41歳 女性 | 初診時 パノラマ |
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初診時 正貌 | 右側関節頭を含む下顎骨の変形が著明 |
症状 | 術前 | 術後 | |
頭痛 | ひどい | → | なし |
肩凝り | ひどい(左右) | → | 少し |
顎関節痛 | ひどい | → | なし |
顎関節雑音 | いつも | → | 時々 |
のどがつまる | いつも | → | 時々 |
腰痛 | 少し(右) | → | なし |
膝の痛み | 少し(右) | → | なし |
処置および経過:
咬合低位・顎関節症の診断の下にスプリントによる挙上を計ると同時に補綴物の再製を行う準備
を着手。症状の改善を確認の上咬合平面と顎位の正常化を行い、最終補綴物を装着。
症状の完全消失は不可能であったが、“生きていくのが辛い”状態を脱却し2年後に治療終了。
症状の変化は表に示す。
考察:
神経質な性格の割に若い頃からムシ歯が多く、歯科治療への恐怖も手伝い治療を放置。また、
治療に訪れても途中で中断することが多かったと言う。しかも、意を決して行った補綴がどこか
しっくりこなくて歯科治療に対する不信がつのるといった悪循環の末、症状が全身におよんだもの
と考えられる。臼歯部の咬合を失った顎位は、2週間で最大2mm程度変位すると言われているが、
変位した状態で来院した患者に対して現状維持の咬合を付与する治療体制にも問題が残る。
感想:
患者の訴え以外の異常箇所を治療することは、長年禁忌と考えられていました。
事実勝手に治療して、ましてや不快症状を呼び起こそうものなら訴訟にもなりかねません。
問題意識を全く持っていない患者に治療の必然性を説明するには、莫大な時間とエネルギーが
必要です。ここまでひどくなって患者さんの方から治療を希望してこられたからこそ可能な治療
であったともいえます。
初診時パノラマ写真 | 初診時 顎関節撮影 |
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15歳 女性 | 下顎枝の長さがアンバランス |
口腔内およびX線所見:
清掃状態は良好で、歯牙萠出状態も正常で喪失歯等重大なカリエスはない。
また、歯ぎしりもないとのことで、早期接触によるファセットも特に見あたらない。
X線所見では、左右の下顎枝の長さと、関節頭の形態に大きな相違が認められた。
処置および経過:
下顎骨形態の異常と、関節窩における関節頭の位置異常による顎関節部の炎症であることと、
成長期における一時的なアンバランスで成長とともに“リモデリング”して自然治癒すること
もあり得ることを説明。また、反対に中長期的には症状が更に悪化して外科的な処置が必要となる
可能性も示唆したうえで、当面の炎症を抑えるために消炎鎮痛剤の投薬と若干の咬合調整
(│7舌側咬頭内側)を行った。
症状は、翌日から快方に向かい1週間後にはほぼ消失。
考察:
成長期が終了する前の15歳前後に、顎関節の雑音や痛みを訴えるケースは決して稀なこと
ではない。しかし、そのほとんどが成長期の終了とともに大きな障害を起こすことなく症状が
自然消失しているように見受けられる。
自然治癒能力のない歯牙疾患と異なり、若年者の顎関節異常はリモデリングにより関節頭の形態と
位置を修正することが可能である。注意すべきことは、歯牙喪失等によって症状を助長することが
ないような口腔管理体制について十分な理解を得ることだと思われる。
感想:
長期観察症例が少ないので少々不安の残る症例です。
初診時 パノラマ | 初診時 顎関節撮影 |
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左側の顎関節痛を主訴に来院 14歳 女性 |
顎関節頭の変形と位置異常が認められる。 |
口腔内およびX線所見:
左側の臼歯部に軽度なカリエスが認められるが、清掃状態も比較的良好であった。
左側の下顎前歯部に先天性の歯牙欠損があり、前歯部から小臼歯部にかけて歯間離開が
認められるが、咬合関係は正常でファセットなどは確認されなかった。
処置および経過:
過去にも左側の顎関節痛の経験があり、その時は大病院の口腔外科に通院したとのことであった。
身体の成長がとまるまで待ちなさいとの説明で消炎鎮痛剤を投与され、症状は数日で消失した
とのことである。
“顎変形症”の場合、原因を正しく理解した上で、将来の予測と対応方法を納得していただく
ことが最良の方法と思われる。当院においても、十分な説明を行った上で、消炎鎮痛剤を
投与し数日で症状は消失。
新たな顎位の変化を起こさないことこそ最良の治療との認識のうえで、カリエスの治療と
継続したメインテナンスを行う予定である。
考察:
顎の変位を伴った症例では、時として積極的な治療を必要とする顎変形症ですが、成長期に
おける顎変位症はリモデリング現象により自然治癒が期待できます。
症状が悪化した時の対応を考慮しながら経過を観察するのが適切な対応であるとは思いますが、
大切なことは、更なる変位を招くような咬合破壊を阻止することではないでしょうか。
感想:
若年者の顎関節症には気を使います。成長とともに経過を追うことが不可能な場合が多いからです。
症状の消失とともに来院が遠のくことが最大の理由かもしれません。従って、治癒したかどうかの
判定と経験が極端に少ないのが実体です。
初診時 パノラマ(関節部) | 10年後 パノラマ(関節部) |
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関節窩が幾分深く感じられる 29歳 男性 |
関節頭の異常成長?? |
初診時口腔内およびX線所見:
生真面目そうな性格の割には、清掃状態が悪く、不完全なカリエス治療が随所に認められる。
今にして思えば、初診時より若干の咬合低位があったものと思われる。顎関節症症状は特に
記憶にないが、当初より口が開き難かったようにも感じられる。顎関節部のエックス線所見
として、多少関節窩が深いようにも見えるが、一応正常範囲。
処置および経過:
一連のカリエス治療終了後、メインテナンスに移行して10年を経過。その間特に関節部等に
異常は認められなかったが,右下7番の根尖病巣の悪化に伴い久しぶりに治療を行った際、
開口1.5横指でやけに治療がし難いことから本人にたずねてみると、数ヵ月前から自分でも
気になっていたとのことであった。
改めて10年後のレントゲンを見て、「これでは開かんワ!」。
関節頭が異常に成長して、関節窩深くに食い込んだような所見に納得するやら呆れるやら。
考察:
関節頭は、リモデリング現象で短くなるものとばかり思っていました。開口障害は、
通常、急激な顎位の低下によりリモデリングが追いつく前に関節窩深くに食い込んで
生じるものと勝手に解釈していました。
感想:
治療中、口を大きく開けてくれない患者さんには随分腹の立つものですが、場合によっては
手術かと思うと「もっと大きく開けて!!」と言ったことを申し訳なく思う今日一日でした。