象牙質知覚過敏症の原因については諸説あるが… 効果の認められる治療法から、そのメカニズムを推測するのも 一つの方法…by…… KAWADA Dental Clinic

歯周疾患を伴う象牙質知覚過敏症に対する
治療法とその治療効果


河田克之,大塚秀春,椿佳代子,渡辺和志,池田克巳



キーワード:歯周疾患,象牙質,知覚過敏

【はじめに】

 象牙質知覚過敏症は、歯周疾患の進行に伴い発現することが少なくない。また本症は、 単にプラークコントロールの妨げとなるのみならず、ときに歯周治療の障害となる。 従って象牙質知覚過敏症をコントロールすることは、歯周治療を行ううえで重要であり 従来からも多くの治療方法が試みられている。しかし、必ずしも十分な臨床効果が得られてはいない。

 今回は、象牙質知覚過敏症を訴える歯周疾患患者において、歯周治療の更なる臨床効果の改善を 目的として、下記の被験歯および試験方法に準じてその治療効果を検討したので報告する。


【被験歯および試験方法】

  1. 被験者および被験歯

    河田歯科医院を訪れ歯周疾患(歯周診査の結果成人性歯周炎と診断)に伴う象牙質知覚過敏症状 (ハブラシまたは爪楊枝等使用時での疼痛)を強く訴える歯、または本院で歯周疾患の改善にとも ない惹起してくるような上記症状の歯を対象とする。

     対象歯は歯周疾患の進行度がP1〜P3で、上記の疼痛を有し、本院にて@スケーリングおよび ルートプレーニングを中心に初期治療完了後の歯、またはA歯周治療の途中から上記症状の起こって くる歯,222本(患者:78名,男性:24名,女性:54名,年齢:21〜72歳)を被験歯とする。 但し、当該部位で齲蝕が認められる歯は除外。

  2. 方法,治療法および歯種については表1に示す通りである。

    治療法

    前歯

    小臼歯

    大臼歯


    消炎鎮痛剤投与群

     59 歯

     23 歯

     22 歯

    104 歯

    Nd:YAGレーザー照射群

     23 歯

     22 歯

     46 歯

     91 歯

    コーティング材塗布群

     19 歯

      2 歯

      6 歯

     27 歯


    101 歯

     47 歯

     74 歯

    222 歯


     
    a:消炎鎮痛剤投与群
     
    ジクロフェナク ナトリウム25mg*3錠/day(東和薬品)を5日間投与。
     
    b:Nd:YAGレーザー照射群
     
    連続波のNd:YAG CONTACT LASER(エス・エル・ティ・ジャパン社製)を使用し、 被験歯の象牙質露出部分をエアーシリンジで乾燥したのち、レーザー チップ先端を罹患部に 可及的にコンタクトした状態 で、出力2.0W,照射時間1秒,のち約0.5秒経過後再度 同一条件にて照射しこれを20回繰り返す。
     
    c:コーティング材塗布群
     
    被験歯の象牙質露出部分に対し、エッチング(EDTA水溶液),コンディショニング (10%NaClO,ヒポクロ水溶液),プライマー(HEMA/フェニルPプライマー)処理後、 UDMA系光重合レジン(日本歯科薬品)を塗布,重合。

  3. 知覚過敏度の診査方法
    エアーシリンジの圧搾空気を用いて、石川ら 参考文献;石川修二 1)。の方法に準じて行う。

    0度:まったく誘発痛がない。
    1度:軽い誘発痛がある。
    2度:強い誘発痛があるが耐えられる。
    3度:強い誘発痛があるが耐えられない。

  4. 治療効果の判定基準
     松本ら参考文献;松本光吉 他 2)。2)の効果判定基準に準じて行う。

    著効:知覚過敏度の診査において術前3度、2度と判定された症例が0度となる場合。
    有効:知覚過敏度の診査において術前3度が1度、2度が1度、1度が0度となる場合。
    無効:知覚過敏度が術前と不変の場合。
    増悪:治療により、さらに痛みが強くなる場合。


【結果】

 a:消炎鎮痛剤の5日間投与群


 b:Nd:YAGレーザー照射群


 c:Nd:YAGレーザー照射群


図1.消炎鎮痛剤の5日間投与群 図2.Nd:YAGレーザー照射群 図3.Nd:YAGレーザー照射群


【考察】

 象牙質知覚過敏症の予防や治療には、プラークコントロールが重要である。 反面、歯周治療は、歯根面のセメント質表層を障害、もしくは削除することが多く、ために 、象牙質知覚過敏症の発生が少なくない。これらは、歯髄神経線維の機能的変化と象牙質自体の 性状の変化が、象牙質知覚過敏症の発現に関与し、臨床症状を複雑なものにしている 参考文献;山本 寛 他 3)。ためとも考えられる。

 今回は、このような象牙質知覚過敏症に基ずく著しい疼痛の 速やかな改善が、歯周治療で求められる重要性に着目し、その処置法を検討したわけである。

すなわち、3種の上記治療方法を施した結果、消炎鎮痛剤投与は、再発も多いが広範囲の 知覚過敏に有効であること。また、レーザー照射は、平均2〜3回の照射で効果を発揮/ 所定の効果が得られるまでの繰り返し照射は可能である/するが象牙質の露出部分のない場合や 多数歯には不向きであること。また一方、コーティング材塗布は、再発も少なくより根本的な 治療といえるようであるが、1歯あたりの治療時間が長く部位によっては、 処置が不可能な場合もあるなど、難点も少なくないことが判った。


【まとめ】

 以上の治療観察結果から、上記の各治療法においては、およそ90%以上の有効性を認めている。 しかし、症例によってはこれらの治療法を組み合わせることにより、更に有効な処置法が 確立されるものと思われる。 現在、歯周治療によって惹起されやすい象牙質知覚過敏症の 適切な処置が求められているが、今回の臨床観察を介し有効な象牙質知覚過敏症の治療の一端を 指摘することができた。



第39回春期日本歯周病学会 1996年 4月25〜26日 
  東京・日本大学会館 アルカディア市ケ谷
  (抄)日本歯周病学会会誌 38(春期特別号):265-266 1996年 4月 


参考文献

  1. )石川修二:象牙質知覚過敏症に関する臨床的ならびに組織学的研究:日病誌,36(4), 278-298, 1969.

  2. )松本光吉,船井博雄,白須賀哲也,若林始:Nd:YAG-Laserによる歯頚部象牙質知覚過敏症の 除痛効果について,日歯保誌,28(2): 760-765, 1985.

  3. )山本寛,須田英明:歯の痛みの末梢機序と慢性痛−最近の知見を中心に−, Dental Diamond, Vol19 No258: 80-84, 1994.


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