日付、時間:2002年9月25日 0:36
氏名: C.N.
所在都道府県: 東京
職 業: 会社員
年 齢: 34歳
性別: female
質問:
はじめまして。歯周病(歯肉炎)の質問をさせて頂きたくお願いします。
「河田先生は、こちらのサイトで歯肉炎でぐらぐらする歯の抜髄後、ブリッジで固定連結すれば、
その歯を少しでも長く使える可能性があることを書かれていますが、抜髄後、その歯の根に炎症
が起こって、それでその歯が痩せてきてしまった場合は、やはり抜かざるをえないのでしょうか
?」というのが私の質問です。
私は、6年程前に右上の6の抜髄をしてもらい、その際に随分歯を削ったようで、穴を詰めず
に被せました。ところが、その歯の周りの歯茎(特に内側)が腫れたり、違和感を覚えるように
なり、一年前に通っていた口腔外科の先生は「動揺度2、歯周ポケット6ミリ、歯(骨)痩せて
いてかなり深刻」と診断されました。その他の歯の歯周ポケットも4ミリの所があったりと、怖
い事だと教えてもらいました。それからは怖くなって歯石をまめに取って頂いたり、歯磨きなど
も丁寧にしてきました。
そして、先月、右上5の虫歯の治療のため会社の近くの歯科医院で治療をして頂いたところ、
痛みの原因は5の虫歯と6の歯肉炎の両方だと思います、と先生に言われました。確かに、その
時は6の内側の歯茎はとても大きく、夜中に脈打つように痛かったです。
結局、6の歯の根元が酷く炎症を起こしていて、骨(三つの根の内、特に他の2本と離れている
1つ)がかなり痩せてしまっている。その上被せてある物が大きすぎた為、外側の歯茎にも良く
なかったし、根に負荷がかかってしまっていた。ということのようです。確かに、6の被せ物を
少し削って下の歯とあまり当たらないようにして頂いただけで大分楽になりました。
今、診て下さっている先生は、最初、6の被せ物と詰め物を取り除いて上から根の消毒をしよ
うとなさったのですが、先生がお考えになっていたよりも根の状態が悪く、結局プラスチックの
仮の被せ物を付けました。ところが、私が、被せ物と歯茎の隙間が気になって念入りに歯磨き等
していたら3日で取れてしまい、先生と相談している内に、やはり抜いてブリッジにした方が良
いのでは…。ということになりました。今診て下さっている先生も迷っている、というか悩んで
いる、という感じです。
上右の6の歯をこのまま生かすことによって、7や5等の周りの歯が病んでしまうようなこと
になるのは嫌なので、それならば6を諦めて、その他の歯を大事にしようと思っています。
ただ、坂道を転がるように歯がなくなってしまう事もありえることのようで、とても怖いと思っ
ています。
お忙しいところ、大変恐縮ですが、ご回答頂ければとても嬉しいです。
“歯肉炎でぐらぐらする歯の抜髄後、ブリッジで固定連結すれば、その歯を少しでも長く使える
可能性がある”というのとかなり次元の異なった話のようです。まず第一に、私が申し上げている
“ぐらぐらする歯”とは歯槽膿漏により歯槽骨の2/3以上が喪失された歯で、通常抜歯と診断される
ような歯です。当然のこととして抜髄だけではなく、場合によっては歯槽膿漏の手術(Fop)を
含む徹底した歯石除去と、以後のメインテナンスを前提としています。また、抜髄の的確性が極度
に要求されます。元々歯槽膿漏の進行傾向の強いひとは、体質的に炎症を起こしやすいタイプです
ので、同じような抜髄処置を行っても根尖病巣を作りやすいために余程正確な抜髄処置を行わない
と良好な結果をだすことはできません。
ご質問のケースは、歯槽膿漏以前の問題のようです。つまり、抜髄処置が不完全であったために
根尖病巣ができて周囲の骨を破壊したものと考えられます。“動揺度2、歯周ポケット6ミリ”と
いうことのようですが、おそらくそのポケットは根尖までつながっていて、その破壊原因が歯槽膿
漏ではなく根尖病巣によるものと思われます。
“その他の歯の歯周ポケットも4ミリの所があったり”というのは決して歓迎すべきことではあり
ませんが、年齢的にも平均的な歯槽膿漏の進行程度です。この事実は、別の意味で深刻にとらえて、
歯石除去を中心としたメインテナンスが必要ですが、問題の6番とは切り離して考えて下さい。
つまり、現実の医療現場では、抜髄もしくは根管治療の不備によって生じた根尖病巣や、そこから
派生した歯槽膿漏様の骨破壊に対して「歯槽膿漏ですから抜歯しましょう」という殺し文句として
抜歯の理由に使われるケースを多く耳にしています。
クラウンの形態に若干の問題があったとしても、28歳のときに抜髄して、その歯だけが歯槽膿漏の
進行が著しいということはあり得ないことです。あくまでもその骨破壊は根管治療の不備によるもの
ですので、根本的な解決は的確な根管治療によってのみもたらされるものです。
クラウンを除去して負担軽減とともに周囲の清掃をおこなえば、基本的に存在する歯槽膿漏による
症状は全て解決します。しかし本丸はあくまでも根管治療ですので、それ以上の改善を図るためには
根管治療が必要です。根の状態が悪く本当に根管治療が不可能かどうかは実際に診ないと分かりませ
んが、少なくとも一度はチャレンジしてみないことにはとても最善を尽くしたとはいえません。
最善を尽くした結果、根管治療不能というのであれば最終的には抜歯もやむを得ない選択ですが、
その場合でも、健全な根っこを部分的に残すヘミセクションにより、延命
処置も可能と考えられます。
“坂道を転がるように”はまさにそのとおりで、根管治療に最善を尽くさないような治療方針で、
再び隣の歯を不完全な抜髄処置を行えばますます悲劇は拡大します。1本の抜髄がもたらした悲劇を
どこでくいとめるか。場合によってはそこの部分をあきらめたとしても、今後はメインテナンスを
徹底して、歯槽膿漏の進行を抑制すると同時に、新たな抜髄を極力回避するような努力を行えば、
全体として“坂道を転がるように”崩壊していく危機は十分回避できるものと思われます。
現在診て頂いている歯科医院の先生は、6の歯は根が3本あり、根のお掃除をすることは出来な
いだろう、とお考えになっているようです。また、歯の組織の内、硬い部分がまだ生きていれば、
根が育つ可能性はあるけれど、私の場合は極めてその可能性が低い、とも仰っていました。それで、
何もせずに仮のプラスチックの被せ物を付けておいて様子を見る…ということになったのでした。
私は、素人考えで「いっそ6の歯を取り出して根を綺麗にして頂けないのかしら?」と思ったりも
しましたが、それはできないようですね。
いずれにせよ、今診て下さっている先生と相談して、根管治療をお願いしてみようと思います。
その上で、ヘミセクションという方法が可能かどうかも伺ってみます。
先生のサイトにお集まりの方の多くが仰っているとおり、河田歯科医院に通える距離に私が住まう
ご縁のなかったことが残念です。
一年ほど前の私は、抜髄や抜歯の怖さを全く知りませんでした。「神経を抜いたらもう痛くなくてい
いかしら?」「入歯だったら虫歯の心配は要らない」などと思ったこともあるくらいです。一年前少
しの間通った口腔外科医院の先生のご指導で、少し怖くなって歯のことを調べ始め、河田先生のサイ
トを見つけました。専門用語などはまだよくわかりませんが、先生のサイトを拝見しているうちに、
歯と幸福が切り離せないものだとやっとわかってきました。先生のもとに通われる患者さんの中には、
悲しい状態の方もいらっしゃり、それをこうして先生がHPで世間に広くご紹介し、丁寧に歯のこと、
歯茎のことなどを教えててくださるのは本当にありがたいことです。
また、ご多忙中、このように丁寧なご回答を早速お送りくださいましたことにも深く感謝いたします。
本当にありがとうございました。