“インプラント”が人工臓器(人工歯根)の移植であるのに対し、
歯牙移植は天然臓器の移植です。腎臓移植や肝臓移植の場合、臓器の提供は他人の臓器に限られます
が、歯の場合自分の歯を別の場所に植える(自家移植)もあります。
歯牙移植の歴史は古くナポレオンが部下の歯を植えたとの逸話もあります。
腎臓や肝臓ほど精密な機能を要求されないだけ成功率が高く(ほぼ100%)、試してみるには
十分ですが、研究は不十分で長期間の使用には疑問が残ります。
実際の症例としては、交通事故などにより脱落した歯を元の場所に植える再植や、
歯根完成前の親知らずなどを他の場所に移植する方法、また年を取ってからでも別の歯を必要な
場所に植え替える自家移植と、冷凍保存した他人の歯を植える他家移植などがあります。
移植した歯は、1〜2カ月の暫間固定期間を経て最終的な補綴物による固定を行います。
この時期に於ける成功率はほぼ100%で、全く新しく自分の歯が生えたのと
同様非常に満足すべき結果が得られます。
ところが、運命は3〜5年後に決定されます。
勿論10年以上正常に機能する場合もありますが、ほとんどの歯が5年ほどすると度重なる腫脹と伴に
使用不可能になります。そうなればまた新たに植え替えることは可能ですが、5年サイクルはお互い
にとって結構しんどいものがあります。
10年以上保つ歯と保たない歯。その違いに関する研究が不十分なのです。
学問的には、歯周疾患罹患歯が移植に適していないことが解っているくらいでそれ以上の
データがありません。
当院の長年の経験から移植歯は、
若い歯よりも案外年を取った歯の方が良好な結果が得られます。
ただし年を取って健全な移植歯は常識的にもほとんど提供がありません。