的手術について質問があります。
私は、10代の頃に矯正をし、上2本と下2本(たぶん第2小臼歯)抜歯し、親知らずも4本 とも抜いております。 顎関節症と歯軋り(夜はマウスピースをはめます)もあります。

以前から下顎の歯茎が薄いのは知っており(特に側切歯と中切歯)、帰国する度に(年2回) 地元の歯科へ行き、歯石を取ってもらっておりました。 勿論、毎食後やワイン等水以外を飲 食した後も必ず歯磨きをしておりました。 ですが、1週間位前に鏡で確認すると、歯茎が驚 くほど薄く(歯が長く)なっておりました。 歯自体が歯茎を透かして(レントゲンのように) 見えております。 入歯は目前です。 あまりのショックで鬱病状態になり、歯が抜けてしま う夢や歯がぐらぐらしている妄想まであります。急遽チケットを取り、来月に帰国予定(直ぐ に帰国したかったのですがキャンセルできない海外旅行がある為)です。 どうしても、日本 で治療が受けたいからです。

 ラッキーな事に歯周病学会認定医が実家の近くで開業しております。 歯周外科手術(フラ ップ手術)、組織再生誘導法(GTR法)と歯肉移植をして頂きたいのですが、どれだけの滞在 期間が必要でしょうか?
 最低でも、フラップ手術と歯肉移植を受けたいです。初めて行く歯科なので、急に外科治療 は無理かもしれませんが、5月にも帰国予定がありますので、その時でも外科治療が受ける事 ができればと考えております。 又、どの位の料金が(国民健康保険はありません)かかるの でしょうか?
宜しくご教授お願い致します。

回答  あまり緊急な手術は禁物です。歯肉退縮による審美性の問題は二の次にして、肝心の歯槽骨 状態と破壊速度をどのように診断し対応していくかが大切です。歯周病学会の認識として一般 に中程度の進行でフラップ手術を選択していますが、要は歯石の徹底除去ですので、中程度で は手術は不要場合によっては悪という風に私は認識しております。
 歯肉の移植も一時の審美性回復には有効ですが、何よりも大切なことは“今以上に進行させ ない”ことだと思います。仮にしっかりコントロールして、60歳になっても今と全く同じ状況 こそが理想的な治療だという認識です。そのためにはブラッシングが基本ですがそれだけでは ダメ。まずは麻酔をして徹底歯石除去。その後毎月歯石を取り続けることで達成は可能です。 色々と意見はあろうかと思いますが、少なくとも私の医院ではそれが実践され所定の効果を 挙げています。

 さてご質問の手術の件ですが、保険の規制がかからない場所では即刻手術ということも可能 です。しかし、現実には保険規則に定められているように手順を踏んで治療を進めたとすれば 手術までに最低でも1か月は必要です。手術の費用は全国的にまったくバラバラですので正確な 助言はできませんが、一言でいえば約10万円。手術に至るまでの費用としてほぼ同額の10万 円が必要だと思います。
 いきなり手術を前提とするのではなく、まずは現状をしっかり把握して将来の予想を確立する ことです。その上でコントロールを如何に充実させるかを考えていただきたいと思います。

 


返信:
 先週(16日)に質問をさせて頂き、早急なお返事に大変感謝しております。こちらのサイト を拝見しておりまして、新たな質問ができましたので宜しくお願い致します。

歯周病の外科手術はできればしない方が良いとのお考えですが、外科手術をする際は抜髄を しなくては歯の寿命が短くなってしまうのでしょうか?
 どうみても、私の場合は中度と重度の中間位の歯周病ですから何らかの手術が必要と思われ るのですが・・・。 
又、歯茎の腫れが無ければ直ぐに手術はできるのでしょうか?
来月の中旬に帰国、歯周病の治療を受ける予定です。 現在、歯茎が腫れており膿もあります ので、歯石の除去を今週末に予約しております。

回答:
 歯周病の外科手術と言っても要は如何に歯石を取るかです。
腫れぼったい歯肉では盲嚢(もうのう)が深くなっていますので1回のスケーリングで全て の歯石を取ることは不可能です。しかし、一度スケーリングを行えば歯石の取れた場所の炎症 が治まり、歯肉が引き締まって盲嚢が浅くなります。勿論深さに応じて麻酔を使って歯石を取 ります。盲嚢が浅くなって更にスケーリングを行いますとかなり深い位置の歯石も取ることが できます。

 抜髄と歯周疾患進行速度との関連は、私が歯周病学会でも発表していますが、世間の同意を 得るには至っておりません。私が抜髄を前提に手術を行うのは、あくまでも抜髄しても惜しく はない程度の進行状態(重度以上)のものに限定しているからです。
 “中度と重度の中間位”が実際にどの程度なのか分かりませんが、私の思う“中度と重度の 中間位”だと麻酔をして徹底除石を行ったのち、毎月スケーリングを繰り返し継続すれば十分 コントロール可能な範囲だと実績をもっています。手術は話次第で即刻行うことも可能かも知 れませんが、その判断はレントゲンを含めた診査を行ってからの話です。

初診時パノラマ
インプラントについて


診断:2004.04.08.
 口腔内を拝見した瞬間、管理がよく行き届いていることに驚きました。健康な歯肉に被せ のない歯。一方、レントゲン所見では、年齢の割にやや骨欠損が目立つものの、致命的な 骨欠損は見あたりませんでした。この骨欠損が歯槽膿漏によるものか、矯正によるものか は定かではありませんが、悲観的に考えるほどのものでもありません。無論このままケア をしないで過ごしたならば、50歳頃には末期状態の歯が出現するであろう可能性は否定で きませんが、ケアを続ければ生涯歯を失わないことも決して夢ではありません。  問題は、毎月の歯石除去がイギリスでは1万4000円もするということですね。手術や審美 的なことに費やすお金をメンテナンスにまわして、せめて3か月に一度は必ず歯石除去を 行なうようにすれば結構満足な結果が得られるものと思います。

 3か月に一度でどの程度の効果が得られるか、実のところ私にも分かりません。と言いま すのが、毎月だと確実な成果が得られることは分かっているのですが、3か月に一度を長年 続けた人が非常に少ないからです。1年や2年なら続けられるようですが、ほとんどの患者 さんは、何かの理由で途絶えだすとそのまま続かなくなるからです。モチベーションを継続 するのが非常に難しいというのがその理由でしょう。そんな中で2人だけ20年ちかく3か月 ごとのメンテナンスを続けた方がいらっしゃいます。
 意外と悪くならないのでそのまま継続していましたが、50歳を過ぎたころになると、局所 的に急激な進行が起こってしまいました。それから以降は毎月に変ってもらいましたが、 余りにも症例数が少ないので実態を把握することができません。

 とにかく、できる範囲で末永くメンテナンスを続けていけば必ずその成果が現れるはずで すので、余計な手術などしなくてもケアだけを続けていってください。

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