歯周処置の予後とその考察
明海大学歯学部歯周病学講座
河田克之
Department of Periodontology, Meikai University School of Dentistry
Katsuyuki KAWADA
周知のように歯周疾患の治癒経過の差は、単に症状の進行度つまり歯周組織破壊の程度による
だけでなく、同じ個体のなかにあっても1つは歯の部位あるいは局所条件等の違いによっても
異なることは言うまでもない。
またそのほかに、患者の自己管理能やリコールへの態度等による影響も考えられる。
今回は、上述の諸点からみて歯周疾患の治癒経過の認められた症例を中心にその相違について
考察したので報告する。
【症例 1】(図1,2)
患者:30歳(初診時)、女性
初診:1982年 9月 3日
主訴:7」の疼痛
全身既往歴:特記事項なし
- 口腔内所見:
- 2」に歯列不正および早期接触が認められたほか、不良補綴物やカリエスが
随所に認められた。口腔清掃状態は不良で歯石の沈着と歯肉の発赤、腫脹が全顎に認められ、
局所に深い骨縁下ポッケトが存在した。
治療経過:
- 初診時
スケーリング、ルートプレーニング
87│
6 │ 抜歯
│2
│567 感染根管治療
21│ 抜髄、MTM、咬合調整
- 8年後
│4567抜髄、歯肉掻爬剥離手術+人工骨移植
- メインテナンス
当初の2年間は、月1回のリコールに応ぜず、年1〜2回の来院に留まったが、
その後は担当医の指導と本人の疾患に対する認識が得られ、月1回のリコールにも積極的に
応じるようになり初診より11年経過した現在経過は良好である。
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図1.初診時 1982年9月3日
21│抜髄、MTM、咬合調整、連結固定 |
図2.術後11年 1993年2月3日
メインテナンス中、経過良好 |
【症例 2】(図3,4)
患者:46歳(初診時)、男性
初診:1983年 6月30日
主訴:4」の腫脹と疼痛
全身既往歴:特記事項なし
- 口腔内所見:
- 4」に深い骨縁下ポッケトと歯肉の腫脹が認められたが、ほかの部位の歯肉に
異常は認められなかった。
口腔清掃状態は比較的良好で、全歯に咬耗が認められたが咬合診査の結果外傷性咬合は
認められなかった。
治療経過:
- 初診時
スケーリング
4│ 抜歯
- 3年後
653│ 抜髄、歯肉掻爬剥離手術+人工骨移植
- 4年後
「6 歯肉掻爬剥離手術+人工骨移植
- 7年後
「6 歯周疾患進行により抜歯
- 4年後
76│ 抜髄、歯肉掻爬剥離手術+人工骨移植
- メインテナンス
症例1と同様当初は、リコールに応じなかったが、プラークコントロールの重要性を認識したのちは
1ヵ月リコールも定着し、初診より10年経過した現在手術部を含め経過は良好である。
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図3.初診時 1983年6月30日
4│抜歯、653│抜髄の上Fop施行 |
図4.7年後 1990年8月16日
「6 抜歯(Fop術後3年、予後不良) |
【考察】
今回の症例はいずれも当初メインテナンスの重要性が理解されず、それがためにリコールにも
応ぜず疾患が更に進行したものと考えられるが、その後担当医の更なる指導によって
セルフコントロールの意義を認識しリコールに対応できるようになり歯周組織の健康維持が
果たされている。
一方そのなかにあって手術を行わなかった【症例1】の2」と、手術を行った
【症例2】の653│がいずれも良好な結果を得ている反面、
【症例2】の「6が術後3年で抜歯に至った事実に注目している。
今回の症例において同一口腔内で歯周疾患の予後に差が認められる理由の1つに歯髄の有無による
歯質の相違等による影響が考えられる。今回はこの点についても併せて考察し報告したい。
第37回春期日本歯周病学会 1994年 4月21〜22日
仙台市民会館
(抄)日本歯周病学会会誌 36(春期特別号):159 1994年 4月