43歳・女性 | 術後8年 | 術後13年 |
1│残存骨量約2mm どう処置しますか? |
経過良好 | 抜歯を決断 |
結果:メインテナンスに対する理解もあったことから、10年間はこれといった症状もなく
経過。それ以降、時に腫脹を繰り返し歯槽骨の吸収が急激に進行し現在に至る。
今後の予定:1│は抜歯とし、BA1│@A Bridge。
感想:岩手医科大学の上野教授もおっしゃるように、やはり「抜髄・連結固定」ですネ。
Fopをどこかで(8年目)でしていればもう少し寿命を延ばすことができたような気がします。
46歳・女性(手術時) | 術後10年 |
右下76 Fop+HAP施行(術前) | 手術部を含め歯周疾患進行停止。経過良好 |
考察:
ハイドロキシアパタイト(HAP)人工骨補填部が新生骨で満たされているか否かは定かではない。
しかし、本症例の場合、補填されたHAPが異物とみなされることなく、10年間の長きにわたって
生体内で留まったことは事実である。その間不快な臨床症状もなく、また、さらなる骨吸収の進行
もなく、口腔内の機能保持に貢献できた。それは術式やメインテナンスに負うところも多分にあると
思われるが、最大の功労者は宿主の免疫抵抗力であると思われる。このことは、多くの類似症例を
経験して感じられることであって、1症例から類推できるものではない。
感想:
「手術をしなれればならないところがある。この歯を1年でも長く機能させるためにメインテナンス
を続けて下さい。」と言って始めた歯周疾患管理が功を奏して10年間機能している。しかし
メインテナンスの本当の値打ちは、当時かろうじて手術をまぬがれた他の部位が10年を経過した
現在も変化なく存在していることである。
67歳 男性 | 初診より 4年後 | 初診より 15年7か月後 |
初診時 「57 Dental写真 | 骨吸収進行著明・Fop+HAP施行 | 術後11年3か月 経過良好 |
初診時口腔内所見:
清掃状態は不良で、全体に歯槽骨の吸収が認められるものの、年齢の割には残存歯が多い。
歯周疾患に対する理解は極端に少なく、カリエス部分の治療のみのを希望。
処置および経過:
初診時の治療として、初期治療とカリエス治療および欠損部補綴を行い、メインテナンスを
強調して治療を終了したが、その後4年間来院せず。
4年後、「7の排膿と疼痛を主訴に来院。当時発売されたばかりのハイドロキシアパタイト
人工骨への期待を説明し、同部の手術の同意を得てFop+HAP施行。
その後、他の部位のトラブルが生じた時には来院するものの基本的にはメインテナンスに応じて
くれない状態が続いた。
感想:
最後まで頑固なおじいちゃんで、最近お見えになったときも清掃状態不良。「7の二次カリエス
による歯肉の腫脹を主訴に来院したが、高齢(83歳)を理由に再製を拒否。今回、何とか
1か月毎のメインテナンスを取りつけてはいるものの今後の動向は不明。
それでも、生涯入れ歯にしたくないとの約束は何とか果たせそう。
ご意見・ご感想:
お年寄りの頑固者らしいですね。あまり歯磨きもせず、腫れたり痛くなったり
すると来院するタイプだと思います。でも15年立ってまだ抜歯しなくてもよい状態とはたいした
物です。先生の悪戦苦闘の賜物ですね。
36歳 女性 | 術後12年<48歳) |
初診時 パノラマ | 恐がり屋さんでメインテナンスに全く応じない患者さんですが… |
経過:
術後月1度のメインテナンスを約束し、不定期ながらも4年間はメインテナンスを継続したが、
その後勤務先の変更もあり、度重なる催促にもかかわらずメインテナンスを中止。
術後7年目に左側上顎ブリッジの動揺を主訴に来院し、│7を抜歯(歯槽骨破壊の進行のため)
。再度メインテナンスの重要性を説明するも再び来院せず4年を経過。
今回、右側上顎ブリッジの動揺を主訴に再び来院。前回同様74│を抜歯し、義歯装着を
予定している。
考察:
74│7の歯槽骨破壊が予想通り著明である反面、それ以外の歯は動揺もなく今後比較的
長期間の保存が見込まれる。Fop+HAP を行った前歯部も経過は比較的良好である。歯周外科処置
の可否を考える上でも貴重な症例である。当時の技術水準を考えるとやむをえないことではあるが、
全顎歯周外科処置を行い、咬合の再構成を施した上でフルマウスのブリッジをしていれば更なる
歯牙の延命が可能であったものと思われる。
感想:
「歯がグラグラしだしたので…」と電話を受け取った時には、長年放置されていたことでもあり、
さぞやひどい状況になっただろうと想像していたが、口腔内を拝見して一安心。
初診当時36歳で、ほとんどの歯を抜歯されても不思議のない状況だった患者さんが、12年の歳月を
経て17本の残存歯があることには感心した。反面、今流の処置を施し、メインテナンスも十分に
行えたら更なる延命効果が期待できるものと残念な気持ちも同居する。
初診時パノラマ写真 | 13年後パノラマ写真 |
47歳 女性 | 抜髄・Fop+HAP・連結固定により安定。 |
口腔内およびX線所見:
上顎に残存する3│は歯周疾患の進行と外傷性咬合(負担過重)により動揺が著明。
清掃状態は不良で下顎に残存する全ての歯に動揺と排膿が認められた。すでに喪失した上顎に
続いて下顎の生存も風前の灯火のように感じられた。本人もそのことを自覚しているらしく
「下は1本づつ抜かんと一遍に抜いて総入れ歯にしてや」と言わんばかりの口調であった。
処置および経過:
主訴である3│を抜歯したのち、上顎の総義歯を作成。同時に下顎の初期治療を進め
歯牙保存の可能性を説明して歯周外科手術を含む処置方針を決定した。
1985年 8月 下顎前歯部 抜髄→Fop+HAP→連結固定
1986年 6月 右側臼歯部 抜髄→Fop+HAP→連結固定
1990年11月 左側臼歯部 抜髄→Fop+HAP→連結固定
現在に至るまで、1月に1度のメインテナンスを欠かすことなく継続中。全体に予後良好。
但し、「12 は現状保存不可能な状況ながら、連結固定により残存。
考察:
日本で人工骨補填剤(ハイドロキシアパタイト)発売当初の症例である。
補填されたアパタイトは時の経過とともに異物化して腫脹の原因となったり貪食または自然排出
される症例がある一方で長期の歯牙保存に役立つ症例も多く見受けられる。
感想:
50歳前に上下総入れ歯を覚悟されていたようすでしたが、60歳を迎えた現在も下顎だけは
健康です。「もっと早く先生の処に来とけば良かった」と言う口癖は心地よい反面、ちょっと
照れくさい思いです。
初診時パノラマ写真 | 10年後パノラマ写真 |
39歳 男性 | 抜髄・Fop+HAP・連結固定により安定。 |
口腔内およびX線所見:
残存する歯は全て残存骨量1/3以下で重傷度の歯周疾患進行状況である。
外傷性咬合(負担過重)とあいまって動揺が著明で、ほとんど簾(すだれ)状態。
清掃状態は不良で残存する全ての歯に動揺と排膿が認められた。
処置および経過:
主訴である│4の根管治療を済ませて、過去の推移を聞いたのち現在の状況を説明して
このまま放置した場合の経過(ナチュラルヒストリー)を告げる。早期の総義歯を願望するかの
ような発言に対して、義歯が決して満足のいく治療方法でないことを説得して
歯牙保存の可能性を説明の上、歯周外科手術を含む処置方針を決定した。
1988年11月 上顎 抜髄→Fop+HAP→連結固定
1989年 4月 下顎 抜髄→Fop+HAP→連結固定
現在に至るまで、1月に1度のメインテナンスを欠かすことなく継続中。全体に予後良好。
但し、右下5番は歯根吸収により現状保存不可能な状況ながら、連結固定により残存。
考察:
歯周疾患専門医ですらほとんどの人が抜歯を選択すると思われる症例である。残存骨量1/2
以下は抜歯の適応と信じられているからである。
“努力すれば報われる”を証明するような症例であるが、決して偶然の賜物ではない!!
メインテナンスにかける本人の熱意は無論のこと、最善のシナリオを描いて努力する姿勢が如何に
重要であるかを理解していただきたい。
感想:
このような症例を経験した私には、1/2程度の歯槽骨吸収症例を抜歯する勇気と良心が
育つはずがない。
初診時 Dental写真 | 6年後 Dental写真 | 12年後 Dental写真 |
歯牙および歯槽骨の破壊が著明 50歳 女性 |
骨植良好 | 1年程前より動揺と排膿が著明 |
初診時口腔内およびX線所見:
清掃状態は不良で残存する歯牙の崩壊が著しく、歯周疾患進行に伴う歯槽骨の破壊は比較的
軽度であったが、根尖病巣形成に伴う歯槽骨の破壊が著明であった。
上顎の残存歯は、6543|345であったが比較的健全な歯は3|3だけであった。
処置および経過:
歯周初期治療終了後、残存する全歯の根管治療を行ったのち、6543|部の歯周外科
処置(+人工骨移植)ならびに6|頬側根のヘミセクションを施行。
創傷の治癒を待って、上顎のフルブリッジによる歯冠補綴を行いメインテナンスに移行。以後12年間
メインテナンスを継続。
|34間の連結部の破折並びに補綴物の脱離のため再治療するにあたり、動揺の
著しい654|は抜歯することを決断。
考察:
654|の保存を試みることは、賛否両論というよりはむしろ無謀と考えられているのが
現状と認識しています。「12年しかもたなかった」と考えるのか「12年ももった」
と考えるか。また、偶然か必然かの認識の相違によって結論が大きく異なります。
延命処置を重視する医学同様、歯牙保存を最大の命題とするならば、例え1例でも可能性を
示唆する症例があれば努力する姿勢が歯科医学にも必要ではないでしょうか。
感想:
限界はいずれ訪れるものだとは思いますが,非常に無念な気持ちで一杯です。
初診時 パノラマ | 18年後 パノラマ |
年齢の割に歯周疾患進行が著しい 38歳 男性 |
右下8と5を含めて歯牙喪失6本 57歳 |
初診時口腔内およびX線所見:
口腔内清掃状態は不良で、年齢の割に喪失歯数が多く、残存歯の歯槽骨も1/2以上喪失
しており前途の危ぶまれる症例であった。
処置および経過:
開業10日目の来院ということで、不慣れなスタッフとともに緊迫した歯周疾患の状況を説明して
注意をうながした。主訴の4|は残存歯質がないので抜歯の上、D4B|Bridge
装着。右下3番2番および左下5番の根管治療を行ったのち、補綴物を装着して治療を終了。
現在ならば当然メインテナンスに移行するべき症例であったが、当時は1年毎の健診を説明
しただけでの終了であった。そののち、1年・3年・6年後に追加処置を希望して来院されたが
歯周疾患は進行の一途であった。
6年後の来院時には、左右の下顎小臼歯部の歯槽骨吸収が著明となったのでFOp+HAP
(人工骨補填)を行った上で連結固定を施行した。勤務の都合もあって、そののちも確実な
メインテナンスは不可能な状況が続いたが、術後7年後(初診より13年)からは月に一度の
メインテナンスを継続して現在にいたる。
1年後に左下5番(歯根破折)、7年後に右下8番(歯冠崩壊)、13年後に右上2番(二次カリエス)、
16年後に右下4番(歯根破折)、そして今回右下5番(歯周疾患進行)によりそれぞれ抜歯。
考察:
抜歯に至った歯についてはメインテナンスをもっと徹底しておけば救われた歯も数本あります。
それ以外の歯については、歯周疾患の抑制効果がかなりあったように思います。
また、初診時までのナチュラルヒストリーと初診から6年間のナチュラルヒストリー、さらにそれ以降
のナチュラルヒストリーとのあいだには大きな違いがあるように思います。
単純な話、57歳で18本の残存歯があること事態不思議なような症例だと思います。
感想:
抜歯を極力回避する私の治療方針からみれば、年々喪失歯の増える症例で必ずしも納得の
いくものではありません。ところが初診時の状態と18年後の経過を比較して何とか救われる気持ち
になれました。
初診時 パノラマ | 18年後 パノラマ |
歯周疾患進行は軽度だが残存歯数が少ない 61歳 女性 |
上顎右側は10年後に再製 |
初診時口腔内およびX線所見:
口腔内清掃状態は比較的良好で、歯槽骨吸収程度は中程度程度であったが年齢の割には
良好であったが、アタッチメントを使用した義歯を装着しており咬合平面の乱れとともに動揺が
気になる。
処置および経過:
上顎をフルマウスブリッジ、下顎を2ブロックに分割したブリッジを設計し、咬合平面をそろえる
ために上顎の治療から根管治療を開始した。
治療後の来院はほとんどなく、10年後に右側上顎部分の脱離にともなう歯牙破折を訴えて
来院しただけである。
考察:
保険上の設計では、ブリッジの適応症外ではあるが、多数歯の連結とフルマウスでの設計が
功を奏して長期間機能したものと思われる。
アタッチメントの義歯で考えられない快適性と、孤立歯の固定により長期間歯牙保存の役割を果
たした貴重な症例です。残存する歯を如何に有効活用するかを考える上で、Bridgeの有効性を
教えてくれました。
感想:
ロングスパンのBridgeやフルマウスの連結冠を推進するきっかけとなった、学ぶべきことの
多い症例です。
日常の臨床で感動したこと・腹の立ったこと…患者さんに言えないこと…
自慢や非難と誤解しないで
下さい。自らのレベル向上の糧となることを願います。