日付、時間:2004年11月16日 9:36
氏名: JT
所在都道府県: 千葉
職 業: 医療関連
年 齢: 42歳
性別: male
質問:
大変悩んでいることがあります。よろしく御教授ください。
平成15年6月にA歯科医院にて虫歯治療を受けました(右上6)。アマルガムの脇から
虫歯になっていたとのことです(咬合部のみ)。麻酔をして削り、咬合部のみの虫歯なの
でレジンで治療しましょう、と言われレジン詰めてもらいました。その後、その歯は水に
しみるようになりましたが、治療をした歯ではよくみられる症状ということで経過観察す
るよう言われました。
平成16年5月、水にしみるのが気になり、B歯科で診察・レントゲン撮影を受けました
が特に虫歯の像など見られないということで何も治療は受けませんでした。
平成16年7月、その歯が急にひどく痛くなり、時間外でも診てくれる歯科医院をやっと
のことで探してその医院で診察を受けました。圧を抜いてもらうという処置を受けたとこ
ろ痛みは軽減されましたが、結局、後日抜髄の処置を受けました。
済んだことを疑っても仕方がないのですが、A・B歯科医院での診断・処置に問題があ
ったのではないかと、疑いを持ち続けてしまい、大変悩んでおります。いずれも信頼して
いた歯科医でしたので余計にです。
こんなことはあり得ることなのでしょうか?
公正な立場から見て、このようなケースではどんなことが考えられますでしょうか?
また『白い詰め物(レジン)は悪さをすることがある』という話を耳にしたことがありま
す。それが、今回の私のケースのような症例を指すのでしょうか?
今回、レジンではなく、インレーで治療してもらっていれば、このような事態は免れた
可能性はありますか?
アドバイスを頂ければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします
感想:
いつも勉強させて頂いております。このような先生のホームページに出会えたことは
私にとって本当に有難いです。
結論から申しあげますと、平成15年6月の時点ですでに抜髄が視野に入る深さの虫歯で
あったと考えられます。
抜髄後の歯がいかに惨めな結果に終わるかを一番知っているのは歯科医です。治療後の不評
に加えて、手間がかかって不採算であることもあって抜髄を極力避けたいというのが歯医者の
本音です。従って歯医者は、抜髄を避けるために最大限の努力をしているということを知って
おかれた方が良いでしょう。
レジンの為害作用が取り沙汰されていたのは10年以上前の話です。今でも全く無害かという
とそうでもないかもしれませんが、インレー装着時のセメントにしても切削時の発熱も全て
何らかの影響があります。それらの影響も歯髄との距離が一定以上あれば無視できるもので
すが、余りにも近すぎた場合には最後のトドメになってしまいます。その意味でできるだけ
早めの治療が有利なことは当然ですが、条件の良い過去にさかのぼって治療することが出来
ないので、来院された状態での治療ということになってしまいます。
その際先にも触れた通り、抜髄をさけるためにどこの歯医者も最善をつくします。最善を
尽くせば全て結果良しとはなりません。“水がしみる”という程度の歯髄炎を起こしてしま
ったのでしょう。その時点でも歯髄の回復を期待しての経過観察です。平成16年5月の時
点でも、状況から歯髄炎は当然考えられますが、一旦炎症が起これば限られた血流で生きて
いる歯髄を回復させる有効な手立てはありません。抜髄を決断するに足りる証拠が得られな
い限り、ひたすら安静を保って回復を願うしかないでしょう。
工業製品の場合ですと将来の危ぶまれる材料や素材を排除することができますので、間違
いのない製品を大量に作り出すことができます。技術に応じた素材だけを選ぶことができま
すので、結果も或る程度満足できるものばかりに仕上げることも可能です。しかし素材を
選ぶことのできない医療現場にあっては、最善を尽くすことが必ずしも納得のいく結果を
保証するものではないことを理解していただく必要があります。結果が得られなかった=
最善を尽くしていないという考え方が現実に存在しています。その結果、割に合わない治療
が施されていない現実も存在しています。早々と神経を抜くとか、安易に抜歯する方こそ
非難されるべき医療だと思います。
抜髄・歯槽膿漏の末期治療については非難されるべき事例が多々あると思います。しかし、
それ以前の(軽度な)治療については患者さんの理解不足が大半であるように認識していま
す。
私の妻も、歯について大変に悩んでしまっており、私とほぼ同時刻に質問のメールを送信さ
せていただきました。こちらの方も是非、御教授頂ければ幸いです。これからも先生のサイ
トで勉強させて頂きます。よろしくお願いいたします。
回答:
通常の術式として、ヤバイと思ったら歯髄を保護する薬を使うと思いますよ。“絶対”は
ないわけですから可能性を考えれば何だって100%否定することは出来ないけれど、そこまで
疑うことはないんじゃないですか。歯髄は限られた血流で細々と生き長らえている組織ですの
で、一旦炎症が起きてしまえばほとんど回復の見込みはありません。
虫歯罹患部分を全部削り取ったら確実に露髄→抜髄になると思われるケースはあえて罹患
部分を残して延命を計ることが推奨されています。虫歯を削り残されていたから抜髄になって
しまったと考えるのはちょっと的外れのように思います。
回答:
“神経に近いというほどの深さではなかった”というのが事実であれば、今時の材料で
どんな詰め方をしても直後にしみるということは考えられません。直後にしみるような症
状があれば1年以内に抜髄になるのは不思議ではないけれど、レントゲンでも確認できな
かったということですので何処に問題があったか私には推測できません。
回答:
私は異端児ですので、「細菌が侵入し歯髄を刺激する」なんてことは信じていません。
細菌が入り込むような隙間? そんなのどんな充填でもあるんじゃないですか。でもそんな
隙間に常在菌が好んで入り込んで悪さするのかしら。それよりも、切削時の発熱とかレジン
の為害作用とかの方が医学的にあり得るメカニズムです。
河田先生からの丁寧なお返事のお陰で、A医院は(大変失礼な言い方ですが)ヤブ医者では
ないのか・・?という、知識不足からくる素人考えは大きく改めさせられました。しかし、
河田先生に『まだ理解できないのか!』と呆れられるかも知れませんが『歯髄保護の薬を詰
めなかったために歯髄炎を起こしたのではないか?』という思いが、ただ一点だけ心に引っ
かかってしまっております。
先生の御経験からは、どのように思われますか?
度々質問ばかりで申し訳ありませんが、悩んでしまって夜も眠れません。先生が丁寧に御回
答くださるのでつい甘えてしまいます。どうぞよろしくお願いいたします。
2004年11月19日 7:53
『虫歯罹患部分を全部削り取ったら確実に露髄→抜髄になると思われるケースはあえ
て罹患部分を残して延命を計ることが推奨されています』という御回答を頂きましたが、
あえて残す、というのは、虫歯は残してそのまま詰め物をするということでしょうか?
それとも抗菌剤?のような薬剤など歯髄を守る処置をする、ということでしょうか?
自分の今までの経過を詳しく思い起こしてみると、A医院で治療を受けた(平成15年
6月)以後、少し冷水にしみていたのですが、半年以上経過してしだいに落ち着いてき
ていました。念のため平成16年5月に受診しました。その頃は食事をすると歯が何と
なくしみるような痛いような変な感じがありましたが歯磨きをするとおさまっていま
した。レントゲン上も何ら問題はないとのことでした。そして7月に急激な歯痛に
襲われ抜髄となりました。ということは5月の時点で歯髄炎はそれなりに進行していた
のでは?と思ってしまうのですが、レントゲンで歯髄炎を診断するのは難しいのですか?
先生の御回答を何度も読み返したり他の方からの質問と回答を読んで勉強しているうち
に、色々考えるようになりましたが、その答えを教えてくださる人が河田先生しかいら
っしゃらないので、何度も質問して申し訳ありません。すっかり悩んでしまって夜中も
目が醒めて歯のことばかり考え込んでしまっている状態です。どうかよろしくお願いい
たします。
回答:
レントゲンで歯髄炎を診断することは絶対できません。ただ、歯髄近くまでむし歯が
進行しているかどうかは分かることもありますのでそれを確認して、あとは過去の経過
や現在の症状から歯髄炎と診断できることはあります。もし歯髄炎と診断したとしても
処置は抜髄しか選択肢はありません。抜髄を避けて極力神経を残したいという気持ちが
あれば、歯髄炎(→抜髄)という診断はできません。
歯髄保護の薬を詰めなかったために歯髄炎を起こしたのではないかという疑いを打ち
消すだけの根拠はないけれど、不要と診断した根拠は一応あったと思います。抜髄にな
るかどうかの境界線治療において、歯科医は一般に適切な対処をしているように思いま
す。結果が必ずしも伴わないのは、それだけきわどいものに対してでも執拗なまでに保
存に努めている場合です。あなたのケースが実際にどうなのかはわからないけれど、こ
のようなケースを追求したり不信に思う気持ちが タダでさえ不信に満ちた歯科医療を
後退させている現状に憂いを感じています。
他の質問に対する回答ですが、似たような内容ですので下記に掲載させていただきま
す。
あまりこの手のトラブルに対して不信を持つことはマイナスになりますよ。というよりも、
明らかに歯の平均寿命を短くしています。患者さんの為を思って不採算覚悟で治療しても、
結果が思わしくなければ不信に思われることを一番知っているのは歯医者です。
例えばこのケース、インレーの下に虫歯があるのを見つけて治療しても2回の治療合計
が 6000円(3割負担で2000円)ほどです。例えば小さな虫歯を見つけて3本ほどまとめて
治療すれば9000円(3割負担で3000円)ほどです。簡単でリスクはありません。
一度治療したあとの虫歯ですので、神経に相当近いはずです。患者さんにとっては痛み
もないので治療の必然性を感じていません。しかしこのまま放置しておくと数か月先には
抜髄になってしまいます。そのことを説明して、なおかつ虫歯が深すぎた場合には抜髄に
なってしまうリスクも説明しなくてはなりません。下手をすれば即刻抜髄、抜髄を逃れて
も術後の知覚過敏が半分以上。知覚過敏の説明や言い訳に費やす時間などを考えれば全く
の赤字で、しかも患者さんの信用を失ってしまいます。上手くいっても事の重大さを知ら
ない患者さんに感謝されることはありません。
大半の歯医者はこんな割に合わない治療はパス。痛みを訴えてきた時に抜髄して、失敗
すれば抜歯。ブリッジや入れ歯にすれば売上10倍増です。そんな中であえて治療をされた
先生の熱意をつまらないミスで帳消しどころか烙印を押してしまう傾向が全国的にありま
す。良心的な歯科医を望む一方で、知識や理解不足でどんどん烙印を押していけばますます
歯科事情を悪化させてしまいます。もう少し寛容になって正しい判定を下すようにして下
さい。
2004年11月20日 9:30
結局、後日抜髄の質問で御回答いただいた者です。抜髄の診断・処置を受けた医院で診察
を受けたので(他の歯の治療で)、抜髄した歯が初診時、どのような状況だったか詳しく教え
てもらいました。
中で虫歯が神経まで到達してしまっていたそうです。これまで、河田先生からの御回答から、
1年前の虫歯治療が引き金となって歯髄炎を起こしたために抜髄となってしまった、と理解・
納得していましたし、下記のような御回答も先生から頂きました。
『虫歯罹患部分を全部削り取ったら確実に露髄→抜髄になると思われるケースはあえて罹患
部分を残して延命を計ることが推奨されています。虫歯を削り残されていたから抜髄になっ
てしまったと考えるのはちょっと的外れのように思います。』
でも、1年前に治療してあったのに、中でさらに虫歯が進行していたとはどういうことなの
でしょうか?
激しい歯痛に襲われた一ヶ月前にも受診してレントゲンも撮ったのですが、虫歯などはない
と言われていたのです。また頭が混乱してきてしまいました。。どういうことが考えられま
すか?
何度も申し訳ありませんが、アドバイス頂ければ幸いです。
回答:
一番最初に申し上げた通り、平成15年6月の時点ですでに抜髄が視野に入る深さの虫歯で
あったと考えられます。当初から症状があったので、新たにむし歯が進行しなくても1年後に
抜髄になっても不思議ではありません。
あとから付け足した所見には何処か矛盾を感じますが、改めて問いただされた事に対する防衛
反応が働いてとりあえず都合の良いような説明が為されたか、過去のことなので思い違いがある
かもしれません。推理ゲームは止めましょう。
「右上6番についてですが、歯の中の神経というのは、特に6番の場合などは、神経の入って
いる形が角のほうで非常に細くなっている場合があります。この場合あまりにも細くなって
いる場合、削って行っても肉眼で確認できない場合もあります。このようなところが削って
出てきた場合、詰め物をして冷たいものがしみることが止まらないことがよくあります。歯
の中の神経といっていますが、歯髄と本当は言います。静脈も動脈も非常に細いですがある
わけです。非常に細いだけに血流が悪く、一度炎症が起こると治らない場合が多いです。炎
症がひどくなれば、当然圧力も上がりもっと進行すれば壊死してしまいます。大人の歯の場
合で自発痛が出た場合は、神経を抜くことがほとんどなのは、こうした理由からです。」
↑このような記事をネットで見つけました。
私の場合も、そのような肉眼で見えないような細い神経が出てしまってそこにレジン充填し
たので、レジンの為害作用で神経がやられてしまったのではないかと不安になってきてしま
いました。レジンじゃなく金属で最初からやってくれていれば。。などと考えてしまいます。
不安でたまりません。教えてください。よろしくお願いいたします。
回答:
ネットで見たという記述に対しては全くその通りです。神経の尖った部分が直接露髄した
か、紙一重だったか、はたまた尖った部分に限らずそれ以外の部分が紙一重だったかは分か
りません。しかし大丈夫そうに見えても何処か一部分でも紙一重であれば、レジンの為害作
用に限らず諸々の刺激が歯髄炎を引き起こします。紙一重の場合、どのような処置を講じて
一命を救うかは我々歯科医の技術や知識に左右されることは少なからずあるでしょう。
また反対に技術や知識に左右されることなく助からない場合も往々にしてあります。更に
むし歯の進行程度が浅ければ、技術や知識に左右されることなく全て助かるという事実をも
っと強く意識していただきたいと願います。
信頼できる歯科治療とは、初期のむし歯だけ。歯医者は、初期のむし歯しかまともに治せ
ないという現実を直視して、歯を守る自己防衛策を講じる必要があることを強調しておきます。
今日、抜髄を受けた歯科医で、激痛に見舞われて抜髄する直前のレントゲンを見せて説明し
てもらいました。黒い筋のような線がスーッと歯の中央部あたりに斜めに走っており『これは
虫歯ですか?』とたずねたところ、これは虫歯ではなく神経の炎症の像です』とのことでした。
河田先生のページで勉強させていただいたところ、歯髄の炎症はレントゲンではまず確認でき
ない、とのことでしたが、それらしきものが確認できることもあるのですか?
教えてください。よろしくお願いいたします。
回答:
レントゲンで直接歯髄炎症を特定することはできません。歯髄炎から波及する歯根膜炎は
確認できることもありますので有力な手がかりとなります。通常はむし歯と歯髄の距離、そ
れとしみるとか痛むというような臨床症状とを合わせて歯髄炎と診断します。大臼歯でむし
歯が1〜2ミリだと歯髄に直接到達することはありません。しかし、アマルガムの脇から虫
歯になっていたということであれば、1ミリという数字は考えられません。少なくとも最初
の治療で1ミリは削っているはずですので、最低でも2ミリ以上の深さがあるのが普通です。
二次カリエスとなると一般には、3ミリ以上の深さがあって治療する前から常に歯髄炎の危
険性を考慮して治療を開始します。そうなると“肉眼では見えないような細い神経が”とい
う可能性も十分あり得ることですが、実際に立ち会っていないので分かりません。
ただ、治療直後からしみだしたということですので歯髄に近接していたであろうことは
十分推測できます。昔のレジンと違って為害作用が極端に少なく、またレジンをくっつける
ために使用するボンディング材は歯髄保護材として使用するくらい親和性が格段に向上して
いますので他の方法より安心という認識すらあります。
回答:
レジン充填を行う際には必ずボンディングは行ないます。最近は生体親和性の良い
4-META 系が主流です。私の医院では、10年以上前の試作段階から使っています。
詳しい実態は知りませんが、今はほとんどこの系統だと思います。