消去法的に治療を進めていくのも医療の常道です。

歯髄炎の診断

日付、時間:2004年8月31日 17:43  氏名:   H.N   
所在都道府県:  山口  職 業:  その他  年 齢: 30歳      性別:   male  

歯髄炎の診断 質問:
 先生、始めまして。お聞きしたいことがあり、質問させて頂きます。
 約二年半前に左上8番(親不知ですね)を抜歯しましたが、ほぼ同時に左上6番の虫歯 の治療もしました。左上7番も虫歯だったのですが、随分前に治療済みです(こちらは既 に神経を抜いています)。 丁度その約二年半前から、どうも左上の歯の部分が疼くの です。疼くというか、虫歯のような痛みで歯痛・頭痛がし、集中力が落ちて何事もは かどりません。この痛みは定期的(3,4ヶ月〜半年ごと)に起き、その痛みが起きて いないときは全く無痛なのですが、痛むときは既述の通り痛みます。
 この痛みが起きる度に、歯医者へ行きました。それでも繰り返されるので違う歯医者 へも行ってみました。どこの歯医者へ行っても、同じは医者で何回診て貰っても、レン トゲン上以上はないといわれ、歯周病で炎症を起こしているのではないかとスケーリン グをされ、鎮痛薬をもらって治療は終わっていました。
 最近、また再発し、贔屓にしている歯医者があるので行ってみました。信頼している 主治医の先生は非番だと知っていましたが、それでも痛みがするので支障が出てはいけ ないと思い、何とかしたいと行きました。行ったところ、勿論主治医の先生は居なかっ たので他の先生でしたが、初めての先生でした。レントゲンを撮りました(もう何度撮 ったことでしょう……)。その先生が言うには、「勘なんだけど、治療した左上6番が かなり深く削られているのでこれが神経を刺激しているんでしょう」と。確かに左上6番 はかなり深く削られています。でもどこの病院でもそれを(レントゲン上で)分かった 上で「歯には問題ないですね」と口を揃えて言われたのです。自分が見ても、確かにレ ントゲン上、神経の部分が化膿とか炎症とかして白く映っている訳でもないし、今まで の先生は「やはり神経は最後の手段」と仰っていたのです。それを言うと診て頂いた先 生は「レントゲン上綺麗だということと、それで神経を刺激していることは別物です。 この深く削っている部分が多分神経を刺激して、慢性的になっているんですよ」と言わ れました。慢性的といわれても、再発していない間は全く無痛なのに……。
 結局、治療させて貰いますねと言われ、神経を抜かれました。確かに色々な病院で見 てもらったのに痛みが再発する以上、それまでの治療は根本的な原因除去ではなく、根 本的な治療をするには他の原因を探る必要はあるかとは思いますが、初めての先生が、 仮令カルテを見たとしても、今まで神経だけは最後の手段にと言われていたのに「勘だ けど」の一言で簡単に神経を抜いて良いものなのでしょうか?勘だけど、という言葉に 目くじらを立てているわけではありませんが、せめて「今までの治療でだめだったので 考えられる原因はこれだと思います」と言ってくれれば多少は救われたのです。
 私は「勘だけど」の一言で初めての患者に簡単に神経を抜いて良いものなのかという 歯科医師としてのモラルを問いたいのではなく、その先生の治療としての選択が正しい かということをお尋ねしたいのです。神経は、抜くと歯が死んでしまいますよね?歯茎 より浮き出た部分は、全部被せられますよね?寿命も縮まりますよね?その先生は「最 近は20年、30年生きている人も居るから」と簡単に言っていましたが、本当に神経を抜 いてよかったのでしょうか?
 私はそこで思い留まって神経を抜くことを拒否出来たのでしょうが、確かにそれ以外 の治療法では再発を繰り返します。これで救われるのならという思いもあって不安を残 しながらも神経を抜きました。神経の再生が不可能である以上、その責任は勿論自分で 取りますが、これでまた何ヵ月後かに再発したらと思うと不安です。
 この先生の判断は正しかったのでしょうか?
正しいというか、善悪を付けたいのではなく、このような一連のやり取りと治療法の選 択は致し方ない部分もあるといえるのでしょうか?
今でも痛みがあります。麻酔が取れた痛みなのか、再発したそもそもの痛みなのかはわか りません。因みに神経を抜いたのは日曜日です。  もし、このような私の状況を先生が診られたらどう判断されるかも聞かせて頂けたらと 思います。冗長な文面で大変申し訳ございませんが、ご教示頂けたら幸いです。

感想:
 いつも歯科関係で調べ物をするときは、先生のサイトに出会います。こうやって全国的に、 しかもボランティアでセカンドオピニオンを提供してくださるサービスには、厄介な治療で 悩める患者にとってはとても有益で素晴らしいものであると思います。

回答
 疑うべき原因は、6番歯髄炎、7番根尖病巣、それと歯周疾患ですね。スケーリングを 行なっても変化なしということで歯周疾患は一応オミット。根尖病巣だとレントゲンで異常 を確認できることが多いので7番根尖病巣もパス。残るは6番歯髄炎を疑うというのは、診 断する上では常道です。
 歯髄炎をレントゲン上で判断することは難しく、症状の種類や経過から判断する ケースは結構あります。これを正しく診断できる検査方法がない現 状で、事前に自信をもって言い切ることはできません。歯髄炎…でないかもしれないけれど、 二次カリエスも相当進行しているのでいずれ遠からず抜髄になるはずだから今抜髄して違っ たとしてもダメージはそれ程かわらないだろうという決断です。無論患者さんが痛みを訴え ない状況では、二次カリエスの疑いくらいで神経をとることはありません。何とかしようと 思えば消去法的に治療を進めていくのも医療の常道です。かつて親知らずを抜いたのも、 どうせ何時か抜くべき歯だからこの際抜いてみようという判断でしょう。

 “勘だけど”という言葉はともかく、結果が良ければあなたも納得するでしょうし感謝も するでしょう。抜髄の技術が全国的に不完全なのはこのホームページを見られればよく分か っていると思います。従って完治とは行かなくても症状の変化があったならば、抜髄の決断 は正解だったと言えます。症状の変化が全くみられなかった時は、他に原因を求めなくては いけないだろうし、6番歯髄炎は間違った診断だったと結果論的に言うことができるでしょ う。診断できるのは歯医者だけなのに、患者さんの訴えを棄却する歯医者とリスクを冒して でも何とかしてあげようとする歯医者のどちらに好感を持つべきかというところで判断され てみてはいかがでしょうか。


返信:2004年9月5日 14:43
 分かりました。あらゆる手を打ってくれ、消去法で今回の選択をしてくれたと理解出来ま した。
 この辺を聞いてみました。主治医いわく、「(6番は)結構削ってありますのでやがて虫 歯が進行すればいつかは神経を抜くことになるでしょう。また、今までの経過観察からやは り6番が怪しく、これで治るのなら痛みから解放されるし仮に神経を抜いたことが直接の原 因ではなかったとしてもいずれは神経を抜く羽目になるので抜いたこと自体は正しかったと 思います」と。私もこれには賛同出来ました。

 神経を抜いたのは丁度一週間前の日曜日です。そのとき、信頼できる主治医は非番でした ので他の先生が抜かれたのできちんとインフォームドコンセントなく抜かれてしまい、不安 に思いましたが、それで河田先生に相談し、このお返事を頂いて心がかなり軽くなり、神経 を抜かれたことへの不安や猜疑心も全くなくなりました。それ以降の治療は主治医にしても らうように時間を合わせましたが、正直、河田先生のこのお返事があったからこそ、不安や 猜疑心泣く治療の臨めました。本当に心から感謝しています。
 仮にこれが原因ではなかったとしても長い目で見れば必要な処置だと思え、よく言われる 「歯は早いうちに治療したほうが良い」という言葉の通り、自分もそれを実践しているのだ なと思いました。河田先生のお返事を頂けなければ、主治医にちゃんと神経を抜く決断に至 る経緯や決定の是非をちゃんと自分も理解出来るような問いかけが出来なかったと思います。 河田先生のお返事があったからこそ、ちゃんと主治医に聞くことが出来、また、任せること が出来ました。本当にありがとうございます。  また、7番根尖病巣ですが、確かにこれはレントゲンですぐ分かるみたいでレントゲン上 7番根尖病巣は発見されませんでしたが、神経を抜いて随分経っているはずなのに刺激を感 じますので主治医の先生が「レントゲン上は全く問題ないので取り敢えず様子を見ましょう」 ということで被せ物を取ってくれ、それで様子を見て、場合によっては根の再治療をしてく れるそうです。主治医は私にとってはとても信頼できる存在で、慎重で丁寧です。何でも話 せるし、何でも答えてくれます。

 ただ、河田先生が仰る通り、抜髄は難しいですね。正直、神経を抜いてから一週間経った 今でも歯痛と頭痛が激しいです。勿論、歯髄炎を起こしていた状態ならやはり長引くのでし ょうが、ネットで調べたところ、平均的には三日から一週間で収まるみたいなので、ちょっ ぴり心配です。返信が遅れたのも、余りにも頭痛と歯痛が激しく、帰宅すれば寝るしかない 状態だったからです(返信遅れて非常に申し訳ございませんでした)。
 既に6番の根の治療は終わり、土台を作って補綴する段階に入っています。正直もしこの 痛みが不完全な抜髄に起因するとしたら嫌なので、次回診察時に(神経を抜いた先生は主治 医とは別の先生だったので)きちんと神経が抜かれているか(取り残しがないか)聞いてみ ようと思います(勿論、神経を取って薬を詰めたあと、レントゲンを撮ってくれて問題ない と仰っていましたが、それでも聞いてみようと思います)。それで問題なければ被せ、7番 を検討してもらおうと思います。
 とにかく根の治療は難しいので、今回の6番の神経の抜き方が正しかったかどうか、それ だけが不安です。何しろ一週間も頭痛と歯痛で大変苦しんでいますから。これが外科的処置 による炎症などの一過性で、不完全で再治療する必要がないものと信じたいです。

 最後に、河田先生、本当にありがとうございます。くどくなってしまいますが河田先生の お返事がなければ不安をずっと抱えたままでした。今は、少なくとも神経を抜いたことに後 悔はありません。神経の治療はきちんと行われ、この痛みが一過性で終わることを望むばか りです。河田先生が山口県出身と知り、同郷の人間として嬉しいばかりです。また何か疑問 に思うことがあれば質問させて頂くこともあるかとは思いますが、その時はよろしくお願い いたします。
 普段の患者様の治療、研究以外に、こうやって全国的にボランティアでセカンドオピニオ ンを提供してくださる先生には本当に感謝の言葉しかありません。ご自愛専一に、これから も頑張って下さい。本当に、本当に、有難う御座いました。