51歳・男性(初診時) | 初診時パノラマ |
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「2345部にクラスプタイプの連結固定 | 下顎残存歯の全てに歯周疾患と根尖病巣による歯槽骨の破壊を認める |
初診時口腔内所見:
残存する歯のほとんどがMBによる補綴処置がなされており、いかにも歯科治療に多額の金額を
支払った様子で疲れ切った表情である。
クラスプによる固定が施されているものの、下顎残存歯全てに動揺が認められ排膿も著明であった。
また、歯石が大量に沈着しており、全ての歯に根尖病巣が存在した。
処置および処置方針:
全顎除石を行った上で、ブラッシング指導を徹底し、急性炎症の処置を行った結果、幾分動揺が治
まり何とか咬める状態に回復。
左側の臼歯部は、歯槽骨との結合が全くないので保存不可能と思われるので暫間義歯作成の上抜歯。
その他の歯に関しては、根管治療を行った上で可能な限り連結固定を予定。
放置しておくと数年後には脱落するであろう上顎だけでも、せめて10年、できれば20年以上機能できる
ように頑張りましょうと説得。
感想:
「こんな見込みのない歯を治療して!!」と私もよく支払基金からおしかりを受けていますが、
自費だから何をしてもよいわけでは…
MBや高度な固定をするなら、せめて除石と根管治療くらいはきっちりしておかないと保つものも
保たない……
48歳 男性 (国籍:中国) | ||
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全体に縁下歯石の沈着が著明で、 歯冠部全体にプラークの付着が あり清掃状態も不良 |
来院毎にスケーリングを 繰り返した |
歯冠部全体に付着していた プラークも徐々に減少し、 清掃状態も比較的良好 |
処置および処置方針:
主訴である欠損部の処置を行うかたわら、来院毎にスケーリングを繰り返した。
言葉がほとんど通じないために、スケーリングの重要性を説明するのがやっとで、
ブラッシング指導は全く不可能な状況であった。
カリエス治療優先ではあったが、治療進行にともない歯周疾患の臨床症状も改善された。
当初、来院のたび歯冠部全体に付着していたプラークも徐々に減少し、6ヵ月後には清掃状態も
比較的良好となった。
感想:
除石が先か、ブラッシング指導が先か? まるで卵が先か、ニワトリが先かのような話である。
本症例においては、言葉の障害から除石を選ぶ以外に道はなかった。
転んでけがをした患者さんに、再び転ばぬように得々と説教するよりも、個人的には、
早急に傷を手当するのが医者の使命だと思っています。
いつも感心して拝見しております。さて、外国の人とは、どのようにして意志の疎通をはかったのですか?私の英語は通じません(情けないですが・・・・・)
ご意見・ご感想:次の症例も、期待しております。
私も外国語は全くダメです。片言の日本語で会話していますが、説明するのに3〜
4倍程の時間を要します。幸いにも衛生士がたくさんいますので、「いくら時間が
かかっても良いから」とお願いしています。
48歳 男性 | 5年後 |
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初診時口腔内写真 | 外科処置終了後3年 |
初診時口腔内所見:
清掃状態は極端に不良でカリエスによると思われる歯牙喪失が著明。
歯周疾患による歯槽骨の喪失も著しく、残存する歯の全てに動揺が認められた。
処置および経過:
歯周外科処置を含む治療方針には強い興味と理解を示し協力的であったが、執拗なブラッシング
指導にもかかわらず清掃状態の改善が一切認められなかった。教科書的には外科処置の禁忌症
ではあったがやむなく治療を続行し、約1年の治療期間を経て治療終了。
上顎の治療終了時には、未処置部である下顎のプラークコントロールの改善が全くみられなかったが、
治療の終了した上顎では著明な改善が認められた。
術後のメインテナンスは、本人の希望により月に2度のスケーリングを行うこととし、術後3年を
経過した現在も継続中。ブラッシングも決して良好とはいえないが、初診時の状態を考えると
著明な改善を示している。
感想:
現在の保健診療規則では、プラークコントロールの改善の認められない症例は、それ以上の
歯周疾患処置を受ける権利がない。咀嚼機能が改善されない状態では、プラークコントロールも
思うようには改善しないのが実体である。反対に咀嚼機能の改善に伴いプラークコントロールの
改善が見込めることも我々臨床医は理解しておく必要がある。
何回も指導をしても歯口清掃の悪い患者さんの診察時には、 腹立たしいですが、 自分自身をなだめる方法はどうしていますか?
ご意見・ご感想:勤務しているところが、精神病院なので、ほとんど歯ブラシをしません。 又、けんかが多いので武器になりそうなものは、全て病院事務所で預かってしまいます。 歯ブラシも例外ではありません。 汚い口の中は、見たくないデス。毎日腹立たしいです。
ブラッシング指導で清掃状態を改善するのは難しいですね。
指導は衛生士が行っていますが、改善しない患者にはせいぜい電動歯ブラシを勧め
る程度で半ばあきらめです。うるさいことを言うのを止めて、「毎月、汚れを取り
においで」と約束します。そうすると、、半年も経てば結構綺麗になります。
私の医院では、治療前に衛生士が必ず、エアフローで口腔内を洗浄・時にはスケー リングを行います。お互いに、「汚い口の中は、見たくないデス」ものね。
自分自身をなだめる方法は、指導だけでは所詮無理と割り切ることですかね。
48歳 男性 | 3年後 |
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術前 Dental写真 | 外科処置終了後3年 |
初診時口腔内所見:
清掃状態は極端に不良でカリエスによると思われる歯牙喪失が著明。
歯周疾患による歯槽骨の喪失も著しく、残存する歯の全てに動揺が認められた。
処置および経過:
残存する歯の全てを抜髄または、根管治療を施した上で、Fop施行。
Fopに際し、連続波Nd:YAGレーザー照射による根面処理を行い、術後2カ月間の治癒
期間をおいて最終補綴物による連結固定を施した。
術後のメインテナンスは、本人の希望により月に2度のスケーリングを行うこととし、術後3年を
経過した現在も継続中。本症例の場合、X線的に明らかな歯槽骨の増量は認められないが、
歯槽硬線出現と術後の経過から、わずかながらの回復が推測される。
感想:
連続波Nd:YAGレーザー照射による根面処理を行った他の症例では、明らかに歯槽骨の増量が
認められる症例も多い。
X線の照射角度や、骨の欠損状態によって“みばえ”の善し悪しが変化することも十分考えられるが、
やはり、口腔清掃状態やメインテナンスの重要性は否定できない。
ご意見・ご感想:
今回はサーバーに接続できなくて5日間ぐらい苦労していました。
原因不明、再セットできたのも不明、コンピュータよくわからないです。
実際は、40分程度ですが、患者さんは1時間位座ってますね。
他の患者さんもいますので…
56歳 女性 | 術後 3年 |
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初診時 パノラマ 残根上の義歯装着 | Bridgeと連結冠による修復 |
口腔内所見:
上顎残根部分全てに義歯を装着した状態で、残根部にはプラークが停滞し歯肉に炎症が起こり
如何にも不潔な状態であった。歯周疾患の進行は年齢の割に比較的軽度。
下顎前歯を除きほとんど全ての歯が無髄状態で根管治療の形跡があるものの根尖病巣が随所に
認められた。
処置および経過:
初期治療終了後、下顎前歯部をのぞき全顎の歯を根管治療の上、連結冠またはBridgeにより
連結固定を行い、約1年間の加療ののちメインテナンスに移行。
考察:
│2の崩壊は著明であったので唯一抜歯となった。また、2│の根尖病巣は
歯冠大の大きさで排膿等の臨床症状が著明であったが、根管治療(失即充)により完全治癒。
それ以外に根管治療不能(根管閉鎖)の歯もあったが、術後症状もなく経過良好。
感想:
「残根を全て抜歯して義歯を作ると言われたので恐くなって逃げてきました。」と言われて
「それは正解でしたね」と思わず答えてしまいました。
1本でもおっくうな根管治療がこんなに大量にあると、治療するのがイヤになるのはわかるけど、
残根上の義歯や抜歯で安易な治療に走るのは考えものです。患者さん自身も未だ使えると思って
いる歯ですから、できるだけ患者さんの希望に沿った治療方針をたてるべきではないでしょうか。
反対に、どうしても抜歯が適当ならその理由をきっちりと患者さんに伝えて納得していただくような
努力も必要かと思います。
初診時パノラマ写真 | 6年後パノラマ写真 |
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43歳 男性 | 骨吸収進行傾向の強かった│3〜7を除いて比較的良好。 |
口腔内およびX線所見:
“歯が白くてムシ歯もない様な人に限って歯周疾患の進行が激しい”を代表するような人である。
清掃状態も良好で歯石沈着は少なく歯肉の状態も一見良好。しかし、年齢(43歳)の割に
歯槽骨の吸収が著明で、、特に主訴である左側上顎臼歯部の骨吸収進行は著しい。
処置および経過:
主訴である│4の知覚過敏はスケーリングと数回の知覚過敏処置により治まった様子
ではあったが、来院が途絶えて1年後、いわゆる“上行性歯髄炎”により周囲骨を全く喪失。
│3567も同様の経過をたどりそうな気配であったので全て抜髄の上、歯周外科手術
(Fop+HAP)を行ないBridgeによる連結固定を施行。
その後、2年と3年のブランクを経て来院。来院時にはそれぞれ全顎のスケーリングを施行。
考察:
初診時、現在の骨吸収進行状況から診て「放置しておくと10年後には全ての歯を失うことに
なる」からと説明して厳重なメインテナンスの必要性を説いたにもかかわらず、1年後と3年後
そして6年後の今回の来院である。しかも何か不都合が生じた時に限っての来院で、その都度
スケーリングを行うと同時にメインテナンスの重要性を強調しているにも関わらずどうも
こちらの気持ちが伝わらない様子である。
しかし、レントゲン的にはそれなりに骨吸収進行抑制効果があったようにも思われる。
感想:
レントゲンでの経過を説明して、今度こそ定期的なメインテナンスを約束したものの
今回もどうなることやら・・・
初診時 パノラマ | 初診時 口腔内写真 |
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臼歯部に軽度な骨欠損が認められる 35歳 女性 |
外観上歯肉等の異常は認められない |
初診時口腔内およびX線所見:
清掃状態は比較的良好で、全体に軽度な歯槽骨の吸収を認める(年相応)。
カリエスも少なく、全体評価は“良”。ただし、舌側を中心に多量の縁下歯石の沈着が認められ、
易出血性であった。
処置および経過:
歯周疾患治療の基本に即して、全体のスケーリングを行ったのち、上下顎を6ブロックに分けて
スケーリング&ルートプレーニングを行うこととした。
処置を進めるのに従って、出血は減少し歯肉も引き締まり健全な状態を回復した。
今後、月に一度のスケーリングを継続していく予定である。
考察:
症例的には比較的経度な部類です。この時期に歯周疾患の症状に問題意識が芽生えて、
メインテナンスの重要性を理解されれば良好な予後が得られることと思います。
感想:
手術を必要とするような重傷でなくて良かった!
知人の手術をするのは何となく嫌なものです。
22歳時 パノラマ | 24歳時 パノラマ |
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歯槽骨の吸収像は認められない 17歳(初診時) 女性 |
上顎臼歯部に著明な骨吸収が認められる |
初診時口腔内およびX線所見:
初診時(17歳)には、すでに左下の第一大臼歯が喪失しBridge が装着され、右下の第一
大臼歯も根管治療の不備により喪失の危険性があった。清掃状態はやや不良で、
エックス所見的において骨稜の異常は認められなかったが,
縁下歯石の沈着が著しく、歯肉も全体に腫脹が著明であった。
年齢の割に重度の歯槽骨吸収に悩む母親の状況からも、決して予断の許せる状況でない
ことは本人も十分理解している様子であった。
処置および経過:
カリエスの治療と伴に歯周初期治療を行い、月に一度のメインテナンスを約束して治療を一旦
終了した。以来5年間は休みながらもメインテナンスを継続して、曲がりなりにも歯周疾患の
進行を抑制できたようであったが、勤務の関係からここ2年間は来院が途絶えたままになっていた。
2年ぶりに智歯の抜歯を希望して来院された時の口腔内の状況とレントゲンをみて
「やっぱり!」と思わず納得してしまった。わずか2年間の間に、縁下歯石が大量に付着して
歯肉の発赤・腫脹は著しく、上顎左右臼歯部では頬側の歯槽骨吸収像がみとめられた。
考察:
10代のころから歯肉の異常を指摘されたり、気がついていながら為すすべなく放置した結果、
30代の前半には取り返しのつかない状況になるのが"若年性歯周疾患"である。
若年性歯周疾患も他の歯周疾患同様、厳重なプラークコントロールとメインテナンスを行えば
進行を抑制することは可能であるが、なにぶん進行が極端に早いのでちょっと気を許すと
取り返しのつかない破壊を招いてしまうことを改めて知らせてくれた症例である。
感想:
歯周疾患の進行を抑制するのは、"予防"ではなく"治療"であることを厚生省の役人に
教えてやりたい!!
メインテナンスは予防ではなく、必要な治療です。
初診時 パノラマ | 術後12年 Dentalおよび抜去歯牙 |
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|45Fop+HAP 49歳 男性 |
排膿・咬合痛が著明となる |
初診時口腔内およびX線所見:
やや褐色がかった色と、咬耗状態からして一見丈夫そうな歯ではあったが、清掃状態が悪く
歯肉縁下歯石の沈着も著明。歯槽骨吸収程度も中程度〜重度でほぼ年齢相応で、まさに
これから坂道を転がり落ちるがごとく歯牙喪失の起こり得る状況であった。
処置および経過:
動揺の著しい|45を抜髄のうえ、歯周外科手術(Fop)および人工骨移植(HAP)を
行い、補綴物による連結固定を行った。なお、固定はやや不十分ではあったが、周囲の歯
への影響を考慮して2歯のみの連結とした。
他の部位に対しても歯周外科処置を伴う一連の歯周治療を行ったのち、メインテナンスに移行。
仕事の関係上、定期的なメインテナンスが不可能で、2〜3年に数度の追加処置および歯石の
除去を行いながら12年経過。1年程前より同部の腫脹や違和感を訴えるも、消炎処置にて症状の
緩和を試みる程度で経過観察。今回いよいよあきらめがついたという感じの来院であった。
考察:
歯周外科処置により一度は完全に除去された歯石ですが、12年の歳月とメインテナンスの間隔
が災いして少し早めの抜歯となったような気がします。一度除去して、根面を研磨したとはいえ、
うかうかすると簡単に再付着する歯石の恐ろしさを再認識した症例です。
感想:
根尖部に至る見事な歯石沈着に思わず感激した反面、|5の比較的綺麗な状態に
抜歯を早まったと反省。
初診時 パノラマ | 同 パノラマ |
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全体に軽度な骨吸収が認められる 27歳 男性 |
上下左右第一大臼歯の骨欠損が著明 |
初診時口腔内およびX線所見:
口腔内清掃状態は比較的良好で歯石沈着は比較的少ないが、全体に軽度な歯槽骨吸収
が認められる。その中で、|2の骨吸収は根尖部に至るほか、上下左右第一大臼歯に
中程度以上の骨欠損が認められる。
処置および経過:
|2咬合のたびに激しく動揺し、まるで“のれん”の様な状態で、保存の見込みは全く
ないように思われた。しかし、根管治療には問題なく周囲への影響がなさそうなことと、抜歯後
の補綴による隣在歯への影響を考慮して、除石と咬合調整を行って当分はそのまま使うことと
した。
初期カリエスの治療と伴に、スケーリング&ルートプレーニングを施行してメインテナンスに移行。
考察:
年齢的には、典型的な若年性歯周疾患とは言い難いが、特徴とされる上下左右第一大臼歯に
著明な骨欠損が認められる。反面、上下左右の中切歯には著明な骨欠損は見当らない。
上下左右中切歯および第一大臼歯に著明な骨欠損が認められる理由として、一般にはその
部位を好む特定細菌が存在するとも言われています。私の個人的な見解としては、“ただ単に萠出
してからの期間が長いだけ”と認識しています。
歯肉縁下歯石の沈着は、歯牙の萠出が終わった時点から始まると考えられます。典型的な若年
性歯周疾患ですと15・6歳で、上下左右中切歯および第一大臼歯に著明な骨欠損が認められると
いわれています。
上下左右中切歯および第一大臼歯の萠出終了は7歳ころ、犬歯.小臼歯・第二大臼歯の萠出終了
は12歳以降です。その間の8(9)年と3(4)年の違いは大きく、歯周疾患進行傾向の強い生体に
おいては骨欠損程度に大きな差があっても当然ではないでしょうか。
ちなみに、上下左右第一大臼歯には大量の歯肉縁下歯石が沈着していました。また、|2
の著明な骨吸収の原因は不明です。
感想:
大学病院レベルでは、もっと典型的な若年性歯周疾患もありますが、私の臨床では本症例が
最も典型的な若年性歯周疾患に近いものでした。
日常の臨床で感動したこと・腹の立ったこと…患者さんに言えないこと…
自慢や非難と誤解しないで
下さい。自らのレベル向上の糧となることを願います。