初診時 パノラマ | 8年後 パノラマ |
カリエスは多いが豊富な残存歯数 74歳 男性 |
メインテナンスにも余り応じず、独自の路線で何とか堅持 |
初診時口腔内およびX線所見:
清掃状態は不良で、老人特有の歯頚部カリエスと二次カリエスの山。ただし、年齢の割に残存
歯数が多く(25本)、歯槽骨吸収も中〜重度(50歳見当)で比較的恵まれた条件であった。
処置および経過:
主訴とする歯の治療と自分の気になる歯の治療は行うが、メインテナンスとなると全く応じる
様子がないまま8年を経過。それでも、1〜2年に一度は歯冠崩壊が起こり来院する。来院の
たびに歯石の除去と若干の予防的治療には応じるような治療推移であった。
上顎右側6番と下顎左右6番7番は、著しい歯冠崩壊によりヘミセクションをおこなったので、
歯数の減少はなく25本のままであるが正式な残存歯数は表現不能。
現在、人工透析を行っていて、体力も不十分なため今後の積極的な治療は不可能な状況である。
考察:
本人の体力と歯質により、たまたま達成された“8020”の症例です。私がメインテナンスに
力を入れ始めて10数年ですから、現在(1999年)80歳を越えていらっしゃる患者さんの初診時
年齢は70歳前後です。従って初診時の条件も悪くなかなか“8020”に持っていけないのが
現状ですが、今後10年・20年後には徐々に素晴らしい症例が出現してくるはずです。
感想:
メインテナンスを始める年齢が低ければ低いほど“8020”達成は容易になります。
初診時 パノラマ | 初診時 口腔内写真 |
右下智歯の疼痛を主訴に来院 82歳 男性 |
上顎前歯部はBridgeですが見事な歯並び |
初診時口腔内およびX線所見:
口腔内の清掃状態は比較的良好で、下顎前歯部以外は歯科治療の痕跡があるものの
特に問題は認められない。
主訴の智歯以外にも下顎臼歯部に二次カリエスが存在したが、骨植は堅固であった。
補綴部分には多少の歯肉縁下歯石と食片圧入があるものの、全体に歯石の沈着は
少なく、盲嚢は約2〜3mm程度。
処置および経過:
歯周疾患初期治療および智歯の抜髄→クラウン装着予定。
考察:
80歳を超えての初診で、これだけ恵まれた口腔環境を拝見したのは20年の臨床経験上初めて
でした。特にオーラルケアに力を入れていないということですので、余程恵まれた素質をお持ち
のように感じました。高度に石灰化した歯、歯石の沈着し難い体質、そして炎症をあまり起こさない
強靭な体力が備わった方だと思います。
感想:
「世の中には、80歳を超えても立派な歯をお持ちの方もいらっしゃるでしょうが…」といつも口癖の
ように言っておりますが、実際に拝見したのは初めて?です。思わず感激!!
初診時 パノラマ | 17年後 パノラマ |
治療形跡がほとんどない! 68歳 男性 |
治療していない歯がない! 85歳 |
初診時口腔内およびX線所見:
口腔内清掃状態は全く不良で、歯科治療の痕跡が全く認められない。
歯槽骨の吸収程度は中程度以上で盲嚢も深いが、残存する歯の数だけは立派。
処置および経過:
初診時に86|4および下顎智歯を抜歯して一連の補綴処置を施行。
「7は4年後に根尖部に及ぶ歯槽骨吸収によりFop+HAP施行(13年後も残存)したが、
メインテナンスには全く応じることなく16年を経過。
気になる部分の治療が終われば来院の途絶えるタイプで、1年後;右下6番・7年後;に右下1番・
8年後;に右上1番・16年後;右上7番をそれぞれ歯冠崩壊によって抜歯。
最後の7|抜歯を契機に「わし、歯がのうなるのはイヤじゃ」ということで、週に一度
プロフェッショナル・トゥースクリーニングを開始することになった。その後一年を経過した
現在も継続しているが、来院のたびに清掃状態全く不良。
考察:
元々は、“歯の健康”に対して全く無頓着な性格だったと思います。その割には初診時(68歳)の
残存歯数が多かったのは、恵まれた歯質と体力のおかげだったと思います。
感想:
もっとメインテナンスをしっかりしていれば、もっと良好な状態を保てたと思います。
まっ、それでも8020達成で良かった!!
PS. 2000年3月、他界されました。ご冥福をお祈り申し上げます。
初診時 | 2年後 |
中程度以上の歯槽骨吸収を認めるが残存歯数は25本 81歳 女性 |
咬合平面が乱れているのが気がかりだが 補綴治療終了後1年 |
初診時口腔内およびX線所見:
清掃状態はやや不良で、歯科治療にも無頓着に見受けられた。その割には、初診時に
すでに“8020”達成。
歯槽骨吸収も中程度以上進行しているが、81歳という年齢を考慮すれば“おおむね良好”
と思われる。
処置および経過:
「45の抜髄に始まり、歯周疾患初期治療と治療進行に伴って徹底した歯石の除去を行った。
7か月の治療期間ののち、1か月毎のメインテナンスに移行したが、3回目から中断。
約1年の空白期間を経て、再び|4歯髄炎症様症状を訴えて来院。
考察:
初診時すでに“8020”を達成していたものの、歯槽骨の破壊がないわけではなく平均より
随分遅いだけのことというのが正直な印象です。このまま10数年経過すれば間違いなく
多くの歯を喪失すると思います。
術後の口腔内を拝見してもあまり気にならないのですが、術後のパノラマでは咬合平面の
乱れがやけに気になります。年齢的に治療意欲が低かったことも一つの原因ですが、
治療の手順にも問題があったようです。
感想:
“早かれ・遅かれ何時か訪れる歯周疾患末期”という、私の口癖を裏付けるような症例でした。
初診時 | 17年後 (84歳) |
上顎臼歯部に歯槽骨吸収を認めるが残存歯数28本 67歳 男性 |
歯周疾患の進行は抑制 歯冠崩壊に伴う喪失歯3本 |
初診時口腔内およびX線所見:
“生臭坊主”を地で行くような、ガッチリした体格と健康そうな風貌が印象的。
口腔内の清掃状態は悪く、歯の健康に関しては全く無頓着な様子で歯科治療の形跡も
少なく、随所に抜髄を必要とするカリエスが散見された。
また、全ての歯に大なり小なりの歯頚部カリエスがみられたが、歯質そのものは黄色味を帯びた
堅そうな歯であった。
歯槽骨吸収程度は全体に中程度であったが、左右の上顎臼歯部の骨吸収は重症。
処置および経過:
初診時に初期治療および6本の抜髄と2本のカリエスを行って、一旦治療を終了。
2年後に上顎右側臼歯部/5年後に左側臼歯部の歯周疾患外科処置を行ったのちは
途切れ途切れも継続したメインテナンスを継続し現在にいたる。
プロフェッショナル・トゥースクリーニングを行っているにも関わらず、清掃状態は相変わらず
不良のまま、新たなカリエスや二次カリエスの発生により修復不能な歯もあって3本喪失。
考察:
17年間のメインテナンスを継続したことは敬服に値するが、清掃状態が改善しないことは
再考に値すると思います。
保険療養規則からみれば、「指導が全く功を奏していない」との非難は免れないとは思いますが、
と言って、メインテナンスを中断したとすれば“8020”の達成は絶対不可能だったと思います。
感想:
このメインテナンスが医療費の無駄遣いなのかどうかは今後の課題にしたいと思います。
初診時 パノラマ | 6年後 パノラマ |
歯槽骨吸収は中程度だがほとんど残根状態 73歳 男性 |
手入れも悪いが一見立派 |
初診時口腔内およびX線所見:
口腔清掃状態は不良。歯科治療に対する恐怖心が強く、治療経験もほとんどないということ。
残存歯牙数は25本であるが、全て残根状態で使用不可能な歯も含まれるが、歯槽骨の吸収
程度は中程度。
処置および経過:
曲がりなりにも歯周初期治療を行ったが、ブラッシング指導には全く無関心な態度であった。
全顎の根管治療と補綴処置を行いメインテナンスに移行。
メインテナンスに約1年半応じた後は来院が遠のき、以後1年に1度程度来院してスケーリング
を行い6年を経過。
考察:
“ムシ歯が重度な人は歯槽膿漏の進行が遅い”という俗説を証明すると同時に、
“ムシ歯の多い人は、歯科医院によく通う機会が多くスケーリングなどの処置を行うので歯周疾患
の進行が遅い”という説明を全く打ち消すような症例です。
免疫抵抗力の強さもさることながら、無髄歯の歯周疾患進行抑制効果が影響したと推定
します。
感想:
ムシ歯は放置していても、歯周疾患の進行がすくなければ“8020”は達成できる!!?
初診時 | 14年後 (80歳) |
歯周疾患進行傾向は弱いがムシ歯治療の形跡が多い 66歳 女性 |
入れ歯なしで80年、本人は満足 |
初診時口腔内およびX線所見:
清掃状態は比較的良好。上顎は全て補綴治療が施されているが、根管治療には問題なく、
骨植も年齢の割には良好であった。
処置および経過:
主訴の治療だけを希望して、決してメインテナンスに応じることなく14年を経過。それでも1年に
1回程度は何らかのトラブルにより来院され、その都度全顎のスケーリングだけは欠かさず
行いながらの経過観察であった。
初診より3年後に7|、7年後に|7をそれぞれ歯周疾患の進行により抜歯したが、
それ以外の歯については顕著な骨吸収を認めない。カリエス進行により、最終的は全ての歯を
抜髄して数歯単位の連結固定を行った。
考察:
歯質の色調は黄褐色で、随所に咬耗や歯冠一部破折が見られるなど、いかにもカリエスや
歯周疾患に抵抗力のありそうな歯質である。
また、当初より比較的多くの歯が残っており、孤立状態の歯や過重負担のかかる歯がなか
ったことが歯牙保存に大きく貢献したものと思われる。
感想:
何はともあれ、“8020”が達成できて良かった!