21歳 女性 | │5象牙質カリエス |
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初診時 X線写真(パノラマより抜粋) | 本人の自覚症状は全くなし |
処置:
極力歯髄保護の方針で治療を行ったが、│5はタービンを使った瞬間に露髄してしまい
やむなく抜髄。治療に際しても歯髄炎症の所見は全くなく、改めて感心しながらの治療となった。
考察:
スポーツ選手ということもあって、患者さんの健康状態・免疫抵抗力ともに並外れたものが感じ
られる。カリエス罹患部と歯髄とのあいだに、一切健全牙質がないようにも思われるにも
かかわらず、全くといって良いほど歯髄炎症が存在しないのは興味に値する。
歯髄炎や象牙質知覚過敏症との関わりから重要なヒントを与えてくれる症例ではあるが、今のところ
明解な回答がえられない。
感想:
ちょっとしたカリエスや刺激で歯髄炎を起こして痛がる患者さんとの違いは一体何なんでしょうか。
炎症を抑える抵抗力と、ムシ歯の進行を抑制する抵抗力とは別物のようですね。
62歳 男性 | │6口蓋根ヘミセクション |
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│4567 Dental写真 | 歯石の沈着が根尖まで及ぶ |
口腔内およびX線所見:
半年前に│6の知覚過敏(歯髄炎様の症状)を主訴に来院され、
│6抜髄後1か月毎のメインテナンスを行っている患者さんです。
清掃状態は比較的良好であるが、全体に中程度の骨吸収進行が認められる。特に│6
口蓋側の歯槽骨の吸収は著明で初診時から根尖に至る歯槽骨破壊があった。
X線所見では、両隣在歯は有髄であったが、カリエスおよび知覚過敏の症状は無く、患者は
│6口蓋側の知覚過敏を明示していた。毎月のスケーリングにもかかわらず、
│6口蓋側辺縁歯肉からは排膿が認められた。
処置および経過:
│6口蓋根のヘミセクションを行い、創傷の治癒を待ちクラウンによる補綴を行った。
隣在歯の知覚過敏も懸念されたが、術直後より知覚過敏様症状は消失し予後は良好。
考察:
“無髄歯の知覚過敏?”は臨床ではしばしば遭遇する。隣在歯が全て無髄歯である場合には
比較的診断が容易であるが、今回のように周囲に有髄歯が存在する場合にはどうしても
診断を誤る可能性が高い。無髄歯が炎症を起こす原因は、根尖病巣や歯根破折など多くの
状況が考えられるが、やはり歯石の沈着による炎症が多い。また、補綴物装着時のセメント残留
による炎症も比較的多い。
感想:
初診時、根尖病巣からの骨破壊であれば回復の可能性があると思って残した口蓋根でしたが、
結果は歯周疾患進行に伴う骨破壊でした。それにしても毎月縁下歯石を意識してスケーリングを
していたのに結構大量の歯石が残っていたのには驚くと同時にスケーリングの限界を感じました。
再初診時パノラマ写真 | 3年後パノラマ写真 |
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26歳 男性 | 折角萠出した「8もまたムシ歯 |
口腔内およびX線所見:
度重なる治療と口腔衛生指導のおかげで、口腔内清掃状況は比較的良好ではあったが、
「8の大きなムシ歯がひときは目立つ感じがした。レントゲンを見るまでもなく
「8歯髄炎による疼痛であることがわかった。
既往歴および処置:
8年前の初診時に、今時ここまでひどいムシ歯を作るかと感心しながら治療を始めたことが
思い出される。下顎の前歯を除いてほとんどの歯が抜髄を必要とする状態であった。
順次、抜髄を行って治療を進めて行ったが途中で中断。その4年後再び来院された時には、折角
抜髄した歯も治療中断のため使用不可能な状態になっていた。
特に「7の二次カリエスはひどく保存不可能な状態になっていたので「8の萠出を期待して抜歯。
さすがに本人も、「今回は懲りました、こんどこそまじめに治療します」と態度を改めて最後まで
治療を継続した。しかし、治療終了後は執拗なメインテナンスの説明にも関わらず足が遠のいた
まま3年を経過して今回の来院となった。
処置は「8抜髄の上フルクラウンによる補綴。
考察:
使い物にならない水平埋伏歯の「8も、「7の抜歯により機能するまでに萠出することを
期待しての処置も、再びムシ歯により夢が砕かれた状態である。
カリエスの管理がもっと為されていれば期待通りの効果が得られたようにも思われる。
感想:
ムシ歯の進行傾向が強いのは、あながち本人のせいばかりではないが、折角苦労して抜髄した
大臼歯がこのような結果に終わった時の悔しさは同じ歯科医ならご理解頂けると思います。
「全く、懲りない奴!! 今度こそ大事にしろよ!!!」
初診時 パノラマ | 2| Dental写真 |
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39歳 女性 | レジン充填後の歯髄炎 |
初診時口腔内およびX線所見:
前の医院で"顔面神経麻痺"と診断されて大学病院に行くことになっていたとのことであったが、
あまりの痛みにとりあえず痛みを止めて欲しいとのことで来院。
口腔内およびエックス線所見では特に異常は認められない。
訴えの、上下臼歯部にはいずれも軽度な打診痛が認められた。
処置および経過:
「昨年の暮れから急に痛くなって…最初は上でしたが、そのうち下も痛くなって…」
どんな痛みでしたか?
「最初は冷たいものがしみていましたが、そのうち熱いものもしみるようになりました」
(やっぱり歯髄炎か)最初にしみを感じたのはどの歯でした?
「前から2番目(2|)です」
何時ごろからですか?
「去年の10月頃に、虫歯の治療をしたあとからです」
もうここまで聞けば2|が、レジン充填後に歯髄炎を起こして末期症状であることが
想像できます。
2|をピンセットでたたいてみると飛び上がるような痛みが確認できたので、早速
抜髄して一件落着。
考察:
「上も下も痛くて何処が痛いのか分からない」の答えは歯髄炎であることがほとんどです。
通常は、誰の目にも明らかなカリエスが存在しますが治療後の歯髄炎では確認が容易では
ありません。しかし、痛みの経過や、状態・程度を聞いていくうちに診断がつくケースが
多いと思います。
「何処が痛いのか分からない」→→顔面神経痛?
"顔面神経痛"って有名な病名の割に結構珍しい疾患です。大学の口腔外科に勤務していた
頃は別にして、開業以来18年間一度もお目にかかったことがありません。
稀な疾患よりも、ありふれた疾患から検索する姿勢が必要ではないでしょうか。
感想:
顔面神経痛と診断した前の先生には申し訳ないけど、診断・処置とも簡単でした。
おまけに、必要以上に感謝されて気分は最高!!
初診時 パノラマ | 1年後 Dental写真 |
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|5に隣接面カリエス 20歳 女性 |
ちょっと痛くなった→抜髄 |
初診時口腔内およびX線所見:
口腔内清掃状態は比較的良好で、半埋伏状態の智歯周囲に歯肉の炎症が認められた。
口腔内の随所にC1〜C3程度のカリエスが認められた。
処置および経過:
主訴の智歯を上下・左右計4本抜歯するからわら、散在するカリエスの治療をおこなった。
|5のカリエス治療を行う寸前に来院が途絶えて1年経過。
|5の疼痛を訴えて来院されたが“時すでに遅し”で抜髄。
考察:
カリエスの進行は若年者ほど早いように思われるが、実際のデータとなると規格の統一が
難しく統計的手法で実証することはとても困難な作業です。
臨床症例の積み重ねすら難しい状況ですが、今後注意して探してみたいと思います。
ムシ歯があるにも関わらず意識して放置するわけにもいかず、患者さんの無断キャンセルと
再来をひたすら待つ因果なデータ収集です。
感想:
1年前に治療しておけば、抜髄の時期を10年は遅らすことができたのに!!?
初診時 パノラマ | |4567部 拡大 | |
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歯槽骨吸収は中程度で年齢の割には良好 51歳 男性 |
|7は歯髄に達するカリエス存在 |
初診時口腔内およびX線所見:
口腔清掃状態はやや不良。全体に中程度以上の歯槽骨吸収が認められたが、年齢の割には良好。
主訴の「56は、無髄歯で打診痛もなし。レントゲン診査により、|7に深いカリエスが認められた
が、打診痛や知覚過敏様の症状は認められなかった。
処置および経過:
「どこが痛いか分からない」という訴えであれば、当初より|7の歯髄炎を疑って治療
したはずであるが、どうしても「56と言い切るので、歯肉炎症による知覚過敏を疑って、全体の
スケーリングと、「56の徹底したスケーリングを行って初診時の治療を終了。
2日後、「下の知覚過敏は治まりましたが、今度は上の歯が痛くなってきました。」と来院。
当初より疑いのあった|7の抜髄を行い症状は改善。
考察:
無髄歯の知覚過敏は日常臨床で、それ程珍しいケースではない。歯石沈着に伴う歯肉の炎症や
根尖病巣が原因で『滲みる』と感じるものと思われる。
本症例において、以前から滲みていたのは無髄歯の「56であったと推測される。その滲みから
継続して痛みを感じるようになったために「56が痛いと感じるようになったのか、実際に「56が痛か
ったのかは不明である。|7も初診時から痛みがあったのか、スケーリング等の刺激により
たまたま翌日から痛みを発するようになったのかも不明のままである。
何れにしても、無髄歯が滲みるという事実と、上顎大臼歯部の歯髄炎は下顎の痛みと混同し
易い事実を十分把握しておく必要がある。
感想:
|7は、レントゲンでカリエスの存在を確信できる状態であったにも関わらず、肉眼での
所見では全くカリエスの存在が分からない歯でした。
初診時 パノラマ | 「6部 Dental写真 |
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年齢の割には歯周疾患の進行は軽度 52歳 男性 |
根管充填に不備はあるが根尖病巣はなし? |
初診時口腔内およびX線所見:
清掃状態は比較的良好で、歯周疾患の進行も年齢の割に軽度で抜髄した臼歯部の根管治療と
補綴物には問題はあるが、全体としては問題の少なそうな症例。
処置および経過:
無髄歯の「6が滲みるとの訴えで来院。周囲の「57ではないかと盛んに問いただし、診査するも
頑固に「6の知覚過敏を腫脹する。無髄歯でも周囲の歯肉炎により滲みることもあるので、全体
および局所のスケーリングを優先して行うかたわら、来院ごとに「57(ついでに6番も)に知覚過敏
薬を塗布。
元々歯石沈着が少なく、歯肉状態も良好であったが、歯周疾患初期治療終了時にも知覚過敏は
一向に良くならないと主張。レントゲン診査においても根尖病巣が確認できないので治療をためらっ
ていたが、「間違いなく「6番が滲みる」との訴えを受けてクラウンを除去して根管を行った。
根管治療に問題があっても根管口の自然閉鎖により根尖病巣に至らない症例もあるが、本症例
も根管内の所見は問題がないようにも思われた。しかし、根管治療後の来院時に、「やっと滲みが
止まりました」ということで一件落着。
考察:
無髄歯が滲みる→歯肉炎症・根尖病巣。
そのどちらにも該当しないような症例ではあったが、結論は根管治療の不備ということでした。
感想:
最後は患者さんの訴えを信じて根管治療で一件落着。信頼を失わなくて良かった!!