デンタルX線で語る      

歯周外科手術、HAPの臨床的意義 ・その後

は じ め に

華々しくデビューした人工骨(HAP)であったが時代の流れの中に埋没しそうな状況である。 HAP補填手術は、無意味な処置であったか?その末路は?あの症例は一体どうなったか。 そんな疑問にお答えするために、10年近くの年月を経た今、インターネットを通じて発表します。

※年齢は術時
非外科処置
外科処置(Fop+HAP)
症 例

同一部位で比較
術前数年

歯周疾患 第3段階

術 前
歯周疾患 第4段階
ここ数年における骨吸収の進行から推測して1〜2年後には自然脱落するものと思われる
術直後

Fop+HAP骨補填材を施行し、周囲の骨レベルまでHAPを補填する

術後数年
ある一定量のHAPの残留を認めると同時に基底部付近での骨造成が推測される
症例2

72歳・男性

術前4年4ヵ月
術直前(1986.6)
術直後
術後3年4ヵ月
その後

84歳(1997.4 現在)と高齢ではあるが、元気に散歩する姿を時々拝見する。 手術のおかげで義歯のお世話にならず、快適に食事ができるとのことである。
術後7年
術後10年(1995.11)
症例3

60歳・女性

術前3年6ヵ月
術直前(1985.7)
術直後
術後3年6ヵ月
その後

遠距離からの通院のため、3ヵ月毎のメインテナンス継続中。 腫脹等不快症状もなく、経過良好。
術後11年(1996.12)
症例6

44歳・男性

術前5年10ヵ月 「345
術直前(1987.4) 「234
術直後
術後3年
その後

術後9年目に根尖病巣と二次カリエスのため再治療。 決して良好な状態ではないが、手術の意義は十分あったと思われる。
術後9年(1996.6)
術後10年(1997.3)
症例7

44歳・男性

術前6年3ヵ月
術直前(1987.6)
術直後
術後3年
その後

症例6の反対側で術後8年目ころから度々腫脹を繰り返している。 アパタイトの排出と骨欠損の進行から再手術を検討中。
術後10年(1997.1)
症例8

38歳・女性

術前4年5ヵ月
術直前(1985.12)
術直後
術後4年3ヵ月
その後

術後6年目以降にアパタイト排出。 臨床症状・骨欠損進行伴になく、臨床経過は良好。
術後6年(1992.1)
術後11年(1996.2)


HAPを補填した部位に新生骨の造成が認められることを確認できるケースは、臨床上非常に 稀である。以下の症例は、偶然、隣在歯にトラブルが生じ、再び開窓する機会を得た貴重な症例 である。新生骨の確認を歓ぶ一方で、失敗の原因を十分に把握しなければならない。
症 例

術 前
術 後
再手術前
再手術中・後
症例19

59歳・男性

術直前(1986.6)

│45部に垂直性の骨欠損を認めたためFop施行。

術後4週(1986.7)
│4近心頬側部に薄い骨の残存を認めたが口蓋側にかけて根尖に至るクレーター状骨欠損を認めた。
術後1年(1987.7)

│6に骨欠損の進行が認められたので│6部Fopを決定。

再手術中(1987.7)
│4部において骨縁レベル以下に健全な新生骨の造成を認める。骨縁以下のHAPは掻爬により除去される。
その後

再術後6年目に二次カリエスのため│6は保存不可能と判断されたが、 本人の希望により処置することなく経過観察中。

再手術後3年(1990.5)
再手術後6年(1993.9)

お わ り に

 術後10以上を経過して、ほとんどの症例が良好な経過を得ている反面、術後6年を経過した 症例の中にアパタイトの排出や腫脹等の症状がみられるものがあります。 これは、元来生体の親和性が良好なはずのアパタイトが、その多孔質ゆえに様々な汚物が貯留し、 生体にとって“異物”と認識される状態に変化したためと思われる。

 そのような症例については、アパタイト補填はかえってマイナスであると思われるが、 根面処理そのものの効果により機能が保持されている事実は決して無視すべきではない。

近年、様々な根面処理方法を試行錯誤中であるが、これらの方法の中から歯槽骨再生に近ずく 手だてが生まれることを確信している。


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