48歳・男性 | 11年後 |
5」抜髄時・Fop+HAP施行 | 良く保ってるなぁ! |
同一症例 | 2年8ヵ月後 |
「6Fop+HAP施行 | 同じように治療したはずなのに… |
再診時所見および処置:
ED4B」の経過は良好であったが、「6は術直後より知覚過敏が著明。2年8ヵ月後の再来時には
保存不可能な状態となり抜歯。
その後も不定期ながらもメインテナンスを継続しているが、11年経過した現在までED4B」は
不快症状もなく経過良好。
感想:歯髄の有無が歯周疾患処置後の予後を左右しているとしか考えられない!!!
51歳 女性 | 下顎右側7(有髄歯) | 下顎左側7(無髄歯) |
初診時 パノラマ | Bridgeを避けて1本義歯 | 抜髄の上Bridgeに |
口腔内所見及び既往歴:
全体に歯周疾患の進行は、年齢の割に軽度ではあるが、右下の7番の骨吸収が著明で周囲との
健全な結合が全く無く保存不可能な状態であった。
聞くところによると、10年程前に治療を行った際、7番が比較的健全であったためBridgeによる
欠損補綴を避けて義歯による補綴を選択したとのことである。一方左側の7番は、カリエスの進行
により抜髄したのでBridgeを装着したとのことであった。
経過:
1年程前から右下7番の知覚過敏を覚えるようになったが、特に支障がないので放置していた。
半年程前に知覚過敏は消失したとのことであるが、その後同歯の動揺が著明となり来院。
考察:
おそらく、10年前の治療時には、左よりも右の方が健全であったと思われる。右下7番に最後の
とどめを刺したのは、エンドペリオであり、いわゆる上行性歯髄炎と呼ばれる状態であったと
推測される。
感想:
歯周疾患進行傾向の強い症例においては、抜髄が有効な抑制手段であると信じる私にとっては
非常に興味ある症例です。
38歳 女性 | Fop+HAP 7年後 |
初診時 Dental写真 | 6骨吸収進行・54現状維持 |
口腔内所見:
年齢の割に歯周疾患の進行は著明で、下顎前歯部を除いて全体に腫脹・排膿・動揺が著しく保存
不可能と思われる歯も所々にみうけられた。
その中にあって右側下顎5番の存在は特異であった。聞くところによると、歯周疾患の進行を
意識する事のなかった10年程前に、カリエス進行により抜髄→クラウン装着を行ったとのこと。
条件として、周囲の歯に比べ劣悪な環境に置かれたにも関わらず、現状では周囲の歯に比べ良好な
保存状態である。
処置および経過:
下顎前歯部をのぞき全顎の歯を抜髄の上、歯肉剥離掻爬術+人工骨補填(Fop+HAP)施行後、
連結冠またはBridgeにより連結固定を行いメインテナンスに移行。
月に1度の来院を約束するも仕事等の関係から、1年に1度程度しか来院されないまま5年を経過。
度重なる説得により、1年程まえからはおおむね月に1度のメインテナンスを継続中。
6番は、度々腫脹を繰り返し予後不良のまま経過し、歯槽骨の破壊が進み現在では保存不可能な
状態である。一方、5番は初診当時の状態を維持。4番も人工骨補填により歯槽骨再生とも思われる
X線所見を示している。
考察:
6番の予後不良は、複雑な歯根形態による根面処理不完全とメインテナンス不良によるものと
思われる。54のX線的骨再生はアパタイトの存在により増幅して見られるが実際は現状維持
程度と思われる。歯周疾患進行傾向の強かった初診当時の状態を考慮するとなかなかの健闘と
評価できる。
感想:
治療前に私が患者さんに説明する際、「放置しておくと2〜3年で脱落しそうな悪い歯を10年、
できれば15年・20年保たせることも大切ですが、残念なことに必ず何年か先には悪くなります。
それよりも大切なことは、今あなたが何ともないと思っていらっしゃる歯を10年先、或は、20年
先に現状のまま保存することと、保存する努力です。」と言います。本症例でも不完全ながらも
このことが実行されているように思います。
初診時 パノラマ | 臼歯部 拡大図 |
臼歯部を中心に骨吸収進行 53歳 男性 |
「7(無髄歯)の骨吸収進行は極端に少ない |
口腔内およびX線所見:
歯牙は全体に黄褐色で随所に咬耗が認められ、カリエスや歯周疾患に対して非常に抵抗力
のある感じが見て取られた。事実、カリエスはほとんどなく、沈着した歯石の量に比べて
歯槽骨の吸収は比較的軽度であった。
X線所見により、上下左右の7番と右上4番に中程度の歯槽骨の破壊像が観察された。
また、歯石の沈着に伴い全ての歯牙から排膿が認められたが、特に右上4番と右下76番
からの排膿が著明であった。
処置および経過:
全顎の歯石除去を順次行い、症状は改善したが、右上4番と右下76番の盲嚢が深く容易に
改善しないのでルートプレーニングと伴に歯肉切除を併用して症状の改善を試みた。
考察:
一般に、歯周疾患の進行は上下左右の最後臼歯部と下顎前歯部から始まる傾向があるように
思われる。本症例のX線写真でも最後臼歯部の歯槽骨破壊が象徴的ではある。
ところが、無髄歯である「7だけは破壊傾向が少ないことが注目される。
条件が全て同一の口腔内にあって、条件の相違は歯髄の有無以外に考えられない。
感想:
歯髄の有無による歯周疾患進行速度の違いは、歯周疾患の原因を特定する重要な臨床事実です。
理由や対応は他のコーナーで多数取り上げていますので参考にして下さい。
このコーナーでは、臨床事実だけを随時掲載していきます。
初診時 パノラマ | 下顎左右臼歯部(拡大) |
年齢の割に歯周疾患進行は重度 32歳 女性 |
左右智歯は、根管治療の不備があるものの骨吸収進行は軽度 |
口腔内およびX線所見:
口腔清掃状態は比較的良好で、カリエスは数カ所存在したがいずれも軽度であった。
一方、歯槽骨は全体に著明な吸収が認められ、、いわゆる“上行性歯髄炎”によると
思われるエンドペリオにより破壊された重傷の歯が随所に認められた。
処置および経過:
まず、歯槽骨の回復が期待できるエンドペリオにより破壊された重傷の歯の根管治療を行った
のち、手術予定部位の抜髄および根管治療を行い順次歯周外科手術を行うこととした。
手術に際しては、近年注目されている歯周組織再生誘導材料である“エムドゲイン”を
使用することとした。
考察:
歯槽骨の破壊は、総じて1/2以上でエンドペリオを伴う歯牙についてはほとんど根尖にいたる
破壊が認められる。その中にあって、劣悪な条件の下に置かれた左右の智歯だけが比較的
歯槽骨破壊を免れているようである。清掃が行き届かないことと、弱い歯質のために萠出
間もないころに抜髄されたと思われる智歯が、皮肉にも最良の状態を保っているのはやはり
歯髄の有無による歯質(象牙質)の変化が影響したものと思われる。
感想:
歯周によって破壊された部位の歯槽骨再生は現状では不可能です。反対に根尖病巣によって
破壊された部位の再生は臨床的に周知の事実です。エンドペリオの場合は、やってみないと
どこまで回復するか分かりません。
“エムドゲイン”の骨再生理論には一部納得するところがありますので今後の発展を期待して
います。
初診時 パノラマ | 5年後 パノラマ |
年齢の割には良好だが右下臼歯部の骨吸収が気ががり 59歳 男性 |
治療終了後4年後には抜歯の適応 |
初診時口腔内およびX線所見:
口腔内全体にプラークおよび歯石の沈着が著明であったが、年齢の割に残存歯数も多く
歯槽骨の吸収程度も軽度であった。
処置および経過:
歯科治療に対しては不信感が強く、主訴以外の歯を治療することには消極的ではあったが、
歯周疾患初期治療および補綴処置等は予定通り行った。治療終了後は、メインテナンスを勧め
るも来院が途絶えてしまった。
4年ぶりの来院時は、懸念していた右下7番の疼痛と動揺を主訴に来院されたが、レントゲン
所見からも急激な歯槽骨吸収が認められ保存不可能と判断して抜歯。
考察:
右下7番に関しては、約1年前にかなり強烈な知覚過敏があったそうで、その半年後から
歯牙動揺が気になりだしたとのことである。
おそらく、1年前に歯髄壊死→半年前に根尖病巣による骨破壊が進んだものと推測される。
メインテナンスを行わなかったために歯槽骨吸収が進行したというよりは、知覚過敏→歯髄壊死
(いわゆる上行性歯髄炎)により骨破壊が進行したものと思われる。
本症例も有髄歯の怖さを見せつける症例であるが、同時に、メインテナンスを行っていれば
早期に抜髄して難を逃れることのできた症例だと思う。
感想:
メインテナンスの重要性と有髄歯の進行速度の速さを教えてくれた症例です。
日常の臨床で感動したこと・腹の立ったこと…患者さんに言えないこと…
自慢や非難と誤解しないで
下さい。自らのレベル向上の糧となることを願います。