永久に問題が生じないような歯科治療は存在しない。
21|1連結の可否(アメリカ)

日付、時間:2003年1月21日 4:37  氏名:  AK   
所在都道府県:  アメリカ  職 業:  その他  年 齢: 37歳      性別:  female

連結の可否 質問:
 現在アメリカに住んでおり、2年ほど前に一度先生に質問させていただいたことがあるも のです。若いときにかなりの歯をだめにしてしまい、上顎の歯はほとんどがクラウン(差歯) という状況です。
 上右1番の歯は、20年ほど前に差歯にしてしまったのですが、どうもその歯根に吸収が起こ っているらしく、短くなっているのでいつ抜けるかわからないということをここで通ってい る歯医者に言われました。その両脇の上右2と上左1は、2年ほど前に見ていただいたときに 神経が死んでいることがわかり、根管治療をおえています。歯医者さんは、右1の歯の両脇は 根管治療も終わっているので、右1と両脇の歯3本を連結して冠にしたほうが、強化にもなるし、 きれいになるといわれました。私ももっともだ、と思うのですが、右2と左1は、神経はない のですが歯質は残っているし、これを差歯にすると上の歯はほぼすべてがクラウンという状況 になってしまうので、少々躊躇しています。しかしもちろん、こうすることによって右1の歯 が少しでも長持ちするならもちろんそうすべきと思っています。
そこで、先生のご意見を伺いたくメールさせていただきました。
お忙しいところ申し訳ございませんが、よろしくお願いします。

感想:
 このHPは本当にすばらしく、歯が悪い私にはとても助かります。20年前からこういうものが あれば、今こんなに情けない思いをしなくてすんだのに、と思います。実際、ほとんどの歯を 抜髄した20年ほど前には、これで痛くなることもないからよかった、くらいにしか思っていま せんでした。

回答
 抜髄や根管治療もそうであるように、最終補綴(ほてつ)という呼び名とは裏腹に、永久に 問題が生じないような歯科治療は存在しないことを肝に銘じて考えて下さい。

 クラウンを連結するということは、説明通り脱離や歯根破折に対しての強化になりますし、 同時に作ることによって審美性も向上します。特に上顎前歯部は、かみ合わせの関係上歯根 破折のリスクが高いので可能な限り連結しておいた方が良いケースが多いように思われます。

 その一方で、連結することによるリスクについても十分な知識を持っておく必要があります。 脱離や破折リスクが少なくなるとはいっても、ゼロになるわけではありません。特に脱離に関 しては要注意です。3本連結した場合、同時に脱離することはまず考えられません。必ず最初 の1本が脱離して、順次脱離して最後の1本が脱離するまでには通常半年以上の時間差があり ます。そのことに気付かずに過ごしたとすれば、最初の脱離から半年以上が経過したことにな ります。しっかりセメントでくっついている間は差ほど問題はありませんが、一度脱離した歯 は急激に虫歯が進行します。急激に歯が腐ると言った方が適切かも知れません。
 脱離したまま半年も経過すると、その歯は使い物にならないくらい腐りきってしまいます。 「先生、被せがはずれてしまいました」と歯科医院を訪れると、「この歯は大丈夫だけど、 隣の歯はちょっと怪しいし、こっちは全く使い物になりません」という事態が十分想定されま す。絶対はずれない連結冠は理想的ですが、残念なことにこの世に存在しません。そうなると対 処としては、常に看視して一刻も早く最初の脱離を見落とさない体制が必要です。毎月のメイン テナンスなしには連結冠の維持は不可能と申し上げても間違いではないでしょう。

   それ以外に、二次カリエス・根尖病巣等が1本に発生した時には全てを作り替えなくてはな りません。それらの発生を防ぐこともできないのが現状ですので、発生した時に即刻除去して 治療しても良いという覚悟も必要です。…ということは、保険外で数十万円支払ったとして、 数年後に「ハイ分かりました。作り替えてください」と言えますか?
 数年後に「ハイ分かりました。作り替えてください」と言える金額設定ということも大切な 要素だと思います。


返信:2003年2月4日 12:57
 1月21日に、前歯の連結冠について質問をさせていただきました。たいへん丁寧なお答え をありがとうございました。早速連結冠にしてもらおうと思い、歯科の説明を受けに行ったの ですが、治療方針が少し変わったようで、またどうしようかとまよってしまい、再び質問をさ せていただく次第です。
 先生は、冠がすでにかぶって歯根吸収がおこっている右1はそのままにして、その両脇を冠 にしたらどうか、とおっしゃいました。ひとつには、私はこれから歯科の保険を利用できるよ うになったのですが、こちらは歯科医があらかじめ治療方針を保険会社に提示して、保険会社 がどの治療を保険適用にするかを決めるらしいのですが、すでに冠がかぶっている歯は適用か らはずされるらしいのです。もちろん、適用外の歯は自費にして連結冠を作っていただくのは 可能ですが、いずれにせよ右1は太いポストがあるので、冠のみを削って連結冠をつくること になる、とのことです。
 そこで、私は、治療中に無理な力がかかって右1の歯が破損するリスクを考えると、やはり 右1はそのままにしておいたほうがよいような気がしてきました。そうすると、両脇の歯は、 今冠にしてしまったほうがよいのかどうか、ということが疑問になりました。右1は歯根が吸 収されて、左1の歯根の半分くらいになっているのではないかと思うのですが、これはいつ抜 けるかわからない、といわれているので、もしこれが抜けた場合、両端の歯をつかってブリッ ジということになると思うのですが(インプラントの選択もあるといわれましたが)そのとき、 また冠をはずさなければいけないであろう可能性と、あと早く冠にしてしまったほうが、歯の 寿命を縮めるのではないか、という思いがあります。しかし一方で、右1の両脇の歯は、すで に抜髄ずみであるうえ、レジンがかなり入っているから歯質はもろくなっているといわれたの と、いずれ冠にしなければいけないなら、こちらでいれてもらったほうがかえって安くつくの と、安心できそう(歯医者さんの腕はよさそうで、丁寧にやってくださりそう)なので、思い 切って冠にしてもらったほうがいいのかも、とも思います。
 いったいどちらが得策なのでしょうか。ちなみに先生は、両脇を冠にして、そこから右1を 支えるように細工することもできる、とおっしゃっていたのですが(詳細はわかりません)、 もし冠をいれることにしたら、そのような細工をしていただいたほうがよいのでしょうか?
それともばらばらのほうがよいのでしょうか?
あとひとつ、前歯の歯根が半分くらいになっている場合、どれくらい寿命があるのでしょうか?
大変長くなり申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

回答:
 一番状況の怪しい1|の延命より、比較的状況の良い2|1に有利な方法を選択す べきではないでしょうか。それと、姑息的な補綴処置による延命効果よりも、全体のケアによる 保存の方がはるかに大きな効果をもたらすことをご理解ください。例えば、奥歯を失ってしまう と、ひ弱な前歯に異常な負担がかかりますので、如何なる対抗処置をとってもまったく徒労に 終わってしまいます。

 1|の寿命がどれくらいあるかは全く予想できませんが、歯根が半分くらいになっている とはいっても10年くらい保つ可能性もあります。何時ダメになるかはともかく、ダメになった時点 でインプラントもしくはブリッジを検討しても遅くはないでしょう。それよりも、2|1を さし歯にすることは明らかに寿命を縮める行為です。破折して“さし歯やむなし”という状況が 何時来るか、これも手入れ次第で全く不明です。一つ言えることは、さし歯にした時点から最終 的な寿命が決定するということです。
 連結ならともかく、“右1を支えるように細工”はおそらく何らの効果ももたらさないでしょ う。余計なことを何もしないのが一番良い選択ではないでしょうか。