失敗が絶対許されない状況で、一番確実な方法は抜歯です。

大臼歯の歯根嚢胞

日付、時間:2004年11月2日 8:55  氏名:   TK    
所在都道府県:  石川  職 業:  会社員  年 齢: 32歳      性別:   female  

初診時パノラマ
大臼歯の歯根嚢胞
大臼歯の歯根嚢胞
質問:
 こんにちは。先日(10/27)は、大臼歯の歯根嚢胞でお世話になりました。早速、抜歯を 覚悟で大学病院に行って来たんですが、河田先生は「この場合、歯を残す方向で治療をされ るほうが良くない」と言われましが、そのとうりになったので、先生の見解を教えて頂きた いのです。
 大学病院の先生が言われるには、私の嚢胞は大きくて骨が殆どなくなっている状態なので、 いま抜歯をしたら腰骨移植をしなくてはいけなくなるので、歯根端切除と根尖部掻爬をする ということでした。仮にまた嚢胞が出来るとしても、ここまで大きくなることはないし、あ る程度骨が出来てくれば、腰骨移植をしないでも抜歯が出来るという事でした。
しかし大学病院の先生は、この方法で治るし、歯のぐらつきもなく、傷口も目立たないと言 われたんですが、逆根充がしっかりできれば大丈夫と言う事なのでしょうか?
私としては、腰骨移植は避けたいので、確かにその方法もありかな?とも思ったのですが、 骨が出来る前に又のう胞が出来てしまったりして同じ繰り返しになるのではないの?
私の嚢胞は抜歯をするとしたら、本当に腰骨移植が必要な状態なの?などの疑問が残りまし た。手術までにはまだ時間があるので、自分で納得した上で手術に望みたいので、先生の見 解も教えてください。この方法をした場合、その後どのような状態が想定されるでしょうか ?宜しくお願い致します。

回答
 仮にしっかりした逆根充ができたとすれば、嚢胞が縮小して 治る見込みはあります。でも全国の実績をみる限り、簡単な前歯 でも成功率10%以下、操作の困難な大臼歯に至っては成功する可能性は限りなくゼロに 近いと思います。
 最も成功率の高い正規の根管治療でさえ80%程度だと見積もっています。通常80%も成 功が見込めるものであれば第一選択として推奨し、また実際に治療したはずです。ところが、 単に嚢胞が大きいだけでなく、すでに下顎神経を圧迫している状態なのです。下顎神経は、 変形してかろうじて逃げている状態なので、わずかな炎症が神経を死に追いやる可能性が高 いのです。神経を引っかいてちょっと傷つけたくらいなら、しびれもその内回復しますが、 一旦炎症を起こして腐ってしまえば再生はほとんど見込めません。つまり片側の唇が一生し びれっ放しという最悪のシナリオが考えられます。ですから80%の成功よりも、この際20% のリスクを回避する方法を選択すべきだと判断しました。日本一歯を抜かないと自負する私 が、珍しく選択した抜歯です。“同じ繰り返しになるのではないの?”なんて余裕が全くな いことを前提に考えるべき状況です。

 失敗が絶対許されない状況で、一番確実な方法は抜歯です。それと、炎症を起こすべき原因 を除去してやれば、この程度の骨欠損であれば必ず回復します。上手くいけば根管治療でも回 復可能な大きさですので、原因を確実に除去する抜歯によって回復しないと考えるのも疑問で すが、もっともっと不確実な歯根端切除で骨回復を望むのは矛盾もはなはだしいと思います。 その程度の骨欠損で腰骨移植を考えるのはもっと理解できません。生体の摂理を無視した外科 手腕の乱用のように思えます。
 私の外科的常識では、抜歯と嚢胞摘出後の傷口を閉鎖創にするか開放創にするかを迷うくら いです。平たく言うと、嚢胞を完全に取り除いて傷口をしっかり縫い合わせるか(神経を傷つ ける可能性あり)、治癒に多少時間を要するが抜歯だけして嚢胞に手をつけず傷口を開いたま まにするかという判断です。どちらを選ぶかは術者の経験と価値観によって異なります。


返信:2004年11月3日 7:29
 11/2に歯根嚢胞について質問したものです。先生お返事ありがとうございました。抜歯を しても骨は自然に回復するということで安心しました。しかし、私の状況を抜歯をすると腰骨移 植が必要と言われる大学病院の先生に手術をして頂くのに不安が残りますが、抜歯と嚢胞摘出術 は容易な物なのでしょうか?
 その先生の専門は顎変形症のようです。あとレントゲンの事なんですが、9月からセカンドオ ピニオンなどにより月に何回もレントゲンをとることになり、また今回、県外の大学病院で見て 頂くとすれば週に1回のペースで2ヶ月間ほど取りつづけている事になりますが、レントゲンが 体に及ぼす影響に問題はないのでしょうか?宜しくお願い致します。

回答:
 何事も担当する本人にとってはプレッシャーですが、抜歯と嚢胞摘出は口腔外科の処置として は初心者コースです。レントゲンの照射は少ないほど良いけれど、的確な処置と判断を妨げるよ うだと重大な損失を招きます。何百枚か何千枚も撮れば何らかの障害が現れると思いますが、常 識の範囲だと何も問題はないでしょう。