異物に接する部分ではアレルギー反応が起こって炎症を起こします。
抜髄の可能性

日付、時間:Wed Mar 8 1:09:57 Japan 2000    氏名: S.N   
所在都道府県:東京   職 業:学生   年 齢:24歳      性別: male  

質問:
この前親知らず(下、左右とも)を抜きました。
斜めにはえていたので、親知らずと接触していた第2大臼歯の横の部分が虫歯になっていました。 右側のは冷たいものを食べるとしみていたので、予想通り抜髄となりました。  レントゲンを見ると、左側の第2大臼歯の横の部分も虫歯になっており、神経まで到達するかどう かというきわどいところまで進行しているようです。でも、左の方は冷たいものや熱いものを食べて もしみません。右の歯の神経を抜いてショックなだけに、左はなんとかして残したいと思っています。 左の歯の神経を抜かずにすませることはできないものでしょうか。
右の歯は以前からしみていただけに決断できたのですが…。レントゲンを見る限り、左の歯も神経 を抜くかもしれないと言われましたが、全く痛くないので決断できません。しみたことがない歯でも 神経を抜かなければならないことってあるのでしょうか。
 また、歯神経はほんの少し虫歯に侵されたくらいでも全部抜いてしまわねばならないのでしょうか。 不安なので、ぜひお教えください。お願いします。

ご意見・ご感想:
先生のホームページは大変参考になります。親知らずを抜くときも大変勇気 づけられました。納得のいく説明って、大切ですね。

メールアドレス: shigeaki@ma6.seikyou.ne.jp   ホームページURL: http://

抜髄になる確率
症状 数字はかなりいい加減です
ちょっと滲みる 99%
露髄 90%
かなりヤバそう 50%
何とかなりそう 10%
多分大丈夫 1%
回答  こういうことになるから、早めに親知らずは抜いておくべきなのですが、済んだことは仕方 ないですね。

 ムシ歯が全くなくっても滲みる“象牙質知覚過敏症”と、ムシ歯が歯髄に到達して滲みるのも メカニズムは同じようなものです。ムシ歯の場合は、誰の目にも“歯質の変質”は明らかです。 変質した歯質は生体にとって異物です。異物に接する部分ではアレルギー反応が起こって 炎症を起こします。ムシ歯の場合、接する部分が歯髄ですから歯髄が炎症を起こします。
 炎症を起こす以前は生体抵抗力で最後まで対抗していたはずですが、一度炎症を起こして しまうと血液循環の悪い歯髄ではほとんど回復の見込みがありません。ここが“歯の特殊性” と考えていただいて結構かと思います。

 生体の他の部分ですと、一旦炎症が起こっても、異物を排除してやれば多くの場合が回復します。 ところが、歯の場合は、異物であるムシ歯部分を除去しても思うようには回復しません。痛み(炎症) があると抜髄になることが多いのはこのためです。
 ご質問の、痛み(滲み)のないケースでも、歯の変質(ムシ歯)は歯髄に到達しているケースでは 変質部分を除去すると神経が露出(露髄)してしまいます。現在使われている素材では、生体親和 性に限界がありますのでアレルギー反応や炎症を起こさせないような封鎖はほとんど不可能です。
 紙一重で露髄を免れた場合には、極力神経に炎症を起こさないように、また少々の炎症であれば 回復するような試みをしているのは当然ですが、それでも成功率は50%?程度ではないでしょうか。

 多くの歯科医が、歯の将来を願って歯髄保護を最優先していますが、いかんせん成功率50%(勿論 成功率を高める努力はしています)では納得できる治療とは言い難いのが現状です。痛い思いをして 50%が結局抜髄だとすれば、あなたはどちらを選びますか?この迷う気持ちはおそらく歯医者も同じ だと思います。いくら説明しておいたとしても、50%の確率で患者さんの不信感を買ってしまうと予想さ れるからです。
 判断基準は、ドクターの経験と価値観によって異なりますが、50%を超える危険ゾーンでは最初から 抜髄と決め込んだとしても決して間違った判断だとは言えないような気がします。

 ちなみに“ちょっとムシ歯”くらいでは抜髄にはなりません。でも、患者さんにとって“ちょっと”は多くの 場合手遅れ状態です。おそらくその2年ほど前に見つけて治療しておけば、本来の意味で“ちょっと” で確実に神経は保護されるはずです。


日付、時間:Wed Mar 8 20:48:25 Japan 2000    氏名: S.N   
所在都道府県:東京   職 業:学生   年 齢:24歳      性別: male  

質問:
 丁寧な解答、ありがとうございました。これで抜髄になっても覚悟して望むことが できます。
 ところで、下の親知らずを抜いてしまったので、抜髄した第2大臼歯は支える歯がなくなって折れ やすくなってしまうのでしょうか。親知らずがあった側に折れてしまわないのか、心配です。 抜髄し た歯はいつか折れてしまうとのことですが、第2大臼歯まで欠けてしまっても生活に支障はないので しょうか。
 再びの質問で申し訳ありませんが、お教えください。

ご意見・ご感想:
 懇切丁寧な説明の大切さを再認識しております。第2大臼歯までなくなった 状況を想像して悲観的になっていました。残りの歯を大切にしたいと思います。

メールアドレス: shigeaki@ma6.seikyou.ne.jp   ホームページURL: http://

回答:
 抜髄した歯は、いずれもろくなって破折し易いのは事実です。しかし、それは上顎前歯部に著明 な現象として現れますが、第二大臼歯ではかなり稀…というよりほとんどありえない話です。

 現実にあり得るリスクとしては、二次カリエスのために残存歯質がほとんどなくった場合に歯根 破折や使用不可能な状態になることです。二次カリエス発生事態は、ある意味では避けられない ことかもしれませんが、丁寧な歯磨きと定期的なメインテナンスによって早期発見に心がければ いきなり喪失という悲劇は考えられないことです。“万が一”を考えれば心配事は後を絶たない と思いますので、当面は問題のない根管治療が為されることを注意される方が優先だと思いま す。

返信:
丁寧かつ迅速な説明をしていただき、ありがとうございました。
かかりつけのお医者様も治療について丁寧に説明してくださるのですが、患者さんが多いために、 時間を割いてまで治療後のことやリスクなどまでは詳しく聞けずにいました。(それでも私の質問に ちゃんと答えてくれました)
些細な疑問や不安を解消したうえで治療に望みたいと考えているため、先生のようにメールやホー ムページで丁寧に説明していただけるとありがたいです。先生のホームページを全てじっくりと読ま せていただきました。多くの事項を丁寧に説明してあるだけではなく、質問に対して丁寧な解答まで していただけるという、まさに「神の救いの手」でありました。
今後も頻繁にホームページを拝見させていただきます。 医療行為にとって「丁寧な説明と理解」こそが重要なのだと、改めて認識しました。

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